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池永天志五段の2冊目の著書
「対三間飛車 一直線銀冠」のひとくちレビューをお送りします。
著者は池永天志五段。第51期新人王戦、第9期加古川青流戦での優勝経験があります。
過去に「現代角換わりのすべて」を執筆しており、そちらが有段者向けだったのに対し、本書は級位者の方にも読んでもらうことを念頭に執筆したそうです(まえがきより)。
本書の目次
本書の目次は以下の通りです。
本書の目次
序 章 銀冠について
第1章 銀冠の狙い
第2章 対石田流
第1節 △4三銀型
第2節 △5三銀型
第3章 対三間飛車藤井システム
第1節 三間飛車藤井システムの狙い
第2節 △5三銀型
第4章 対穴熊
第1節 △4三銀型
第2節 △5三銀型
第5章 実戦編
この他に、コラムが3つあります。
隙あらば銀冠穴熊
本書で言う「一直線銀冠」とは、▲5六歩(後手番であれば△5四歩)を省略して素早く銀冠に組む戦術のことを指しています(参考1図)。
▲5六歩と突いていないこと以外は普通の局面ですが、ここにいたるまでの手順とこの先の手順には工夫があり、それらが解説されています。
さらに、銀冠に組んでからは「隙あらば銀冠穴熊」という思想も含んでいます。
もともと、ノーマル三間飛車に対しては居飛車穴熊と5筋不突きを組み合わせた居飛車戦術が有力という風潮がありましたが、「トマホーク」(参考2図)の台頭によって風向きが変わりました。
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VS居飛車穴熊の基礎知識 トマホークとは
「トマホーク」とは、5筋の歩を突いてない居飛車穴熊を相手に、ノーマル三間飛車▲6七銀型から左銀と端桂の進出を軸に強襲を仕掛ける、超攻撃的戦法です。アマチュア棋界でタップダイスさんがトマホークを解説した電子書籍(「トマホーク解体新書」など)をリリースしたことが主なきっかけとなり、その名が広まりました。
それならば5筋不突きと▲7八銀・▲7九玉型左美濃(からの銀冠や銀冠穴熊)とを組み合わせたらどうか、というのが本書の導入部となります。
▲7八玉型でなく▲7九玉型を選ぶ理由については、序章から第1章の前半で解説されています。
三間飛車の各種戦術への対策を解説
第1章では三間飛車側が漫然と組んできた場合の戦術、第2章では石田流組み換え対策(参考3図)、第3章では三間飛車藤井システム(居飛車銀冠に対する玉頭攻め。地下鉄飛車との組み合わせも)対策、第4章では三間飛車穴熊対策と、三間飛車側の戦術は網羅していると言えるでしょう。
それぞれ、△4三銀型対策と△5三銀型対策の両方が載っているのもグッドポイントです。
また、三間飛車藤井システム対策では、三間飛車側の右銀の形として△6三銀型(参考4図)と△8三銀型(参考5図)の両方が解説されています。
三間飛車藤井システムの強烈な玉頭攻めと、それを食い止めようとする居飛車との攻防の解説が秀逸で、居飛車党だけでなく三間飛車党にとっても非常に勉強になるでしょう。
ユニークな小見出しと解説
池永五段は言葉選びがかなり特徴的で、「ライト兄弟」、「最強の弟分」、「ダブルコンボ」といった小見出しは一見なんのことかわからず、解説を読むとなるほど、となります。
本文にも、「石田流阻止委員会の先頭を切る仕掛け」など、面白い表現が多数出てきます。「振り飛車穴熊は、自分がやってもうまくいかないのに、やられるといやな戦法である。」といった閑話には思わず笑ってしまいました(100%同意)。
三間飛車も十分戦える?
ユーモアのある解説の一方で、手順は本格的であり、ココセもありません。銀冠および銀冠穴熊の狙い筋を解説する第1章以外は、居飛車が圧倒的に良くなることはなく、三間飛車側も最善手で迎え撃てば十分に戦えることを示す内容になっています。
プロ棋界における対三間飛車の居飛車持久戦の主流が、銀冠を急がない通常の左美濃や居飛車穴熊(あるいはなかなか形を決めない両天秤の構え)である理由を暗に示している、とも言えるかもしれません。
とりわけ第3章の「対三間飛車藤井システム」を読むと、一直線銀冠は▲7八銀ならびに銀冠の形を早めに決めすぎているのがネックになっていると感じます(昨今のプロ棋界では、西田拓也五段の対居飛車銀冠が秀逸です)。
とはいえそれはプロレベルの話。本書は、手厚い銀冠の布陣が好きな居飛車党にはうってつけだと思います。三間飛車党にとっても非常に勉強になる、ユニークで高度な一冊です。
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