MENU
西田拓也五段の石田流組み換え 対 伊藤匠五段の居飛車持久戦

電竜戦長時間マッチ 水匠とdlshogi、先手番キープで幕

コンピュータ将棋
目次

急遽三番勝負に

2021年8月15日に行われた電竜戦長時間マッチ、水匠 VS dlshogi戦。

あわせて読みたい
電竜戦 水匠 VS dlshogiの特別戦開催 解説・ゲストに渡辺明名人 他 2021年8月15日に、電竜戦エキシビジョンマッチとして水匠 VS dlshogi戦が行われます。本エキシビションマッチの解説は、阿部健治郎七段と佐々木勇気七段。そして特別ゲストとしてなんと渡辺明名人も招かれるという、豪華な布陣です。

当初先後を入れ替えた二番勝負の予定でしたが、第1局で後手・水匠にバグが発生し短時間で先手・dlshogiの勝利となったため、急遽第1局と同じ先後とした第3局も行われました。

三番勝負の結果は、お互い先手番を制し2勝1敗。先手番のわずかな有利をキープして勝利し、NNUEとディープラーニングの雌雄を決することなく幕を閉じた形となりました。

華々しくも均衡のとれた第2局

本記事では、華々しくも均衡のとれた攻防が繰り広げられた第2局を紹介しておきます。

角換わりのオープニングだったものの、途中後手の飛車が長い間7筋で浮き飛車に構える石田流風の展開だったことも、本局を紹介したい理由のひとつです(こじつけ)。

棋譜:電竜戦長時間マッチ 第2局 ☗水匠-☖dlshogi

この動画の後半約半分が第2局です。

dlshogiの8筋突破と水匠の受け

第1図は、後手・dlshogiの早繰り銀に、先手・水匠が2筋の継ぎ歩で対抗している局面。

【第1図は39手目▲8八銀まで】
後手の持駒:角 歩 
  9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一
| ・v飛 ・ ・v金v玉v金 ・ ・|二
| ・ ・ ・v歩v歩v歩v銀 ・ ・|三
|v歩 ・ ・ ・ ・ ・v歩v歩v歩|四
| ・v歩v銀 ・ ・ ・ ・ 歩 ・|五
| 歩 ・v歩 ・ ・ 歩 歩 ・ ・|六
| ・ 歩 ・ 歩 歩 銀 桂 ・ 歩|七
| ・ 銀 金 玉 ・ ・ 金 ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ 飛 香|九
+---------------------------+
先手の持駒:角 
手数=39  ▲8八銀まで

第1図以下の指し手
      △5五角
▲2四歩  △2二歩
▲5六歩  △8八角成
▲同 金  △8六歩
▲同 歩  △同 銀(第2図)

【第2図は48手目△8六同銀まで】
後手の持駒:銀 歩 
  9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一
| ・v飛 ・ ・v金v玉v金v歩 ・|二
| ・ ・ ・v歩v歩v歩v銀 ・ ・|三
|v歩 ・ ・ ・ ・ ・v歩 歩v歩|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| 歩v銀v歩 ・ 歩 歩 歩 ・ ・|六
| ・ ・ ・ 歩 ・ 銀 桂 ・ 歩|七
| ・ 金 ・ 玉 ・ ・ 金 ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ 飛 香|九
+---------------------------+
先手の持駒:角二 歩二 
手数=48  △8六同銀まで

dlshogiは△5五角から△8八角成と、先手の左銀を取って露骨に8筋を攻めていきました。

途中、やってこいと水匠が▲5六歩と催促しているのもなんとも強い指し手です。

人間界では勝ちにくい将棋

風前の灯火の8筋ですが、第2図からの次の一手は▲5八玉?!(第3図)でした。

【第3図は49手目▲5八玉まで】
後手の持駒:銀 歩 
  9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一
| ・v飛 ・ ・v金v玉v金v歩 ・|二
| ・ ・ ・v歩v歩v歩v銀 ・ ・|三
|v歩 ・ ・ ・ ・ ・v歩 歩v歩|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| 歩v銀v歩 ・ 歩 歩 歩 ・ ・|六
| ・ ・ ・ 歩 ・ 銀 桂 ・ 歩|七
| ・ 金 ・ ・ 玉 ・ 金 ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ 飛 香|九
+---------------------------+
先手の持駒:角二 歩二 
手数=49 ▲5八玉まで

