目次
菅井ノート第2弾「先手編」
「菅井ノート 先手編」のひとくちレビューをお送りします。
著者は、棋書名からもわかる通り菅井竜也八段です。
「菅井ノート」シリーズは、今回紹介する先手編も含め、これまで(2020年10月まで)に後手編、先手編、実戦編、そして相振り編の4冊がリリースされてきました。
第2弾となるこの先手編では、初手から▲7六歩△3四歩のところで▲7五歩(第1図)と突く先手石田流と、先手番ゴキゲン中飛車が詳細に解説されています。
なお、過去に相振り編のレビュー記事を書いています。
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「菅井ノート 相振り編」ひとくちレビュー
「菅井ノート 相振り編」を購入しました。ひとくちレビューをお送りします。菅井ノート 先手編、後手編、そして実戦編に続く第4弾が、この相振り編です。「本書を執筆し始めた頃は、まだ王位リーグを戦っている最中」(あとがきより)であり、その後王位のタイトル獲得当日に将棋情報局編集部による本書のリリースが発表され、そして2017年10月の発売と、忙しくかつノリに乗っている最中に執筆・発売されたのが本書です。
本書の目次
本書の目次は以下の通りです。
本書の目次
第1章 石田流急戦
はじめに
第1節 ▲7四歩急戦型
第2節 ▲4八玉型
第3節 ▲7六飛早浮き型
第2章 石田流持久戦
第1節 △3一玉型左美濃
第2節 ▲7七角型
第3章 石田流VS角交換型
第1節 後手角交換型
第2節 振り飛車の修正策
第4章 石田流VS△1四歩型
第1節 最新の△1四歩型
第2節 △1四歩の対抗策
第5章 先手中飛車VS△6四銀
第1節 △6四銀対抗型-△2二玉型
第2節 △6四銀対抗型-△3二玉型
第6章 中飛車VS持久戦
第1節 中飛車対△5四歩型持久戦
第7章 中飛車VS一直線穴熊
第1節 中飛車対一直線穴熊
第8章 相振り飛車
第1節 定跡編
第2節 実戦編
第1章から第4章までが先手石田流、第5章から第7章までが先手ゴキゲン中飛車の解説です。
また、第8章の「相振り飛車」で解説されているのはすべて先手三間飛車であり、これも実質三間飛車の章といえます。
以下、石田流と相振り飛車の章に絞ってレビューしていきます。
第1章 石田流急戦
第1章では、3手目▲7五歩に対し居飛車が△8四歩〜△8五歩と突いてくるケース(第2図)が解説されています。
そして、第2図からいきなり▲7四歩(第3図)と突くいわゆる「新・石田流」(鈴木流急戦)が第1章の第1節で解説されています。
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石田流の基礎知識 新・石田流とは
「新・石田流」とは、鈴木大介八段が考案した7手目▲7四歩からの一連の新構想に付けられた呼び名です。「鈴木新手」や「鈴木流急戦」とも呼ばれます。第32回(2005年)升田幸三賞に輝きました。
ただし、△7四同歩(△6二銀の解説も)に▲同飛は旧式であるとして玉を上がる手がメインに解説されています。
続いて第2図から▲4八玉と上がってじっくり指す「升田式石田流」が第2節で解説されています。
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石田流の基礎知識 升田式石田流とは
「升田式石田流」は、その名の通り升田幸三実力制第4代名人が編み出した石田流の布陣です。升田式石田流の駒組みの特徴として、下記が挙げられます。「角交換型」「▲6六歩はできるだけ保留」「▲7八金型」
また、▲4八玉△6二銀のタイミングで▲7四歩(第4図)と突くいわゆる「早石田」、「久保流急戦」もこの節で解説されています。
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奇襲戦法の基礎知識 早石田とは
早石田とは、石田流のオープニングから▲4八玉と上がった直後に▲7四歩と速攻を仕掛けていく戦法です。意外性、決まったときの破壊力、そして相手に正しく応対されると不利になるという特徴から、奇襲戦法に分類されています。
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石田流の基礎知識 久保流急戦(久保新手▲7五飛)とは
