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振り飛車でミレニアム囲い
2020年3月末に、振り飛車でミレニアム囲い(参考1図)に組んで戦う戦術書「将棋革命!振り飛車ミレニアム戦法」が発売されます。
「ミレニアム囲い」(「トーチカ囲い」とも呼ばれています)は、従来居飛車VS振り飛車の対抗形で居飛車が採用する囲いです(参考2図と参考3図。最近は低く構える参考3図の形の方が主流)。
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「ミレニアム囲い」とは、四間飛車藤井システムが猛威をふるった世紀末から新世紀をまたぐころ(西暦2000年ごろ)、居飛車穴熊に代わる堅い囲いが求められた時代に登場した、▲8九玉型が特徴の新たな囲いです。「トーチカ囲い」と呼ばれることもあります。
このミレニアムを、振り飛車で採用する戦術を解説するのが本書です。
略して「振りミレ」
著者は村田顕弘六段。これまでに数々の棋書をリリースしてきており、三間飛車関連だと「対振り飛車の大革命 エルモ囲い急戦」や「振り飛車最前線 石田流VS△1四歩型」などがあります。
本書では、この振り飛車ミレニアムを略して「振りミレ」と呼んでいます。村田顕弘六段というよりも編集者の方の発案なのではないかと思います。
個人的には今のところ「振りミレ」という言葉があまりしっくりしないので単に「(振り飛車)ミレニアム」と呼びたいですが、若い方々には「振りミレ」でも抵抗がないかもしれません。定着するかどうかは今後のプロ棋界やアマ棋界、学生棋界での採用数にかかってくるでしょう。
本書の目次
本書の目次は以下の通りです。
本書の目次
序 章 振り飛車版ミレニアム囲い概要
第1章 VS左美濃囲い
第2章 手広く構える▲3六歩型
第1節 VS天守閣美濃
第2節 相ミレニアム
第3節 穴熊含み
第3章 VS居飛車穴熊
第4章 端歩突き越し型振りミレ
第5章 先手振りミレ
第6章 復習 次の一手
対左美濃、対天守閣美濃(▲8七玉型の左美濃)、対居飛車ミレニアム、そして対居飛車穴熊と、幅広く解説しています。
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「天守閣美濃」とは、対振り飛車で用いられる、▲8七玉型の左美濃です。将棋の囲いは数あれど、三段目に玉を囲うのはこの天守閣美濃ただ一つではないでしょうか。玉が最も高い位置にいる美濃囲いであることから、天守閣美濃と呼ばれています。
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三間飛車のみならず、すべての振り飛車の天敵、「居飛車穴熊」。玉を隅(1一)に移動し、周りを金銀で固める、最強かつ最恐の囲いです。一般に、△4四歩を突いた△4四歩型穴熊と、突かない△4三歩型穴熊の2種類に分けられます。
また、第5章が「先手振りミレ」であることから、第1章から第4章までは後手番でのミレニアムということでしょう。
村田六段の棋書は、広くて浅い(幅広い戦型を扱う代わりに中盤の深いところまでの解説は無い)傾向が強いと感じていますが、本書も同じ傾向であると考えて間違いなさそうです。
四間飛車+ミレニアムを解説か
本書の内容紹介には、この振り飛車ミレニアムを「何間飛車」と組み合わせるかは書かれていませんが、表紙の局面、および相性から察するに、四間飛車との組み合わせであると考えられます。理由は、四間飛車は手早く仕掛けの争点を作れるからです。
振り飛車ミレニアムは、居飛車ミレニアムのようにガチガチに組みにいこうとすると相対的に手数がかかりすぎ、かつ組む途中の隙が振り飛車穴熊に比べて大きい(と私は思います)ことから、一直線に囲いにいくと囲いが中途半端なところで居飛車に仕掛けられてしまう可能性があります。
居飛車が△3三角と上がって持久戦の意向を示したとき、素早く腰掛け銀(▲5六銀・▲5七歩型)にして居飛車の△4四歩を強要し(四間飛車に対しては△4四銀型に組みにくい)、▲6五歩と突いて6筋から仕掛けられる主張を作れるのが四間飛車のメリットです。
その後居飛車の駒組みに応じて▲4五歩や▲2五桂から仕掛けていくか、▲4七銀と引いてさらに固めに行くか、方針を選ぶことができます。
三間飛車とは相性が悪そう
一方三間飛車では、居飛車が持久戦の意向を示したとき7七の角を引いて▲7五歩から石田流組み換えか▲7四歩の仕掛けを狙っていくのが常套手段ですが、ミレニアムとの相性は悪そうです。
攻撃陣と囲いそれぞれに手数がかかりすぎるというのと、それぞれが左方と右方に偏り中央が手薄になるというのがその理由。石田流が振り飛車穴熊とあまり相性が良くないのと同様です。
また、振り飛車ミレニアムは▲3七桂型が基本なので、石田流組み換えを狙って5九に引いた角を3七に上がることができず、その後の活用が難しいのもデメリットです(参考4図)。
さらに、参考4図からわかるように、▲7六飛型にしないと銀をむやみに動かせない(6六の歩を取られてしまう)のも三間飛車のつらいところです。
他には、▲5六銀・▲5七歩型でなく▲5六歩型にして、角を6八に引いて5七や4六に転換して活用を図る構想も考えられます(参考5図)。
しかしこれには△2四角と上がられて角交換をせまられると、振り飛車の陣形のほうが隙が多く作戦負け模様です(先手の約ー600点)。
この他、相穴熊戦(参考6図)で三間飛車穴熊を振り飛車ミレニアムに代えてみるとどうか、というところですが、攻撃的な方には良いかもしれません。ただし前述の通りミレニアムに組み上がる前の不安定な形のときに居飛車に仕掛けられる可能性はあります。
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VS居飛車穴熊の基礎知識 相穴熊とは
居飛車穴熊に堅さ負けしたくない、という人にとってうってつけでしょう。振り飛車側も同じく穴熊に組んでしまいます。振り飛車側の穴熊なので、「振り飛車穴熊」と呼びます。三間飛車との組み合わせの場合、「三間飛車穴熊」と呼んでもかまいません。そして、両者穴熊の戦型を「相穴熊」と呼びます(第1図)。
小一時間考えてみましたが、三間飛車+ミレニアムで幸せになれる構想が思い浮かびませんでした。ただし、普通のアマチュアが小一時間考えてみただけなので、実際には上手く戦える構想があるかもしれません。
革新的な構想に興味がある方に
以上の考察のように、本書はおそらく三間飛車+ミレニアムではなく四間飛車+ミレニアムを解説する戦術書です。
三間飛車しか絶対に指さない根っからの三間飛車党は手を出さないほうがいいかもしれません。
一方で、四間飛車党はもちろん、振り飛車党や居飛車党含め、これまでにない革新的な戦術を知りたい方には必見の内容になっていることでしょう。
私自身は後者なので、購入して読んでみて、新たな振り飛車の可能性を学んでみたいと思います。
3月9日追記:結果を残す村田六段
本書の著者である村田顕弘六段は、2020年1月14日に行われた第78期順位戦C級1組で、若手強豪・青嶋未来五段の居飛車穴熊相手に振り飛車ミレニアムで勝利。
さらについ最近、2020年3月3日に行われた同じく順位戦C級1組で、今度はベテラン・先崎学九段の左美濃に振り飛車ミレニアムで勝利と、連続して結果を残し、自らの著書発売に花を添えています。
4月追記:四間飛車+ミレニアムを解説
購入して読んでみたところ、予想通り四間飛車+ミレニアムを解説する内容でした。
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