8筋は何も受けず相手の飛車を責めることもなく、戦場から一路じっと離れる、驚くべき一手です。

このあたりの攻防を、解説の佐々木勇気七段と阿部健治郎七段は以下のように評しています(動画の4時間35分辺り)。

佐々木七段
部分的にこういう攻め筋があるんだ、というのだけでも新しい発見でした。△5五角というのが単調にも見えるんですけど受けにくい、ということなんですね。そしてこれをしのいだ水匠もすごかったですね。

阿部七段
ここからの受けは勉強になりましたね。

佐々木七段
棋士はこういう棋譜を見て、これは受かる形なんだとか認識ができてくるので。とてもいい将棋だったと思います。

一方、先手の紙一重の受けに対し、ゲストの渡辺明名人は以下のようにコメントしています(動画の3時間15分辺り)。

渡辺
こんな玉が裸になっちゃったら人間界では負けそうですが。

解説にも「棋風」が出ているのが面白いところです(渡辺名人はゲストなので解説というつもりはないのかもしれません)。

異次元の銀のタダ捨て

進んで第4図。

【第4図は71手目▲6四金まで】
後手の持駒:角 銀 歩 
  9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一
| ・ ・ ・ ・v玉 ・v金v歩 ・|二
| ・ 歩v飛 ・v歩v歩v銀 ・ ・|三
|v歩 ・ ・ 金 ・ ・v歩 歩v歩|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| 歩v銀 ・v歩 歩 歩 歩 ・ ・|六
| ・v歩 ・ ・ ・ 銀 桂 ・ 歩|七
| ・ 金 ・ 歩 玉 ・ 金 ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ 飛 香|九
+---------------------------+
先手の持駒:角 歩 
手数=71 ▲6四金まで

ここからの攻防が異次元でした。

第4図以下の指し手
      △4九銀!!
▲同 飛  △8五角
▲7六歩! △同 角
▲6七銀! (第5図)

【第5図は77手目▲6七銀まで】
後手の持駒:歩二 
  9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一
| ・ ・ ・ ・v玉 ・v金v歩 ・|二
| ・ 歩v飛 ・v歩v歩v銀 ・ ・|三
|v歩 ・ ・ 金 ・ ・v歩 歩v歩|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| 歩v銀v角v歩 歩 歩 歩 ・ ・|六
| ・v歩 ・ 銀 ・ 銀 桂 ・ 歩|七
| ・ 金 ・ 歩 玉 ・ 金 ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ 飛 ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手の持駒:角 
手数=77  ▲6七銀まで

後手・dlshogiは、逆サイドから単騎の銀捨て・△4九銀を披露しました。

▲4九同玉には△7九飛成があるので▲同飛ですが、そこで△8五角。以下玉を逃げる手には、飛車を呼び込んだおかげで△4九角成があります。

途中、△8五角に▲7六歩の中合いが隠れた好手で、後の▲7七歩が角取りの先手になるようにしています。

第5図以下、△6七同歩成▲同歩と進み、何事もなかったように先手の6筋の歩が6七の位置に戻りました。

間違い探しのような手順

少し進んで第6図。

【第6図は84手目△6三歩まで】
後手の持駒:銀 歩 
  9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一
| ・ ・ ・ ・v玉 ・v金v歩 ・|二
| ・ 歩 ・v歩v歩v歩v銀 ・ ・|三
|v歩 ・ ・ 金 ・ ・v歩 歩v歩|四
| ・v角v飛 ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| 歩v銀 ・ ・ 歩 歩 歩 ・ ・|六
| ・v歩 歩 歩 ・ 銀 桂 ・ 歩|七
| ・ ・ 金 ・ 玉 ・ 金 ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ 飛 ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手の持駒:角 
手数=84 △6三歩まで

