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電竜戦さくらリーグ2022
2022年4月2日から3日にかけて、「電竜戦さくらリーグ2022」が開催されました。
世界コンピュータ将棋選手権ルール(持ち時間15分、1手5秒加算、最大320手)で行われ、5月に行われる第32回世界コンピュータ将棋選手権(WCSC32)前の実験や練習の場としての意味合いが強かった大会と言えます。
なお、リーグ構成はA級(表裏総当たり)、B級(片面スイス)、人類リーグの3つで、「BURNING_BRIDGES」や「ふかうら王」など、名の知れた将棋AI(コンピュータ将棋ソフト)チームも多数参加していました。
が、WCSC32に向けて手の内を隠していた、または完成度が十分ではなかったチームが多かったと考えられます。
振り飛車党・dlshogi_HoneyWaffleBook
そんな中で、A級リーグで出場していた将棋AIのうちの1つが「dlshogi_HoneyWaffleBook」(開発者は山岡忠夫さん)でした。
つい先日、
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振り飛車を指すdlshogiがfloodgateに登場
オンラインのコンピュータ将棋連続対局場所、floodgate。将棋AIの新たな開発手法の実験の場として活用されており、水匠やBURNING BRIDGESなど、強豪将棋AIがしのぎを削っています。Deep Learning系の将棋AI、dlshogiもそのひとつです。
という記事を書いたばかりで、この中でfloodgateに登場していた「dlshogi_HoneyWaffleBook_v100x8」について、
dlshogi開発者のうちのどなたかが登録しているものかどうかはわかりません。また、将棋AIの名前がそうであるだけで実際にdlshogiとHoneyWaffleを組み合わせたものかどうかはわかりません。
と書いたのですが、どうやら本物だったようです。
結果は、A級8チーム中4位と、まずまずの成績でした(なお、優勝は「sakura」でした。おめでとうございます)。
dlshogi_HoneyWaffleBookの棋譜
dlshogi_HoneyWaffleBookのすべての棋譜(盤面再生可能)は、以下のページで観ることができます。
dlshogi_HoneyWaffleBookの棋譜
全14局のうち、三間飛車が5局、四間飛車が4局、中飛車が2局、向かい飛車が1局と、三間飛車と四間飛車が多いながらもすべての筋に飛車を振っています。
残る2局のうち、1局は相手(daigorilla)がいきなり右四間飛車風に来たため定跡を外れて居飛車を採用した一局で、もう1局は相手(優勝したsakura)が後手番で2手目△9四歩〜4手目△9五歩としたため定跡を外れて居飛車を採用した一局でした。
いくつか棋譜を紹介します。
VS Guest
まずはGuest戦。先手Hefeweizenのノーマル三間飛車 VS 後手Guestの居飛車急戦(△6五歩早仕掛け)となりました(第1図)。
第1図はGuestが△6五歩と仕掛けたところです。以下▲8八飛△6六歩▲同銀△6五歩▲5七銀△6四銀▲2八玉△4二金直(現代調の居飛車金無双)▲2二角成△同玉・・・と進み、その後第2図となりました。
8二の飛車を6二に回った第2図で、dlshogiの次の一手は▲6五桂!?後手が6筋を手厚くした直後なので意表を突かれます。
△6五同銀で桂損ですが、▲6六歩と打って、6六の地点で清算した場合最後の△6六同飛に▲7七角の王手飛車があります。よって▲6六歩に後手は△7三桂と力をためましたが、先手もじっと▲6九飛と回り、以下△7五歩▲同歩△6六銀▲同金△6五桂打?!▲同金?!△同桂▲4六銀(第3図)と進みました。
振り飛車が駒損無くさばけており、dlshogiは約+850点先手良しと評価しています。
第3図以下、△6七歩▲2六桂△2四金?!▲7三銀?!△6三飛▲6七飛△7七角成?!▲6六角△3三桂?!▲7七角△同桂成▲6四歩?!(第4図)と、個人的には一手進めるたびに違和感を覚える異次元の攻防が続きました(この後も続きます)。
POINT
- △2四金・・・▲3四桂を防ぐ△2五銀はよく見ます(△2六銀と取る手もあるため受け一方ではない)が、△2四金(受け一方の印象)はあまり見ません。
- ▲7三銀・・・足の長い角でなく銀をここに打つのは、遊びそうで抵抗あり。しかし後の展開を見てわかるように、もとよりこの銀は取らせて先手の飛車を成りこむ(さばく)のが狙い。
- △7七角成~△3三桂・・・香を取らず、気持ちのよさそうな▲6六角を打たせ、そしてそれを取らず△3三桂。感覚が破壊されます。
- ▲6四歩・・・あくまで銀を取らせたい。本譜は以下△6七成桂▲6三歩成。単に▲6三飛成とせず、成桂を手順に6七に寄らせて一歩使って時間差で飛車を取る異次元の順。理由は手を進めるとわかります。
結果は、dlshogiが優勢をキープし勝利。
VS ふかうら王
本局は、定跡(Book)で飛車を振らせることの難しさが現れた一局だと思います。
後手の△1四歩~△1五歩で振り飛車定跡を外れたのでしょうか、先手・dlshogiの次の一手は▲2八飛?!の振り戻しでした。
以下、後手雁木VS先手急戦の定跡形のような将棋になり(第6図)、dlshogiが勝利したのはご愛敬です。
番外編・sakuraの三間飛車
dlshogi が居飛車を採用した2局のうちの1局が本局です。相手のsakuraがまさかの後手ノーマル三間飛車を採用しました(第7図)。
先手は松尾流穴熊、後手は4枚銀冠でこのあと9一に玉を潜り相穴熊の戦いとなりました。
進んで第8図では後手の穴熊だけ空中分解し、終盤戦では第9図のように二枚飛車に挟まれ生きた心地のしない丸裸の中段玉に。
しかしsakuraは涼しい顔で(?)dlshogiの攻めをひたすら受け続け、最終盤では振り飛車穴熊が再生して勝勢に(第10図。実は第9図の時点で後手の約+1300点になっています)。
この後246手で後手sakuraが勝利しました。
WCSC32での本気のdlshogiに注目
第32回世界コンピュータ将棋選手権(WCSC32)の前哨戦とも言える電竜戦さくらリーグ2022で、振り飛車定跡と組み合わせることで魅力的な振り飛車戦法を披露してくれたdlshogi_HoneyWaffleBook。
WCSC32にはHEROZチームとして「dlshogi with HEROZ」というプログラム名で出場するようです。
居飛車を採用して本気で優勝を狙いにいくのは間違いないでしょう。
谷合廣紀四段が開発者として参戦することも見どころのひとつであるWCSC32。今年も注目したいと思います。
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