目次
「新手白書」シリーズ第3弾
「令和新手白書【角交換振り飛車・相振り飛車編】」のひとくちレビューをお送りします。
本書は「平成新手白書【居飛車編】」、「令和新手白書【振り飛車編】」と続く「新手白書」シリーズの第3弾です。
居飛車編リリース後に年号が平成から令和に変わり、それにあわせてメインタイトルが変わったのがご愛敬ポイント。あとがきによると、この3冊目でシリーズは完結となるようです。実際のところ、この3冊ですべての戦型が網羅されています。
筆者は片上大輔七段。史上初の東京大学卒のプロ棋士であり、新手・戦術を体系的にまとめることのうまさと、各テーマに対する総括のキレの良さを感じました。とりわけ第3章「角交換振り飛車(応用編)」のラストの2ページ(作戦的な意義のまとめ)は秀逸です。
その前に 振り飛車編について
「角交換振り飛車・相振り飛車編」のレビューの前に、本書の約1年3ヶ月前(2019年12月)にリリースされた「振り飛車編」について少し紹介しておきます。
発売直後に購入して一気に読んだ「振り飛車編」でしたが、最後に「えっ?終わり?」となりました。なぜかというと、個人的に関心が高かった角交換型の解説がないまま終わってしまったからです。
読んだのが電子書籍なので、全体のどの辺を読んでいるのかの意識が薄く(一方紙だと常に直感的に意識できる)、間もなく終わることに気付いていなかったことが背景にあります。
タイトルは「振り飛車編」ではなく「ノーマル振り飛車編」にして、取り上げるテーマの範囲をまえがきや冒頭の「本書の概要」に載せるすべきだったと強く思います。ちなみに、2020年11月に同時リリースされた菅井竜也八段の実戦集2冊は、ちゃんと「ノーマル振り飛車編」と「角交換振り飛車編」というタイトルになっています。そうしなかったのは、おそらく「全振り飛車党に興味を持ってもらいたい」という大人の事情があったのでしょう。
ノーマル振り飛車の棋書という前提をおけば、良著でした。
本書の目次
気を取り直して、2021年2月にリリースされたのが、この「角交換振り飛車・相振り飛車編」です。
本書の目次は以下の通り。
本書の目次
第1章 角交換振り飛車(前編)基本の3三銀型
テーマ1 逆棒銀
テーマ2 藤井新手△3一金
テーマ3 ダイレクト向かい飛車
第2章 角交換振り飛車(後編)技の3三桂型
テーマ1 2手目3二飛戦法
テーマ2 3二飛戦法リターンズ
テーマ3 3三角戦法
テーマ4 角交換振り飛車封じ
第3章 角交換振り飛車(応用編)
テーマ1 玉頭位取り
テーマ2 筋違い角
テーマ3 地下鉄飛車
テーマ4 3三金型三間飛車
第4章 相振り飛車
テーマ1 向かい飛車VS三間飛車(1)菅井流
テーマ2 向かい飛車VS三間飛車(2)里見流
テーマ3 相三間飛車(1)一手損角換わり
テーマ4 相三間飛車(2)相金無双
テーマ5 中飛車VS三間飛車
このほかに、コラムが2つあります(いずれも「将棋めし」ネタ)。
ダイレクト向飛車(参考1図)をはじめ、角交換振り飛車系はすべて網羅していると言えるでしょう。
ただし角頭歩戦法はもはや奇襲戦法枠だからか載っていないようです。
菅井流(阪田流)、うっかり三間飛車も
三間飛車党にとって対抗形の注目テーマは、第2章のテーマ1「2手目3二飛戦法」、テーマ2「3二飛戦法リターンズ」、そして第3章のテーマ4「3三金型三間飛車」の3テーマでしょう。
「2手目3二飛戦法」、「3二飛戦法リターンズ」では、その名の通り2手目△3二飛戦法をはじめ、4手目△3二飛や6手目△3二飛(参考2図。いわゆる「うっかり三間飛車」)の成り立ちが詳しく解説されています。
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角交換三間飛車の基礎知識 2手目△3二飛戦法とは
