目次
生ける伝説・中田功八段のコーヤン流
「コーヤン流三間飛車の極意 急戦編・持久戦編」のひとくちレビューをお送りします。
本書は、2003年3月に発売された「コーヤン流三間飛車の極意 急戦編」と、同年4月に発売された「コーヤン流三間飛車の極意 持久戦編」が合本された一冊です。
私は当時両方購入して今も所有しています。
著者は中田功八段。「功」は「いさお」と読みますが、愛称をとって「コーヤン流」と名付けられています。
手に取りやすくなったプレミアムブックス版
2冊が合本されたこのプレミアムブックス版が発売される前は、急戦編、持久戦編ともにプレミアムが付いてそれぞれ定価の数倍の価格で古本が売られていたと記憶しています。
それが、プレミアムブックス版発売のおかげでお求めやすくなりました。それぞれの古本の値段も落ち着いています。
Kindle版にいたっては、Kindle Unlimited対象になっている(2020年12月時点)ためKindle Unlimited会員ならば無料で読めるという破格の状態となっています。
本書の目次
本書の目次は以下の通りです。
本書の目次
第1部 コーヤン流三間飛車の極意 急戦編
第1章 コーヤン流三間飛車の駒組みと特徴
第2章 居飛車超急戦の戦い方
第3章 居飛車急戦の攻防
第4章 居飛車3五歩急戦策
第5章 居飛車ナナメ棒銀
第6章 コーヤン流実戦編
第2部 コーヤン流三間飛車の極意 持久戦編
第1章 コーヤン流の狙いと特徴
第2章 コーヤン流対左美濃
第3章 対居飛車穴熊後手6四銀型
第4章 対居飛車穴熊後手4四歩型
第5章 対居飛車穴熊後手4二角型
第6章 穴熊囲いを寄せるテクニック
第7章 コーヤン流実戦編
急戦編
第1部の急戦編では、居飛車急戦に対するコーヤン流の戦術を解説しています。すべて三間飛車が後手となっています。
端歩を重視
コーヤン流の居飛車急戦対策は△4二銀・△5四歩型ですが、これはコーヤン流に限らず昭和から平成初期の居飛車急戦に対する三間飛車の最もポピュラーな待ち受け方でもあります(参考1図)。
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「▲5七銀左型急戦」とは、先手居飛車急戦VS後手ノーマル三間飛車で、居飛車が船囲い▲5七銀左型に組んだあと4筋から仕掛けていく急戦定跡です。定跡書により呼び方は様々ですが、本ブログでは「三間飛車道場〈第3巻〉急戦」での呼び方である「▲5七銀左型急戦」にあわせます。
では対急戦のコーヤン流は面白みがないのかというとそうではなく、「玉側の端歩を重視する」というこだわりを持っています。
例えば、対居飛車超急戦(▲4五歩早仕掛け)は、参考2図が定跡形です。
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VS急戦の基礎知識 ▲4五歩早仕掛けとは
「▲4五歩早仕掛け」とは、先手居飛車VS後手三間飛車で、▲7九銀型船囲いから右桂を跳ねる前に▲4五歩と仕掛けていく急戦定跡です。定跡書により呼び方は様々ですが、本ブログでは「三間飛車道場〈第3巻〉急戦」での呼び方である「▲4五歩早仕掛け」にあわせます。
しかしコーヤン流ではこの超急戦に対し、玉側の端歩を優先した、少し異なる布陣で待ち構えます。本書ではその戦術が解説されています。
一周回って新鮮な△4二銀・△5四歩型
そもそもプロの実戦や解説書で△4三銀・△5三歩型三間飛車が当たり前になっている昨今、対居飛車急戦の△4二銀・△5四歩型の解説がありきたりでつまらないと思う人は皆無かもしれません。
一周回って新鮮な攻防が楽しめるのではないかと思います。
実戦編では、大野八一雄五段、真田圭一四段、屋敷伸之七段(段位はいずれも当時)との対局が解説されています。
持久戦編
第2部の持久戦編では、居飛車持久戦(左美濃と居飛車穴熊)に対するコーヤン流の戦術を解説しています。すべて三間飛車が先手となっています。
▲5七銀型が最大の特徴
対持久戦のコーヤン流三間飛車の特徴は、なんといっても▲5七銀型です(参考3図)。
プロの実戦で、中田功八段だけが何十局も指しているようなテーマ図もあります。
この▲5七銀型で、居飛車穴熊の△6四銀型(参考4図)や△4二角型(参考5図)などに対抗する、体系化された戦術が解説されています。
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「コーヤン流」とは、ノーマル三間飛車の伝説の棋書「コーヤン流三間飛車の極意」(中田功七段 著)によってその名が爆発的に普及した、主に対居飛車穴熊の戦術です。「島ノート 振り飛車編」(島朗九段 著)の命名で「中田功XP」とも呼ばれています。
また、対左美濃の章では、真部流(参考6図)での戦い方も解説されています。
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VS居飛車穴熊の基礎知識 真部流とは
対居飛車穴熊の作戦の中で最も美しい布陣、それが「真部流」です。故・真部一男九段が愛用していたためこの名が付いた、とされています。居飛車側が四枚穴熊に組むのをあえて阻止せず、目一杯穴熊囲いに手数をかけさせます。その代わりに、三間飛車側は4筋の位をとって▲5七銀型から▲4六銀と上がり、4筋位取り「四枚」美濃囲いを目指す構想です。
ためになる穴熊崩しのテクニック
級位者の方にとっては、第6章の「穴熊囲いを寄せるテクニック」が最もためになるかもしれません。
中盤戦までは押しているのに、終盤戦で居飛車穴熊相手に攻めの手掛かりをつかめず逆転負けすることもあるのではないかと思いますが、この章では、居飛穴の金銀の連結を断ち切って攻略する手筋を学ぶことができます。
実戦編では、先崎学五段、堀口一史座五段、上野裕和四段、室岡克彦七段(段位はいずれも当時)との対局が解説されています。
▲5七銀型三間飛車を指したい人は必見
急戦編と持久戦編が合本され、お買い得な価格となった「コーヤン流三間飛車の極意 急戦編・持久戦編」。
序盤は▲6八銀・▲5六歩型で居飛車急戦を待ち受け、居飛車が持久戦を選択した場合は▲5七銀型で立ち向かう、今流行りの▲6七銀型とは一味違う戦術を指したい方は必見です。
関連棋書
▲5七銀型を解説する棋書としては、他に以下の例が挙げられます。
所司 和晴 毎日コミュニケーションズ 2004-06
鈴木 大介 毎日コミュニケーションズ 2009-04-24
前者は解説が比較的少な目で手順を詰め込んだ一冊、後者はコーヤン流とはまたさらに一味違う▲5七銀型三間飛車を学べる一冊です。
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「鈴木大介の将棋 三間飛車編」のひとくちレビューをお送りします。この棋書は10年以上前に発売された棋書ですが、他の三間飛車の棋書にはあまり載っていない戦術・戦法を解説していてオリジナリティがあります。具体的には、後手番での△5三銀型三間飛車の戦術を解説しています。
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