久保流急戦とは、2009年に行われた第34期棋王戦五番勝負第2局、▲久保利明八段 対 △佐藤康光棋王(段位は当時)戦で、久保八段が披露した新手▲7五飛、およびその後の一連の構想です。この新手で、久保八段は第36回升田幸三賞を受賞しました。
第1章の最後として、第2図から▲7六飛?!(第5図)とする変化が第3節で解説されています。
早くも盛りだくさんでお腹いっぱいな感じがしますが、実際のところこの第1章のように3手目▲7五歩に対し強く△8四歩〜△8五歩と一直線に突いてくる居飛車党は、プロ棋士でも佐藤康光九段くらいで、とりわけアマ棋界ではめったに現れないかもしれません。
第2章 石田流持久戦
第2章では、3手目▲7五歩に対し4手目△4二玉から先手石田流VS後手左美濃の持久戦模様に進む戦型が解説されています(第6図)。
先後双方の布陣が美しく、先手石田流VS後手居飛車の中で最も「王道」で格調の高い戦型と言えるのではないかと思います。
なお、なぜ4手目△4二玉だと持久戦に進むのかの理由についても簡単に解説されています。
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Hefeweizenの三間飛車(6)先手石田流VS4手目△4二玉・乱戦
将棋倶楽部24に参戦中の振り飛車党コンピュータ将棋ソフト、Hefeweizen(別名「白ビール」)。2019年7月、Hefeweizen(とKristallweizen)開発者の一人であるたまさんが、Hefeweizenが24で勝利した対局の棋譜を集めた棋譜集を公開しました。
2013年発売の棋書なので、さすがに対エルモ囲い右四間飛車は掲載されていません(当時はまだエルモ囲いが生まれてすらいません)。
第3章 石田流VS角交換型
第3章では、3手目▲7五歩に対し△8八角成(第7図)といきなり角交換してきたときの戦いが解説されています。
第7図以下▲8八同飛と取る変化と▲8八同銀と取る変化の両方が解説されています。
△8八角成は居飛車から見て手損になるのでやりにくい一手ですが、実は石田流側から見ても気分がいいわけではありません。
第7図以下角交換後ダイレクトに▲7八飛と回ると「△4五角問題」がつきまとうので、結局▲6八飛(6七の地点をケア)と途中下車し玉を3八に移動(2七の地点をケア)してから▲7八飛と回って石田流を目指すことになります(四間飛車のままか向かい飛車に振り直す構想もあります)。
めったに遭遇することはありませんが、後手が望めば必ず狙える形なので、対策を持っておく必要があります。
第4章 石田流VS△1四歩型
第4章では、3手目▲7五歩に対し△1四歩(第8図)と端歩を突いて様子を見てきたときの戦いが解説されています。
第8図以下の先手の数手を見て居飛車か振り飛車かを選択する、「後出しじゃんけん」の思想の一手で、石田流の難敵のひとつとされています。
これに対し、菅井八段のとっておきの研究手も含め、主に5手目▲7八飛の変化が詳しく解説されています。
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来月(2018年8月)、「振り飛車最前線 石田流VS△1四歩型」が発売されることがわかりました。著者は村田顕弘六段。過去に「アマの知らない マル秘定跡」や「先手中飛車 最強の証明 ―主要5戦型徹底分析―」、「現代横歩取りのすべて」などの著書があり、数多くの戦型でわかりやすい解説とともに定跡の体系化を進めているプロ棋士の先生です。
第8章 相振り飛車
最後の第8章では、相三間飛車(第9図)と先手三間飛車VS△5三銀型向かい居飛車の戦いが解説されています。
相三間飛車よりもむしろ後者の先手三間飛車VS△5三銀型向かい居飛車の解説のほうが、希少価値が高いうえ勉強になる手順の解説が多いと私は感じます。
「菅井ノート 相振り編」のレビューでも書いた、「スピード重視」と「B面攻撃」という菅井流相振り飛車の極意を学べるのではないかと思います。
もちろん「相振り編」一冊を読んだほうが極意にどっぷり浸かれます。
積極的に戦いたい振り飛車党に
第1章の石田流急戦をはじめとして、手を作って自分から積極的に動いていこうという思想にあふれた「菅井ノート 先手編」。
菅井竜也八段ファンはもちろん、攻撃的な振り飛車党にオススメの一冊です。
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