「2手目△3二飛戦法」とは、初手▲7六歩に対し2手目△3二飛として、後手番で手損せず石田流に組んだり、角道オープンのまま進めて先手の駒組みをけん制したりする狙いを持った三間飛車戦法です。
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角交換三間飛車の基礎知識 うっかり三間飛車とは
「うっかり三間飛車」とは、菅井竜也七段(当時)が2017年に披露した▲5六歩型(△5四歩型)の三間飛車です。第58期王位戦七番勝負、羽生善治王位 対 菅井七段戦で3局も現れたことで、一躍注目戦法となりました。
そして「3三金型三間飛車」では、△3三金型の菅井流三間飛車(参考3図。いわゆる「阪田流三間飛車」)や角交換しないタイプの△3三金型三間飛車の成り立ちが解説されています。
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角交換三間飛車の基礎知識 菅井流三間飛車とは
「菅井流三間飛車」とは、△3三金型の角交換三間飛車です。初手から▲2六歩△3四歩▲2五歩△3三角▲7六歩△3二金▲3三角成△同金と進む、阪田流向かい飛車を思わせる出だしから、飛車を2二ではなくまさかの3二に移動します。
すべてが密接に関わっている角交換振り飛車
とはいえ、三間飛車でスタートする上記だけを読めば三間飛車党にとって十分というわけではありません。角交換後に向かい飛車に振り直して他の角交換振り飛車に合流することも非常に多いため、すべての解説に目を通しておく必要があります。
とりわけ第3章のテーマ3「地下鉄飛車」(参考4図)は居飛車の最新の戦術です。
これがプロ棋士の目線で解説されていることはとても貴重であり、ぜひとも読んでおくべきでしょう。
相振り飛車も
本書は相振り飛車が解説されていることもグッドポイント。目次の通り、菅井流(参考5図)、里見流(参考6図)をはじめ、相振り飛車のテーマ5つすべてに三間飛車が絡んでいます。
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相振り飛車の基礎知識 菅井流三間飛車とは
相振り飛車での「菅井流三間飛車」とは、向かい飛車+矢倉に対して石田流三間飛車+美濃囲いから速攻を仕掛ける、軽快な戦術です。菅井竜也七段がプロ棋士になる前の奨励会時代に、奨励会での対局や将棋倶楽部24で連採したことで注目が集まり、プロ棋界でも指されるようになりました。
相振り飛車は対局数が少ないので、ここ4・5年の流れというよりはここ10年弱くらいのゆるやかな流れが解説されている格好で、平成末期〜令和かと言われるとすべてがそうではありませんが、見方を変えると本書を読めばここ10年の相振り飛車のトレンドの移り変わりが把握できると言えます。相振り飛車を解説する棋書自体貴重です。
最も令和の新時代を感じさせてくれるのは、個人的には里見香奈女流四冠の金無双風の構えでしょうか(参考7図。本書では「流れ金無双」と名付けています)。
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相振り飛車の基礎知識 金無双とは
「金無双」とは、相振り飛車の戦いで主に採用される、金が横に2枚並ぶことが特徴の囲いです。「二枚金」とも呼ばれます。昭和時代の相振り飛車戦では採用されることが多い囲いでしたが、2000年代に入ってからは他の囲いに、とりわけ美濃囲いに主役の座を奪われています。
定跡の進化の歴史がわかる一冊
角交換振り飛車、および相振り飛車の戦型における近年の定跡の進化の歴史が一望できる「令和新手白書【角交換振り飛車・相振り飛車編】」。新手・新構想が誕生した背景や、それら作戦の意義についても学ぶことができます。
とりわけ定跡通の将棋ファンや観る将にオススメの一冊です。
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