新タイトル
2019年8月3日に行われた第1期ヒューリック杯清麗(せいれい)戦五番勝負第1局、▲甲斐智美女流五段 対 △里見香奈女流五冠戦。
本局の棋譜と詳しい解説は、清麗戦のWebサイトで観ることができます。
ヒューリック杯清麗戦は、今年度スタートした新たな女流タイトル戦です。予選と本戦を勝ち抜いた里見女流五冠と甲斐女流五段による五番勝負の勝者が、栄えある初代清麗の座に輝きます(「精霊」と勘違いされそうな呼び名です)。
新・菅井流
本局で後手番となった里見女流五冠は、角交換しない△3三金型三間飛車を採用しました(第1図)。
後手の持駒:なし 9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ |v香v桂v銀v金v王 ・v銀v桂v香|一 | ・ ・ ・ ・ ・ ・v飛v角 ・|二 |v歩v歩v歩v歩v歩v歩v金v歩v歩|三 | ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|四 | ・ ・ ・ ・ ・ ・v歩 歩 ・|五 | ・ ・ 歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・|六 | 歩 歩 ・ 歩 歩 歩 歩 ・ 歩|七 | ・ 角 王 ・ ・ ・ ・ 飛 ・|八 | 香 桂 銀 金 ・ 金 銀 桂 香|九 +---------------------------+ 先手の持駒:なし 手数=10 △3三金まで
△3三金型三間飛車について振り返ると、2017年8月に行われた第58期王位戦七番勝負第5局にて、菅井竜也七段が角交換するタイプの△3三金型三間飛車(参考1図)で羽生善治三冠(当時)に勝利して王位を初戴冠したことで、大いに注目を浴びました。
後手の持駒:角 9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ |v香v桂v銀v金v王 ・v銀v桂v香|一 | ・ ・ ・ ・ ・ ・v飛 ・ ・|二 |v歩v歩v歩v歩v歩v歩v金v歩v歩|三 | ・ ・ ・ ・ ・ ・v歩 ・ ・|四 | ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 歩 ・|五 | ・ ・ 歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・|六 | 歩 歩 ・ 歩 歩 歩 歩 ・ 歩|七 | ・ ・ ・ 王 ・ ・ ・ 飛 ・|八 | 香 桂 銀 金 ・ 金 銀 桂 香|九 +---------------------------+ 先手の持駒:角 手数=10 △3二飛まで

その後、この角交換するタイプの△3三金型三間飛車は「菅井流三間飛車」の名で将棋ウォーズの戦法コレクションに加わりました。

つい先月には、この戦法を初めて解説した「△3三金型振り飛車 徹底ガイド」(安用寺孝功六段 著)も発売されています(角交換しない△3三金型三間飛車は解説されていません)。

そして2019年5月31日に行われた第32期竜王戦4組決勝、▲藤井聡太七段 対 △菅井竜也七段戦にて、菅井七段が今度は角交換しない新たな△3三金型三間飛車を初披露し、終盤まで菅井七段が優勢に進めたものの、最後の最後で藤井七段が辛くも千日手に逃れました。

なお、千日手指し直し局に勝利し決勝トーナメントに進んだ藤井七段ですが、さらに2つ勝ち進むも豊島将之名人にその行く手を阻まれ、そしてつい先日8月2日にその豊島名人が渡辺明三冠に勝利し竜王戦挑戦者決定三番勝負に駒を進めたのは記憶に新しいところです。
この角交換しない新たな△3三金型三間飛車はその後、里見女流五冠が2019年6月28日に行われた第91期ヒューリック杯棋聖戦一次予選(主催:産経新聞社、日本将棋連盟)、▲都成竜馬五段 対 △里見香奈女流五冠戦で採用して勝利したことでも話題を集めました。
すでに定跡化されたと言っても過言ではないこの角交換しない△3三金型三間飛車ですが、石田流に対する「新・石田流」(鈴木大介九段が考案し、第32回(2005年)升田幸三賞を受賞した新たな石田流)と同様のパターンで、「新・菅井流」と名付けてしまって良いのではないでしょうか。

イナズマ流の寄せ
本譜に戻って、新・菅井流の狙い通り△3四金から△2五桂で2五の歩をかすめ取って一歩得した後手・里見女流五冠に対し、先手・甲斐女流五段は初期の立石式石田流(立石流四間飛車)対策のような伸び伸びとした囲いに構えました(今風に言えば玉頭位取り左雁木でしょうか)。
その後、里見女流五冠は甲斐女流五段の仕掛けを切り返し△4五金から左金をさばき、飛車と左桂も見事にさばきながらと金も作って優位に立ちます。終盤、△2九竜!という目の覚めるようなイナズマ流の寄せも炸裂させ、五番勝負の初戦を制しました。
今後のタイトル戦の行方と戦型選択に引き続き注目したいと思います。
参考:評価値グラフ
※棋譜解析エンジン / 評価関数:
YaneuraOu NNUE 4.88 / 振電改
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