初手▲7八飛戦法の対策を徹底解説
「先手三間飛車を完全攻略!出口流▲7八飛戦法破り」のひとくちレビューをお送りします。
「振り飛車の新機軸!初手▲7八飛戦法」(門倉啓太五段 著)、「2手目の革新 3二飛戦法」(長岡裕也六段 著)がリリースされたときも、それぞれ初手、2手目までしか指していない局面からうまく変化の的を絞って1冊の棋書にまとめられるものかと驚いたものでした。
そして今度は初手▲7八飛戦法(猫だまし戦法)の対策本がリリースされました。
「まえがき」と「あとがき」からも、出口五段の苦労の跡がうかがえます。結果として、論文のようにストーリーの筋が通った一冊に仕上がっていると感じました。
「初手▲7八飛の対策と言ってもたった1手しか指していないし以下の変化は膨大じゃないか」と思われるかもしれませんが、この初手は早々に形を「三間飛車」に決めた一手です。後手は指し方によってかなり限定的な局面に誘導することができます。とりわけ第3章、第4章が顕著です。
そのため、「論文のように」と表現した理由でもありますが、驚くべきことに第3章にいたっては詰む/詰まないにまで踏み込んだ非常にロジカルで難解な内容となっています。
元三間飛車党・出口若武五段による初の棋書
著者は出口若武五段。出口五段にとって初の棋書です。
まえがき(棋書販売ページで無料で「立ち読み」できます)の中で、以下のように述べています。
三間飛車は人生で最も指したということもあり、これではもはや研究発表会である。
出口五段は奨励会三段まで三間飛車党で、三段リーグ在籍中に居飛車党に転向しました。17歳というかなり早い年齢で三段となったもののその後なかなか四段に昇段できず、成績向上のきっかけをつかみたいと棋風改造に取り組んだのかもしれません。
振り飛車党あるある
ちなみに、Youtube「戸辺チャンネル」の「振り飛車党あるある【ゲスト 山本博志四段】」の中で、山本博志四段が出口五段の居飛車党転向と本書執筆について言及しています(以下の動画参照。再生開始位置は合わせてあります)。
「大人になるにつれて振り飛車党が減って寂しい」あるあるをはじめ、仲の良い振り飛車党同士の息の合ったトークが楽しめます。
本書の目次
本書の目次は以下の通りです。
なぜ▲7八飛戦法なのか?
第1章 ▲6六歩と▲7五歩について
第1節 ▲6六歩対相振り飛車
第2節 ▲6六歩対右四間飛車
第3節 ▲7五歩対右四間飛車
第2章 ▲7八飛対相振り飛車
第3章 ▲7八飛対△8四歩型 ▲8八飛の変化
基本図までの指し手
実戦編 古森五段戦
定跡解説編
第1節 基本図から▲2一馬
第2節 基本図から▲9六歩に△7四歩
第3節 ▲9六歩に△1六歩
第4章 ▲7八飛対△8四歩型 ▲9六角の変化
第5章 角交換型振り飛車
初手▲7八飛増加の理由
まず「なぜ▲7八飛戦法なのか?」と第1章にて、初手から▲7六歩~▲6六歩、および▲7六歩~▲7五歩の攻略法を解説し、したがってこれらの出だしが減少していることを示す一方、逆説的に初手▲7八飛が増加していることを示しています。
具体的には、相振り飛車の菅井流や、右四間飛車エルモ囲いなどが解説されています。
相振り飛車の攻防
第2章以降は初手▲7八飛以下の攻防です。第2章の「▲7八飛対相振り飛車」では、相三間飛車の攻防が解説されています(参考1図)。
後手が向かい飛車にしない(しにくい)理由も解説されています。
超濃密な第3章
第3章から第5章までは、角道オープン型の三間飛車VS居飛車の対抗系を解説しています。
第3章と第4章は△8五歩に対し▲4八玉と上がる形(参考2図)です。
とりわけ第3章「▲7八飛対△8四歩型 ▲8八飛の変化」は、「実戦編 古森五段戦」での詰む/詰まないの変化の詳細解説を含め、超濃密な内容となっています。古森悠太五段戦の自戦記はとにかく厚くて熱く、本書を執筆するきっかけとなったというのは大いにうなづけます。
アマチュア同士の対局で最終盤まで本書と同一局面で進むことはないでしょうが、部分的には現れる形なので、寄る/寄らない、詰む/詰まないを覚えておくことは役に立つでしょう。また、プロ棋士の対局中の読みや思考を垣間見、堪能することも本書の見どころのひとつです。
第5章「角交換型振り飛車」は△8五歩に▲7七角と上がる形です(参考3図)。
第4章と第5章は、ある程度形は決まるもののそこからの手は広いため、代表的な進行例を通して居飛車側のとるべき構想やコツを解説しています。
プロで指されている形を真っ向から解説した一冊
2019年に発売された「振り飛車の新機軸!初手▲7八飛戦法」は、先手が石田流を狙いにいく戦術(▲7七飛戦法を含む)を主に解説しており、アマチュア向きの内容でした。
一方で本書は、平成末期から令和初期にかけてのプロ棋界のリアルな初手▲7八飛戦法の攻防を解説しており、難易度は高いと言えます。
初手▲7八飛に苦しむ居飛車党はもちろん、初手▲7八飛車党にとっても必読の一冊です。
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