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ノーマル三間VSエルモ囲い腰掛け銀急戦
2021年1月14日に行われた第69期王座戦二次予選(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)、▲山本博志四段 対 △飯塚祐紀七段戦。
棋譜と詳しい解説は、将棋連盟ライブ中継アプリで観ることができます(有料)。
以下、王座戦における棋譜利用ガイドラインに沿って利用させていただきます。
2021年に入って2戦目、第69期王座戦初戦となる本局にて、山本四段はいつも通り三間飛車を選択。対する飯塚七段はエルモ囲い急戦を選択しました(第1図)。
エルモ囲い急戦は、対四間飛車では△5三銀~△6四銀~△7五歩のように7筋(先後逆だと3筋)から仕掛けていくナナメ棒銀が最もポピュラーです(参考1図)。
一方で対三間飛車では△6四歩~△6五歩と6筋(先後逆だと4筋)から仕掛けていくのが一般的です。飛車がいない筋を攻めたほうが、居飛車にとって効率が良いからです。
対三間飛車のエルモ囲い△6五歩早仕掛け急戦では、右銀は△6二銀型(参考2図。詳しくは「さわやか流疾風三間飛車」(杉本和陽四段 著)などを参照)もあります。
が、飯塚七段は第1図の通り腰掛銀型(△5四銀型)を選択しました。
自ら▲6五歩
山本四段はどのように待機するか、そして飯塚七段はいつ仕掛けるか、というのが本局の序中盤戦のポイントになると思いきや、山本四段は第1図から▲6五歩!!と自分から仕掛けていきました。
そして以下△7七角成▲同桂△8六歩▲同歩△同飛▲6四歩△3三角▲8八歩(第2図)と進行。
振り飛車から自ら仕掛けていくのは相当珍しいでしょう。「振り飛車には角交換」という格言があるにも関わらず、自分から角交換可能にしているからです。角交換されてしまうと、本譜のように△8六歩▲同歩△同飛と飛車先を押し込まれてしまいます。
ちなみに、最近の大勝負では2018年9月21日に行われた第77期順位戦A級、▲久保利明王将 対 △羽生善治竜王(肩書は当時)でも、ノーマル三間飛車対居飛車急戦で久保王将が自ら仕掛けていて驚きましたが、そのときは羽生九段は袖飛車だったので本譜とは違った進行となっています。
飛車先を押し込まれても戦える
第2図となって振り飛車がかなり息苦しい格好に見えますが、山本四段はこれでも戦えるという事前研究があったのでしょう。普通は読みを打ち切ってしまうような変化ですが、そこで止めずに研究を進めるところはさすがプロです。また、実戦でそれを決行できるところは若手らしい勢いを感じます。
これは私の推測ですが、コンピュータ将棋ソフトはこのような変化を先入観を持たずに読み進め、ソフト同士の対局でも指しています。山本四段はそこから学んだこともあったかもしれません。
山本四段、激戦を制す
とはいえこれで振り飛車が優勢になるわけではありません。激戦は続きました。
最終盤(第3図)、時間が切迫している中、双方が詰めろと詰めろ逃れをやり合い相手玉だけを見て戦える状況ではなかったため、詰みを読み切るのは困難だったことでしょう。
山本四段は第3図以下の詰みを見落としたものの、飯塚七段が最後の最後で山本玉を仕留め損ね、山本四段が勝利しました。
将棋は最後に間違えたほうが負ける、厳しいゲームです。しかしそれが魅力のひとつでもあります。
次戦は高崎一生七段
山本四段の次戦の相手は、今季好調(2021年1月17日時点で2020年度勝率ランキング第3位!)の振り飛車党・高崎一生七段です。
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今期好調の振り飛車党・高崎一生七段
高崎七段は三間飛車を多用する振り飛車党。2020年9月に七段に昇段したばかりです。三間飛車の採用率が非常に高く、例えば将棋連盟ライブ中継アプリで中継された2019年度以降の高崎七段の対局22局のうち、14局で三間飛車を採用しています。もはや三間飛車党と呼んでもよい採用率でしょう。
山本四段も高崎七段も相振り飛車を避けないので、相三間飛車が見られるかもしれません。こちらも楽しみな一局です。
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相振り飛車の基礎知識 相三間飛車とは
「相三間飛車」とは、先手・後手双方とも三間飛車に振る、相振り飛車の戦型のひとつです。初手から▲7六歩△3四歩▲7五歩△3五歩▲7八飛△3二飛で相三間飛車になるのが一般的で、3手目▲7五歩を好む石田流党にとって、避けては通れない戦型です。
参考:評価値グラフ
※棋譜解析エンジン / 評価関数:
YaneuraOu NNUE 6.00 / 騨奎紫(たけし)
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