目次
構想力が問われる△3三金型三間飛車
「菅井流三間飛車」とは、△3三金型の角交換三間飛車です(第1図)。
初手から▲2六歩△3四歩▲2五歩△3三角▲7六歩△3二金▲3三角成△同金と進む、阪田流向かい飛車を思わせる出だしから、飛車を2二ではなくまさかの3二に移動します。
重い飛車先をうまくほぐしながら陣形を整えていく必要があり、序盤の構想力が問われる高等戦術です。
なお、▲5六歩型(△5四歩型)の角道オープン三間飛車については以下の記事を参照ください。
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また、相振り飛車の菅井流三間飛車については以下の記事を参照ください。
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2019年8月追記 新・菅井流登場
2019年5月31日に行われた第32期竜王戦4組決勝、▲藤井聡太七段 対 △菅井竜也七段戦にて、菅井七段が新たな△3三金型三間飛車を披露しました(参考1図)。
角交換しないタイプの△3三金型三間飛車です。これについては以下の関連記事を参照ください。
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(追記ここまで)
またの名を「阪田流三間飛車」
後述の通り菅井竜也七段が2017年8月に披露して以来、阪田流向かい飛車と同じく△3三金型からの三間飛車であるため、故・阪田三吉贈名人・王将が一度も採用していないにも関わらずネット上でも「将棋世界」誌上(例えば最近では2018年8月号の「イメージと読みの将棋観2」)でも自然と「阪田流三間飛車」と呼ばれていました。
しかし2018年10月、将棋ウォーズの新たな戦法コレクションとして本戦法が「菅井流三間飛車」の名称で追加されました。このインパクトは大きいため、今後は菅井流三間飛車で定着するのではないかと思います。
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菅井竜也七段の王位奪取の一局
菅井流三間飛車(阪田流三間飛車)は、2017年8月に行われた第58期王位戦第5局、▲羽生善治三冠 対 △菅井竜也七段戦にて菅井七段が披露し、しかも勝って王位を獲得したことで一躍有名となりました。
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ちなみにこの時が新手ではなく、過去に故・森安秀光棋聖の実戦例が1局だけありました。これも驚くべき事実です。
予備知識 阪田流向かい飛車とは
菅井流三間飛車の指し回しについて説明する前に、予備知識として阪田流向かい飛車(参考2図)の説明が欠かせません。
名前の由来とエピソードについては下記記事を参照ください。
記事の最後にあるように、実際にはこの向かい飛車は江戸時代から見られる指し方のうえに、本局以外に阪田三吉が阪田流向かい飛車を指した記録はないそうです。
とはいえ現在ではまごうことなく「阪田流向かい飛車」と呼ばれている本戦法。近年復活傾向にあり、トップ棋士では糸谷哲郎八段が愛用しています。また、将棋世界2018年5月号では特集が組まれました。
昔は居玉(参考3図)や△7二玉型での速攻が基本でしたが、最近では8二まで玉を移動してしっかり片美濃囲いに囲ってから仕掛けるのが主流です。
菅井流三間飛車の指し回し
それでは本題の菅井流三間飛車の説明に入ります。
上述の王位戦第5局の棋譜と詳しい解説が王位戦のWebサイトで無料公開されています(2019年8月時点)ので、この進行をもとに説明します。
菅井流三間飛車では、△3五歩(第2図)と突いた後、△3四金+△3三桂型(第3図)を作るのが急所です。
この後△2五桂と歩を取りながら伸び伸びと指すのが狙いで、このとき△2二飛型よりも△3二飛型のほうが安定している、というのが菅井流の主張です。
△2五桂の前に▲2四歩と突かれた場合、△同歩だと▲2三角があるので、△同金と取るのが基本となります。
金がそっぽに行かされるうえ何とも不安定な形ですが、最善手を指し続けられればバランスを保ったままいずれ形がほぐれると見ています。
実戦では、菅井七段が見事に左桂と左金をさばいて優勢になりました(第4図)。
しかし、菅井七段のように局面のバランスを崩さずさばき切ることができる人は、ほんの一握りでしょう。先手に角打ちや飛車切りから駒損覚悟で2筋を突破され、押さえ込まれて何もできずに負け、ということも容易に考えられます。
△3二金型のオプションを用意しておくべし
菅井流三間飛車は、すべて自分から狙ってできる戦法ではありません。先手が初手から▲2六歩〜▲2五歩〜▲7六歩という順番で指し、さらに6手目△3二金(第5図)に▲3三角成と取ってきてくれないと成立しないからです。
いかにも阪田流または菅井流を狙っていそうな△3二金に対し、▲3三角成と飛び込んできてくれるかどうか。
角交換してくれない場合、△3二金と上がっている以上相居飛車になりがちです。このときの戦法オプションを用意しておきましょう。振り飛車を貫くならば、ツノ銀中飛車か立石流(組めるかは相手の指し方次第)を目指すべきでしょう。なお、実質二手損を甘受して△8八角成▲同銀△3三金とするのは、もはや菅井流マニアの域に達しています。
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2018年8月追記 棋書発売
2019年7月、この菅井流三間飛車を解説した初めての棋書が発売されました。
前半が阪田流三間飛車、後半が菅井流三間飛車の解説になっています。
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(追記ここまで)
割り切って狙うべき菅井流
△3三金型から、抜群の構想力とさばきの力が求められる菅井流三間飛車。バランスを崩さないよう注意深く駒組みを進める必要があります。
6手目△3二金と上がってしまったら後には引けません。先手が角交換してくれなかった場合の作戦のオプションを用意しつつ、角交換してくれた場合には満を持して、菅井流で己の構想力を最大限に発揮しましょう。
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