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後手番△5三銀型三間飛車を解説
「鈴木大介の将棋 三間飛車編」のひとくちレビューをお送りします。
この棋書は10年以上前に発売された棋書ですが、他の三間飛車の棋書にはあまり載っていない戦術・戦法を解説していてオリジナリティがあります。
具体的には、後手番での△5三銀型三間飛車の戦術を解説しています(第1図)。
後手番の解説というだけで価値が高いですし、近年△4三銀型(先手番では▲6七銀型)が大流行している中、△5三銀型は相手の意表を突くことができ、今だからこそ貴重なのではないでしょうか。
しかも、△5三銀型と言っても△7一玉型(▲3九玉型)+端攻め志向で駒組みを進めるコーヤン流(参考図)とは一線を画する戦術です。
すなわち、四間飛車での鈴木流と同様、鈴木九段らしく小細工なく堂々と△8二玉と入場するのを優先します。
対急戦では上述の第1図の通り△5三銀+△4二金(?!)型で対抗。対居飛車穴熊では、右桂(玉側の桂)の移動は保留して、角を引き角(第2図。△5一角)から自陣の右辺に展開し、B面攻撃を狙います。
中央志向の真部流ともまたひと味違った、面白い戦術です。
さらに、対左美濃(近年流行の左美濃とは駒組みが異なりますが)も載っており、対急戦、対居飛車穴熊、対左美濃を網羅した内容となっているのも高ポイントです。
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VS居飛車穴熊の基礎知識 コーヤン流とは
「コーヤン流」とは、ノーマル三間飛車の伝説の棋書「コーヤン流三間飛車の極意」(中田功七段 著)によってその名が爆発的に普及した、主に対居飛車穴熊の戦術です。「島ノート 振り飛車編」(島朗九段 著)の命名で「中田功XP」とも呼ばれています。
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VS居飛車穴熊の基礎知識 真部流とは
対居飛車穴熊の作戦の中で最も美しい布陣、それが「真部流」です。故・真部一男九段が愛用していたためこの名が付いた、とされています。居飛車側が四枚穴熊に組むのをあえて阻止せず、目一杯穴熊囲いに手数をかけさせます。その代わりに、三間飛車側は4筋の位をとって▲5七銀型から▲4六銀と上がり、4筋位取り「四枚」美濃囲いを目指す構想です。
対エルモ囲い急戦の優秀な布陣へのシフトも
今風の目線でいくと、対エルモ囲い急戦にも向いた布陣である点も見逃せないでしょう。△5三銀の形を比較的早めに決めることになりますが、エルモ囲い急戦に対し△5三銀型は優秀な布陣です。
ナナメ棒銀(▲4六銀〜▲3五歩)に対しては、△5三銀+△4三金型で力強く受け止めるのが有力とされています。
▲4五歩早仕掛け系には、△4二飛と回って飛車先の軽さを活かして対応するか、△2二飛〜△5二金(△4二金)で仕掛けを封じる方針に分かれるでしょう。
もちろん、10年以上前に発売された本書にエルモ囲い急戦対策は載っていないので、「さわやか流疾風三間飛車」(杉本和陽四段 著)などを別途読んで知識を補完する必要はあります。
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「さわやか流疾風三間飛車」ひとくちレビュー
「さわやか流疾風三間飛車」(杉本和陽四段 著)のひとくちレビューをお送りします。杉本四段は、ゴキゲン中飛車も四間飛車も指す若手振り飛車党の一人ですが、初の著書は角道を止めるノーマル三間飛車の戦術書となりました。
理事になって好調が続く鈴木大介九段
著者は、タイトルの通り鈴木大介九段。
2017年から日本将棋連盟常務理事を務めていて多忙のはずですが、近年好調が続いており、今年度(2019年度)は2020年1月19日時点で18勝8敗。勝率0.6923は全棋士中10位という見事な成績です。三間飛車も数多く採用しています。
新・石田流、鈴木流四間飛車、パワー中飛車の戦術書など、他にも数多くの棋書をリリースしてきた鈴木九段ですが、ここ7・8年はリリースが無いようです。
オリジナリティあふれる鈴木流振り飛車の極意を学びたい方は、鈴木九段の他の著書を読んでみるのも面白いと思います。
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