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居玉+△4三銀型三間飛車の総合戦術
「三間飛車藤井システム」とは、居玉のまま駒組みを進める、△4三銀型ノーマル三間飛車の総合戦術です(第1図)。
もともとは居飛車穴熊対策として誕生しましたが、居飛車側の戦術の多様化にともない、対急戦、対左美濃などを含んだ総合的なシステムとして体系化されました。
後手番でも主導権を握って戦うことを狙って生まれた戦術ですが、先手番で用いることもできます。実際、2019年2月24-25日に行われた第68期王将戦七番勝負第4局、▲久保利明王将 対 △渡辺明棋王戦(段位は当時)にて、久保王将が先手番で三間飛車藤井システムを採用しました。
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2019年2月24日に開始した、第68期王将戦七番勝負第4局(二日制)、▲久保利明王将 対 △渡辺明棋王戦。三連敗で後がない久保利明王将は、この第4局で本シリーズ初の三間飛車を採用。その後三間飛車藤井システムの布陣に構えました。
三間飛車藤井システムは、20世紀末に現れた四間飛車藤井システム(参考1図)をベースにしています。
が、飛車や銀の使い方が異なっていたり、雁木やトマホークに組み替える戦術を含んでたりするのが三間飛車藤井システムならではの特徴です。
システム誕生の経緯
三間飛車藤井システムの第1号局は、2009年8月に放送されたNHK杯テレビ将棋トーナメント、▲佐藤天彦五段 対 △久保利明棋王戦(段位は当時)と言われています(第3図)。
この対局で久保棋王が勝利したものの、このような居玉+△4三銀型三間飛車の構想が流行することはありませんでした。
その後、2016年頃杉本昌隆七段(藤井聡太七段の師匠)が何局か指しているのを見た佐藤和俊六段が研究と実戦を重ね、「三間飛車藤井システム」として体系化しました。
佐藤六段が初めて採用したのは、2015年7月に行われた第74期順位戦C級2組、対遠山雄亮五段(当時)戦とされています。
NHK杯での躍進
佐藤和俊六段は2016年度の第66回NHK杯テレビ将棋トーナメントにて、2回戦の屋敷伸之九段戦(第4図)、3回戦の羽生善治三冠戦(第5図。段位は当時)、準決勝の橋本崇載八段戦(第6図)、そして決勝の佐藤康光九段戦(第7図)で三間飛車藤井システムを採用し、準優勝という華々しい結果を残しました。
これらの棋譜はすべて、NHK杯テレビ将棋トーナメントのWebサイトで観ることができます(2019年時点)。
三間飛車システムの特徴
三間飛車藤井システムの主な特徴を挙げると、以下の通りです。
POINT
- 居玉をキープ
- △4三銀型
- 陽動居飛車と端攻め
- 居飛車の動きを見てから形を決める
居玉をキープ
三間飛車藤井システムでは、玉の移動をぎりぎりまで保留します。戦法名に「藤井システム」が入るのもこのためと言えます。対急戦でなければ玉の移動よりも端攻めをにらんだ陣形整備の方が先決、という思想です。
一方で、居飛車が急戦を仕掛けてくるとわかると一目散に玉を囲いに行きます。
斜め棒銀による3筋の攻め(第8図)に対しては、四間飛車のように△3二飛と寄って受ける一手が不要なので、十二分に対応できます。
それに対し▲4六歩からの4筋の攻め(第9図)に対しては忙しい戦いとなりますが、居飛車の陣形に応じて、4筋を受ける△4二飛から△3二金や2筋を受ける△2二飛などで対応して十分に戦える、とされています。
△4三銀型
四間飛車にはない三間飛車の特徴として、△5三銀型に組める、という点が挙げられますが、三間飛車藤井システムの特徴は左右のバランス重視で△4三銀型であることです。
なお、△5三銀型から端攻めを狙っていく構想としては中田功八段の「コーヤン流(中田功XP)」が有名です(参考2図)。
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「コーヤン流」とは、ノーマル三間飛車の伝説の棋書「コーヤン流三間飛車の極意」(中田功七段 著)によってその名が爆発的に普及した、主に対居飛車穴熊の戦術です。「島ノート 振り飛車編」(島朗九段 著)の命名で「中田功XP」とも呼ばれています。
△4三銀型であることは四間飛車藤井システムと共通の特徴ですが、四間飛車藤井システムではこの左銀を攻めに活用するのに比べ、三間飛車藤井システムではトマホークへの変化を除き左銀は専ら守備駒として使います。反対に、右銀は専ら攻撃用途となります。
陽動居飛車と端攻め
四間飛車藤井システムでは4筋から飛車を動かさず、△4六歩からの飛車の縦の活用を見せて相手をけん制する一方で、三間飛車藤井システムでは3筋に飛車がいてもあまり働かないため積極的に飛車を振り直す「陽動居飛車」で相手をかく乱します。
藤井システムなので端攻めが特徴なのはもちろんですが、いわゆる「一間飛車」を組み合わせた端攻めのバリエーションがあるのが三間飛車藤井システムならではです(第10図)。
居飛車の動きを見てから形を決める
ここまで見てきた通り、三間飛車藤井システムは居飛車側の動きに応じて大きく姿を変えます。他にも、5筋不突き居飛車穴熊に対する居玉トマホーク(第11図)、銀冠穴熊に対する地下鉄飛車(第12図)なども戦術に含みます。
正直なところ、石田流への組み替えも含め、△4三銀型三間飛車の戦術ならばなんでも取り入れられるのが三間飛車藤井システムの強みです。
三間飛車藤井システムの戦術書
三間飛車藤井システムを解説する棋書といえば、なんといっても「緩急自在の新戦法!三間飛車藤井システム」(佐藤和俊六段 著)でしょう。
対居飛車穴熊、対急戦、対左美濃を網羅的に解説し、かつ羽生三冠(当時)戦や2018年度絶好調の若手強豪・佐々木大地四段戦など4局の自戦記も含む、296ページの大ボリュームの棋書となっています。
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三間飛車藤井システムの戦術書が、ついに発売されることがわかりました。発売日は2018年9月12日。著者はもちろん佐藤和俊六段です。佐藤和俊六段は、2016年度の第66回NHK杯テレビ将棋トーナメントで、後手番でこの三間飛車藤井システムを駆使し、羽生善治三冠(当時)を含む名だたる強豪を連破して準優勝しました。この戦術の屈指の使い手です。
変幻自在の居玉+△4三銀型三間飛車
居飛車側の動きに応じて大きく姿を変える、変幻自在の三間飛車藤井システム。△4三銀型三間飛車のいいとこ取りをした欲張りな戦術とも言えます。
指しこなすのは大変ですが、陽動居飛車を含むいろいろな形を指すことができる、楽しくかつ有力な総合戦術です。
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