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新世紀に誕生した藤井システム対策
「ミレニアム囲い」とは、四間飛車藤井システムが猛威をふるった世紀末から新世紀をまたぐころ(西暦2000年ごろ)、居飛車穴熊に代わる堅い囲いが求められた時代に登場した、▲8九玉型が特徴の新たな囲いです(第1図、第2図)。
「トーチカ囲い」と呼ばれることもあります。とりわけ第1図の方をミレニアム囲い、第2図の方をトーチカ囲いと呼び分けられることもあります。
本記事内では簡略化のため以後単にミレニアムと呼びます。
この囲いと戦術をプロ間で確立した三浦弘行九段が、2002年の第28回升田幸三賞を受賞しました。
将棋大賞 - Wikipedia
基本的に四間飛車藤井システム対策として用いられる囲いですが、今後三間飛車藤井システム対策として居飛穴の代わりに採用数が増えてくるかもしれないので、紹介します。
名前の由来
2000年当時、「ミレニアム」という言葉が流行していました。
ミレニアム - Wikipedia
2000年には、これを新千年紀の始まりと見なす考え方とキリスト教の大聖年の祝いとが渾然一体となった祝賀イベントが世界各国で行われ、「ミレニアム」と騒がれた。
このことから転じて、「2000年のことをミレニアム(ミレニアム・イヤー)」と呼ぶようにもなった。
この流行語がそのまま、新世紀に入ったころに登場した新たな囲いの名前になってしまいました。
数ある定跡名や囲いの名前の中でも、かなりユニークな名前の付き方です。
2つのミレニアム囲い
ミレニアムは、大きく分けて2つの形があります。1つ目は▲7八金+▲6七金型(第1図)、2つ目は▲7八金+▲7九金型(第2図)です。
玉が9九ではなく8九にいるのが共通する特徴です。
いずれも角は8八→6六→5七と移動して使うのが一般的。なぜなら、右銀を玉の方に引きつける際に6八を経由するからで、そのときに角が邪魔にならないようにするためです。
角の移動後に左桂を7七に跳ね、玉を7八から8九に移動し、以下金銀を引きつけて完成です。
▲7八金+▲6七金型の特徴
玉頭が比較的手厚いのが▲7八金+▲6七金型。
左銀は7九から8八へ、右銀は3九→4八→5九→6八→7九と移動します。
ここまで囲い切らず、第3図のような形で仕掛けていくこともあります。
途中まで▲6七金型居飛車穴熊に組もうとしたものの、振り飛車の攻勢に屈して妥協したケースに生じやすい囲いです(リスクが無ければ妥協せず居飛車穴熊に組みにいくのが普通)。
▲7八金+▲7九金型の特徴
重心が低くしっかりしているのが▲7八金+▲7九金型。
桂頭が非常に薄いため、序中盤は角でそこをカバーし、それ以降は左桂は攻撃参加させてサバくこともあります。
居飛車穴熊からの妥協の産物というにはやや思い切ったリスキーな布陣です。
桂頭のスキが怖いなら、第4図のように▲6六歩〜▲6七銀と進めて桂頭をケアすることも可能です。
ミレニアム穴熊?
▲7八金+▲7九金型の場合、さらなる発展形があります。それが第5図。
第2図から、さらに▲9八香〜▲9九玉〜▲8九金〜▲7九銀右と4手かけて完成です。普通の実戦でここまで囲うことはまずないでしょう。特異な形すぎて急所がよくわからず、固いのは間違いありません。
特定の呼び方はありませんが、さしずめ「ミレニアム穴熊」または「トーチカ穴熊」と言ったところでしょうか。
ミレニアムの戦術書
ミレニアムの戦術書としては、古くなりますが有名なものとして「四間飛車道場〈第1巻〉ミレニアム」(所司和晴七段 著)と「鉄壁!トーチカ戦法」(三浦弘行九段 著)があげられます。
「四間飛車道場〈第1巻〉ミレニアム」は、全16巻!にもおよぶ「四間飛車道場」シリーズの栄えある第1巻を飾っており、当時の注目度の高さがうかがえます。
所司 和晴 毎日コミュニケーションズ 2001-10
「鉄壁!トーチカ戦法」は、冒頭に書いた通りこの戦法で升田幸三賞を受賞した三浦弘行九段執筆の棋書。
いずれも対四間飛車の棋書ですが、対三間飛車藤井システムとしてのミレニアムの戦術書が発売になる日が来るかもしれません。
他の対策の流行で減少しているが・・・
2000年代に入ってから数年後、ミレニアムの登場する機会が少なくなってしまったのは、より有力な藤井システム対策(急戦策。参考1図)が現れたからで、さらにそのせいで藤井システムの勝率が下がりそもそも藤井システム自体が指されなくなってしまったからです。
しかし、近年藤井システムが復権して採用数が増えてきています。
これに合わせて温故知新でミレニアムの採用数が増えてくるかもしれません。
また、「緩急自在の新戦法! 三間飛車藤井システム」(佐藤和俊六段 著)の発売によって愛好者が増えそうな三間飛車藤井システム対策として、ミレニアムが指されるかもしれません(現に第66回NHK杯戦、▲羽生善治三冠 対 △佐藤和俊六段戦がそうでした)。
2020年9月追記:振り飛車ミレニアム登場
「ミレニアムを振り飛車と組み合わせても優秀なのではないか」。
そんな試みから、主に四間飛車の対居飛車穴熊戦術として、「振り飛車ミレニアム」(参考2図。略して「振りミレ」とも)が2020年に入った辺りからにわかに注目を集め始めています。
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「将棋革命!振り飛車ミレニアム戦法」2020年3月発売
2020年3月末に、振り飛車でミレニアム囲いに組んで戦う戦術書「将棋革命!振り飛車ミレニアム戦法」が発売されます。「ミレニアム囲い」(「トーチカ囲い」とも呼ばれています)は、従来居飛車VS振り飛車の対抗形で居飛車が採用する囲いです。このミレニアムを、振り飛車で採用する戦術を解説するのが本書です。
(追記ここまで)
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コメント
コメント一覧 (2件)
ミレニアムとトーチカの使い分けですけど、逆パターンになってるときもあります
まああまり明確に使い分けてないで亜種ぐらいの感覚なんでしょうが
dさん
コメントありがとうございました。
個人的には▲7八金+▲6七金型をミレニアム、▲7八金+▲7九金型をトーチカと呼ぶことで統一されると良いと思っています。