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相居飛車で定番の囲い、相振り飛車でも
相振り飛車での矢倉とは、▲3七銀・▲3八金・▲4七金の構えで玉を右辺に囲う囲いです(第1図)。
相居飛車で定番の囲いですが、相振り飛車でも狙うことができ、組み上がれば堅くて厚みもあり、優秀な囲いです。
近年の速攻・先行重視の風潮から人気は下降気味ですが、相振り急戦矢倉やバランス型矢倉の戦術が発明されれば、ふたたび数多く指されるようになるかもしれません。
向かい飛車と相性良し
矢倉は、はじめに掲載した第1図のように向かい飛車との相性が良い囲いです。
石田流三間飛車は軽い形で飛車の横利きも活かした布陣ですが、自陣右辺が手厚い矢倉囲いだとその長所が活きません(参考1図)。
また、中央にも手厚い矢倉囲いには三間飛車だと飛車が囲いや玉に近い印象があり、向かい飛車の方がバランスが良いと言えます。もっとも、これは普段相居飛車戦で居飛車(▲2八飛型)+矢倉を見過ぎていることによる先入観が入っているかもしれません。
石田流本組み相手に威力を発揮
以下、先手番で初手から▲7六歩△3四歩▲6六歩で始まるオープニングをベースに説明します。これが向かい飛車ならびに矢倉を目指す上で定番のオープニングだからです。
矢倉は、従来型の石田流三間飛車相手にめっぽう強い囲いです。ここでいう従来型の石田流三間飛車とは、石田流本組み(第2図)のことで、相振り飛車戦での石田流と言えば従来この形でした。
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「石田流本組み」とは、角交換しない▲9七角・▲7七桂型石田流です。攻守に優れた美しい布陣です。早い段階で▲6六歩と突いて角交換が起こらないようにしてから、▲7六飛で8筋を受け、その後▲9七角、▲7七桂と上がります。
なお、従来型でない石田流とはいわゆる「菅井流」のことで、これについては後述します。
石田流本組み相手には、矢倉が十分組み上がっているので、囲いの手厚さを活かして相手の攻撃陣を「責める」ことができます。例えば第2図以下▲2六銀とあらかじめ上がっておけば、△4五歩に対し▲3五歩と飛車を責める手があります。
したがって後手は序盤で3筋の歩交換をした後、矢倉に対しては浮き飛車にせず飛車を深く引いて、4筋に振り直してから攻める構想の方が有力です(第3図)が、先手側も十分に戦えるとされています。
菅井流をはじめとした対速攻に苦慮
上述のようにしっかり組み上がれば堅い矢倉ですが、近年では相手の速攻により思うように組ませてもらえず苦労しています。
具体的には、菅井流(第4図)や左銀繰り出し(第5図)への対応が課題です。
正確に対応すれば先手も十分戦えるとされていますが、自玉も攻撃陣も中途半端な形で戦いが始まることになり、好まれていないのが現状です。
一方で、後手の布陣のように、そこそこ堅く素早くコンパクトに囲える△7一玉型美濃囲い+速攻重視の三間飛車が一番人気となっています。
3手目▲6六歩の人気低下の遠因
矢倉だと手がかかり過ぎて十分に組めないとなると、主に美濃囲いか金無双に組むことになりますが、美濃囲いは速攻重視の三間飛車と相性が良い囲いであり、向かい飛車との相性はあまりよくありません。
そうなると金無双に組むことになりますが・・・。金無双はどの振り飛車とも相性が良い囲いですが、そもそも堅い囲いではないと近年は見られており、避ける棋士が少なくありません。
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相振り飛車の基礎知識 金無双とは
「金無双」とは、相振り飛車の戦いで主に採用される、金が横に2枚並ぶことが特徴の囲いです。「二枚金」とも呼ばれます。昭和時代の相振り飛車戦では採用されることが多い囲いでしたが、2000年代に入ってからは他の囲いに、とりわけ美濃囲いに主役の座を奪われています。
さかのぼると、そもそも3手目▲6六歩以下後手に三間飛車にされると、先手は満足な駒組みができないということになってしまいます。これが3手目▲6六歩の人気がプロ間で低下している理由のひとつとされています。
新たな相振り矢倉戦術の発明に期待
最後は矢倉の話のみならず、序盤の駒組みの話にまで拡大してしまいましたが、まとめると、相振り飛車戦における矢倉復活のためには満足できる速攻対策の発明が必要、ということです。
実はこの傾向は、相居飛車戦における矢倉でも同様です。後手の速攻に対応できず従来型のしっかり囲う矢倉は激減してしまいましたが、一方で、▲7七銀型に組んだあとすぐに▲6六銀と出ていくような急戦矢倉や、▲7八金ではなく▲5八金と上がる土居矢倉が増えてきました(参考2図)。
相振り飛車における矢倉も、相手の速攻に対抗できるような急戦矢倉やバランス型矢倉が発明されれば、ふたたび採用数が増えてくるかもしれません。
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前回同様、▲HAHAHAHAHA六段VS△某六段戦より。第1図は前回の第1図と似たような局面ですが、別の棋譜です。後手は矢倉を目指してきます。後手が矢倉形のときはこんな感じになります。この局面をどう見るかですが、とりあえず棒銀をいつでも狙える体制を整え、先手らしく主導権を握っていると言えると思います。
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