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昭和時代がたどり着いた急戦定跡の最終形
「▲5七銀左型急戦」とは、先手居飛車急戦VS後手ノーマル三間飛車で、居飛車が船囲い▲5七銀左型に組んだあと4筋から仕掛けていく急戦定跡です(第1図)。
後手の飛車は3二から2二に振り直しています。
定跡書により呼び方は様々ですが、本ブログでは「三間飛車道場〈第3巻〉急戦」での呼び方である「▲5七銀左型急戦」にあわせます。
なお、昭和の代表的急戦定跡にはもうひとつ「▲4五歩早仕掛け」(参考1図。こちらも「三間飛車道場〈第3巻〉急戦」での呼び方)があります。
こちらについては下記記事を参照ください。
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VS急戦の基礎知識 ▲4五歩早仕掛けとは
「▲4五歩早仕掛け」とは、先手居飛車VS後手三間飛車で、▲7九銀型船囲いから右桂を跳ねる前に▲4五歩と仕掛けていく急戦定跡です。定跡書により呼び方は様々ですが、本ブログでは「三間飛車道場〈第3巻〉急戦」での呼び方である「▲4五歩早仕掛け」にあわせます。
急戦定跡の歴史
▲5七銀左型急戦の紹介に入る前に、昭和の急戦定跡の遷移についてごくかんたんに紹介します。
先手居飛車急戦VS後手三間飛車の戦いの歴史はもちろん長く、居飛車側も振り飛車側も最善の攻め方、最善の待ち方を模索しながら定跡は進化していきました。
居飛車側は▲7九銀型/▲6八銀型/▲5七銀左型、振り飛車側は△4三銀型/△4二銀型/△5三銀型など、様々な組み合わせが試されてきました(参考2図、参考3図)。
その中で双方最善の形としてたどり着いたのが、先手▲5七銀左型急戦VS後手△4二銀+△2二飛型(再掲載第1図)だったのです。
2通りの受け方
第1図の三間飛車側の布陣の特徴として、以下があげられます。
POINT
- △2二飛と回って2筋の攻めを先受けしている
- △4二銀型で待機し、角交換に対し△3三同銀とも取れるようにしている。また、△3三同桂のときの▲3一角打を消している
第1図から▲6八金直などとしてもう一手待つと△6三金と上がられ、居飛車は仕掛けが難しくなります。
しかし単純に▲4五歩としても普通に△同歩とされ手がありません。以下▲3三角成には△同桂、▲5五歩には△同角!(または△4三金)があります。
そこで第1図からは先に▲5五歩とし、以下△同歩▲4五歩△5三銀▲4六銀(第2図)と進むのが定跡手順です。
ここで△5六歩または△5四銀の2通りの受け方があり、いずれも激戦となります。以下の定跡については、文末に載せた参考棋書などを参照ください。
泣き虫しょったんVSコーヤン流
平成に入ってからは実戦例の乏しい▲5七銀左急戦ですが、映画「泣き虫しょったんの奇跡」が最近公開になったことで話題の瀬川晶司五段は、プロ入り後の2戦目でこの作戦を採用しています。
2006年1月に行われた第19期竜王戦で、相手は三間飛車党のレジェンド・中田功七段でした。
その将棋は第2図から△5四銀▲5五銀△同銀▲同角△4三金▲4四歩△同金▲6四角(第3図)と進行。
中田功七段は第2図から△5四銀を推奨しており、本譜も定跡手順のうちのひとつです。
このあと瀬川四段(当時)に悪手が出て、以下中田功七段は持ち時間の約半分しか消費せず、快勝。プロ入り後初戦に勝利していた瀬川四段にとって、はじめて味わうプロの洗礼でした。
裏街道の定跡
現在ノーマル三間飛車がプロ棋界で流行中とはいえ、▲5七銀左型急戦の定跡が現れるためには、以下の条件がそろう必要がありますが、なかなか難しそうです。
POINT
- 三間飛車側が△4二銀型で保留(現在は早めに△4三銀を決めるのが主流)
- 居飛車が急戦志向を示す(現在は穴熊などの持久戦志向が主流)
- 居飛車が船囲いに構える(現在は急戦志向でも▲7九玉型左美濃が主流)
したがって、今後もこの定跡が見られることはごくまれでしょう。
ところで、「最近は序盤ですぐに△4三銀を決めるけど、△4三銀型で昭和の急戦定跡を受け止められるの?」という疑問もあるかと思います。これについてはいずれ別の記事で紹介するかもしれません。
関連棋書
所司 和晴 毎日コミュニケーションズ 2004-10
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