ここからの手順も、阿部七段と佐々木七段がうなってしまうものでした。

第6図以下の指し手
▲7六角! △同 角
▲同 歩  △同 飛
▲6八金! △8五角!
▲5三金  △同 玉
▲7七歩  (第7図)

【第7図は93手目▲7七歩まで】
後手の持駒:金 銀 歩二 
  9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一
| ・ ・ ・ ・ ・ ・v金v歩 ・|二
| ・ 歩 ・v歩v玉v歩v銀 ・ ・|三
|v歩 ・ ・ ・ ・ ・v歩 歩v歩|四
| ・v角 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| 歩v銀v飛 ・ 歩 歩 歩 ・ ・|六
| ・v歩 歩 歩 ・ 銀 桂 ・ 歩|七
| ・ ・ ・ 金 玉 ・ 金 ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ 飛 ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手の持駒:角 
手数=93  ▲7七歩まで

第6図のタイミングで▲5三金は後述の通り本譜に比べて損で、代わる一手が▲7六角!

金取りを受けず、ひもが付いている後手の角に対し当たりを付けても無視されて金損してしまいそうですが、△6四歩には▲8五角△同飛▲7四角の王手飛車があります。

△7六同角▲同歩△同飛の進行も、みすみす一歩損したうえ歩切れになっていて先手がまずそうですが、そこでじっと▲6八金。飛車を7六に呼び込んだ効果で、ここでも△6四歩には▲8五角の王手飛車です。

なお、▲6八金の代わりに▲6三金△同玉▲8五角△7四飛▲同角△同玉▲7二飛△7三桂の進行は後手優勢のようです(私の環境で後手の約+1000点)。後手玉は丸裸の中段玉ですが、先手に後続手がないということですか・・・。真似できません。

本譜の△8五角打は解説がスルーされるほどの人知を超えた一手。そして▲5三金で一歩入手して▲7七歩(第7図)。5三で一歩入手できるので歩切れを気にしていなかったようです。この辺りの手順は、佐々木七段が「間違い探しみたいなものですね」(4時間24分辺り)と評するほどの細かい応酬です。

第7図となっては、第6図で▲5三金とするのに比べて先手の左金がゼロ手で6八に移動できたような格好となっており、第7図以下△7四飛に▲4五桂からの待望の反撃が開始されました。ただし、局面自体はまだまだ互角(!)です。

やりたい放題でも均衡がとれているAIの将棋

本譜はこのあと120手目あたりまで互角で推移しました。

とりわけ第5図から第6図辺りは、双方が派手な手をやりたい放題やっているように見えますが、驚くべきことに均衡は保たれ続けています。

アマチュアは、自分のやりたいようにやる。プロ棋士は、相手の手を殺す(狙いを消す)指し回しで均衡を保つ。そして
コンピュータ将棋ソフトは、一周回ってやりたいようにやっている、とでも言えるでしょうか。

ただし、アマとソフトの違いは、アマの場合はどちらかが倒れている(局面の均衡が崩れている)のに対し、ソフトの場合は均衡が保たれ続けていることです。

自宅の研究環境が劇的に改善した渡辺明名人

ちなみに、先日書いた以下記事にて、

コンピュータ将棋界がこのようにトップ棋士を招くことができた背景に、ついにAIトレーナー契約でも結ばれたのか?と勘ぐってしまいました。公になることはないでしょうから、妄想にとどめておきます。

と書いていたところ、7月16日に驚きの長文記事が公開されました。

水匠開発者のたややんさんが、渡辺名人の自宅PCのセットアップを協力していたことが明らかになりました。私の妄想は当たらずとも遠からず、というか近かったと言えます。このときの縁もあって、電流戦長時間マッチのゲスト出演を渡辺名人が承諾したのかもしれません。

関連記事

この記事を気に入ったらシェアしよう
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次