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第49回は「△3三金型早繰り銀」が受賞
2022年4月に発表された第49回将棋大賞にて、△3三金型早繰り銀(参考1図)が升田幸三賞を受賞しました。
受賞者は千田翔太七段。千田七段は、第44回での「対矢倉左美濃急戦」「角換わり腰掛け銀4二玉・6二金・8一飛型」以来の2度目の受賞です。おめでとうございます。
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第49回将棋大賞受賞者のお知らせ|将棋ニュース|日本将棋連盟
日本将棋連盟の第49回将棋大賞受賞者のお知らせのページです。日本将棋連盟は伝統文化としての将棋の普及発展と技術向上や将棋を通じた交流親善などを目的とした公益社団法...
△3三金型早繰り銀は、昨年この戦法を解説する棋書がリリースされています(著者は千田七段ではなく千葉幸生七段)。
今回、四間飛車ミレニアム、三間飛車ミレニアムを総称して振り飛車ミレニアム(振りミレ)が受賞する可能性もあるか、と思っていましたが、時期尚早だったようです。
来年以降受賞するかどうかは、振り飛車党の振りミレ採用数と結果(活躍)次第でしょう。
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久保九段、永瀬王座の居飛車穴熊に三間飛車ミレニアムで対抗 王座戦
2020年9月24日、五番勝負の第3局が行われました。久保九段は第1局で四間飛車ミレニアム、第2局でゴキゲン中飛車を採用。そしてこの第3局で、ついに三間飛車を採用しました。角道を早々に止める、ノーマル三間飛車です。
升田幸三賞とは
升田幸三賞とは、「升田式石田流」(参考2図)をはじめ「新手一生」を掲げて数々のイノベーションを起こした升田幸三 実力制第四代名人を讃えてその名が付けられた賞です。
新手・新構想を初披露または一流の戦術に昇華させ、定跡の進歩に貢献した者に与えられます。
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石田流の基礎知識 升田式石田流とは
「升田式石田流」は、その名の通り升田幸三実力制第4代名人が編み出した石田流の布陣です。升田式石田流の駒組みの特徴として、下記が挙げられます。「角交換型」「▲6六歩はできるだけ保留」「▲7八金型」
過去の代表的な升田幸三賞の受賞者および受賞戦法としては、例えば以下が挙げられます。
升田幸三賞の代表例
第24回 藤井猛九段「四間飛車藤井システム」
第26回 中座真七段「横歩取り△8五飛戦法(中座飛車)」
第29回 近藤正和七段「ゴキゲン中飛車」
歴代のすべての受賞来歴については、以下のWebページを参照ください。
三間飛車、石田流関連の受賞例
三間飛車、石田流関連の受賞例としては、以下が挙げられます。
立石流四間飛車(立石式石田流)
第31回 立石勝巳アマ「立石流四間飛車(立石式石田流)」(参考3図) ※特別賞
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石田流の基礎知識 立石式石田流(立石流四間飛車)とは
「立石式石田流」は、アマ強豪・立石勝己氏が編み出した石田流構想です。一般的には「立石流四間飛車」と呼ばれていますが、「真・石田伝説 (マイナビ将棋文庫)」 にて、「立石式石田流」と紹介されています。本記事でも、この立石式石田流という名称を用います。
新・石田流(7手目▲7四歩)
第32回 鈴木大介九段「新・石田流(7手目▲7四歩)」(参考4図)
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石田流の基礎知識 新・石田流とは
「新・石田流」とは、鈴木大介八段が考案した7手目▲7四歩からの一連の新構想に付けられた呼び名です。「鈴木新手」や「鈴木流急戦」とも呼ばれます。第32回(2005年)升田幸三賞に輝きました。
2手目△3二飛
第35回 今泉健司四段「2手目△3二飛」(参考5図) ※受賞当時は奨励会三段
久保流急戦
第36回 久保利明九段「11手目▲7五飛(久保流急戦)」(参考6図)
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石田流の基礎知識 久保流急戦(久保新手▲7五飛)とは
久保流急戦とは、2009年に行われた第34期棋王戦五番勝負第2局、▲久保利明八段 対 △佐藤康光棋王(段位は当時)戦で、久保八段が披露した新手▲7五飛、およびその後の一連の構想です。この新手で、久保八段は第36回升田幸三賞を受賞しました。
中飛車左穴熊、早石田などでの新工夫
第42回 菅井竜也八段「中飛車左穴熊やゴキゲン中飛車、早石田など数々の戦法における新工夫に対して」
この受賞はあまりにも手合い違いで、中飛車左穴熊における飛車の2筋振り戻し(参考7図)、早石田での7手目▲7六飛(参考8図)などなど、菅井八段によるこれまでの様々な創意工夫がひとつにまとめられて受賞しました。
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相振り飛車の基礎知識 中飛車左穴熊とは
「中飛車左穴熊」とは、穴熊を右辺ではなく左辺に構える中飛車戦法です。「左」を付けない「中飛車穴熊」の場合、昔からよく知られている、穴熊を右辺に構える中飛車戦法を指すので、これと区別するため中飛車「左」穴熊と呼ばれています。
「ヘンな形」が増えてくる?
人間がまれに指していたものの流行せず、永い年月を経たあとに将棋AIが火付け役となり流行した「角換わり腰掛け銀4二玉・6二金・8一飛型」や「エルモ囲い」(参考9図。過去に対中飛車でたまに採用されていました)は、人間にとって比較的馴染みやすいものでした。
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エルモ囲いが第47回升田幸三賞を受賞
2020年4月1日、第47回将棋大賞の各賞が発表され、エルモ囲いが升田幸三賞を受賞しました。「エルモ囲い」は、コンピュータ将棋ソフトの「elmo」が2017年頃から好んで採用したことで、その名が付きました。賞金は、elmoの開発者である滝沢誠氏に贈られました。おめでとうございます。
将棋AI発の「対矢倉左美濃急戦」も、既存の形の新たな組み合わせ(居角左美濃+腰掛け銀+(右四間飛車ではなく)居飛車)なので同様です。
しかし「△3三金型腰掛け銀」は相当違和感のある形です(でした)。
第71期ALSOK杯王将戦七番勝負における藤井聡太五冠の▲8六歩も、当初違和感しかありませんでしたが、現在流行の兆しを見せています。
スポニチ Sponichi Annex
藤井の8六歩 新王将が生み出す令和のトレンド ディフェンスライン押し上げ、数的優位つくる - スポニチ S...
新王将となった藤井聡太竜王は毎年8割以上の勝率を残し、今年度は全8冠中、出場した5つのタイトル戦でも18勝3敗と圧倒する。渡辺明前王将に7勝0敗、豊島将之九段に11勝3...
これらの形は、たとえ「あり得ない形ではない」と薄々気付いていたとしても、通説や棋理に反しているため、強いコンピュータ将棋ソフト誕生以前は誰も研究しようとは思わなかったでしょう。
ところが、時代は変わりました。人間にとって違和感のある「ヘンな形」が意外にも互角であることを、将棋AIが手軽に示してくれます。これにより、人間は自信を持って研究を進めることができるようになりました。
今後もこのような「ヘンな新手・新構想」が登場し、升田幸三賞を受賞していくことでしょう。
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