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人気上昇中の「へなちょこ急戦」
先月(2021年12月)紹介した、対ノーマル三間飛車の「へなちょこ急戦」(参考1図)。
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プロ棋士も認める、対三間飛車「へなちょこ急戦」とは?
2021年11月18日に行われた第80期順位戦C級2組7回戦、▲伊藤真吾六段 対 △山本博志四段戦。居飛車急戦VSノーマル三間飛車の戦型となった本局。伊藤六段の意欲的な急戦戦術に対し、三間飛車らしい3筋からの反撃で山本四段が優位に立ちました。
この記事の中で紹介した三間飛車党・山本博志四段のツイートの効果もあり、へなちょこ急戦の人気が増しているようです。
へなちょこ急戦対策のノーマル三間飛車△2二飛型
ただ実は、このへなちょこ急戦に対する安全策があります。それは、▲3七桂を見て△2二飛と寄って2筋を先受けすることです(参考2図)。
これに対し▲4五歩と突かれても、△同歩と取って三間飛車側は痛くもかゆくもありません。
▲3七桂と跳ねたタイミングで△2二飛と寄るのは、昭和時代の急戦定跡で定番であり、数々の定跡書で解説されています。▲5六歩と突いてあるか否かは関係ありません。
級位者や低段者はこれを知らずに△2二飛を怠ってしまうため、へなちょこ急戦などの▲4五歩早仕掛けを許すことになります。
裏を返すと、プロ棋士やネット将棋の超高段者はこれを知っていてあえて△2二飛と寄らず、相手の得意技を受け入れてかつ勝とうという「プロレススタイル」を採っているわけです。毎度同じような単調な将棋にはしない、という矜持もあるでしょう。これぞ広く深い研究と終盤力に裏打ちされた「銭のとれる将棋」なのではないかと思います。
△2二飛型対策の「へなちょこ持久戦」
△2二飛と受け止められた場合は超急戦を仕掛けられず、かつ右桂を跳ねてしまっているので居飛車穴熊や左美濃などの持久戦にはしにくいところ(やれなくはありません)。
そこで昭和の急戦定跡では、攻めの厚みを増すために▲5六歩を突いて左銀を繰り上げ、「▲5七銀左型急戦」へシフトするのが有力とされています。
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VS急戦の基礎知識 ▲5七銀左型急戦とは
「▲5七銀左型急戦」とは、先手居飛車急戦VS後手ノーマル三間飛車で、居飛車が船囲い▲5七銀左型に組んだあと4筋から仕掛けていく急戦定跡です。定跡書により呼び方は様々ですが、本ブログでは「三間飛車道場〈第3巻〉急戦」での呼び方である「▲5七銀左型急戦」にあわせます。
一方で、後手△2二飛に対し▲3七桂と跳ねたことを活かして地下鉄飛車の構想にシフトするのが、Sugarさん提案の「へなちょこ持久戦」です(参考3図。本記事で紹介している動画で登場する局面ではなく、参考局面です)。
Sugarさんは四間飛車+美濃囲い対策としてもこの地下鉄飛車構想を喧伝しています。
このような地下鉄飛車構想は、主に四間飛車穴熊対策として昔からある形ではありますが、三間飛車+美濃囲い対策としても指せることを提案しているという点は目新しく、価値があると思います。
「持久戦」と名付けられていますが、囲いは薄く、比較的早くから仕掛けの機会をうかがっているため、急戦と持久戦の中間の「亜急戦」と呼ぶのが個人的にはしっくりきます。
素早く仕掛けられた場合はボナンザ囲いへ
しかし三間飛車が四間飛車に比べて優秀な点として、このような地下鉄飛車シフトに対して単に△5三銀〜△6四銀、または△6四歩〜△6五歩としてから△5三銀〜△6四銀と、左銀をスムーズに前進したあと△5五歩と中央から速攻を仕掛けられる点が挙げられます。
これらに対しては、地下鉄飛車にこだわらず▲7七桂でなく▲7七銀と、いわゆる「ボナンザ囲い」に構えるケースもあります(参考4図。後手陣によっては通常通り▲7七桂もあります)。
これもまた目新しく、現代の流行をミックスしたポイントと言えそうです。
ただ、参考4図のように進むのならば、三間飛車側が不満なしのように思えます。いわゆる「真部流」の四枚高美濃囲いが好形すぎるためです。私が調べた限りでは、評価値的にも振り飛車作戦勝ち(約350点)でした。
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VS居飛車穴熊の基礎知識 真部流とは
対居飛車穴熊の作戦の中で最も美しい布陣、それが「真部流」です。故・真部一男九段が愛用していたためこの名が付いた、とされています。居飛車側が四枚穴熊に組むのをあえて阻止せず、目一杯穴熊囲いに手数をかけさせます。その代わりに、三間飛車側は4筋の位をとって▲5七銀型から▲4六銀と上がり、4筋位取り「四枚」美濃囲いを目指す構想です。
参考動画
動画の中では、なぜ本動画で解説している全4局ではへなちょこ急戦(▲4五歩早仕掛け)にしていないかは明言されていないのですが、その理由は前述の通りで、すべて△2二飛と受けられたからでしょう。
そこで登場するのが「へなちょこ持久戦」です。この動画の4分50秒辺りから観るとわかる通り、Sugarさんはこの戦法名をこの動画ではじめて明言したようです。
本動画では4局とも振り飛車側が素早く中央から動いているため、地下鉄飛車へシフトする前に戦いが始まっています(強い振り飛車党は、この居飛車の陣形を見れば例外なく角頭ならびに中央に目が行くようです)。
なお、本動画の第1局はSugarさんVS「アゲアゲ」こと折田翔吾四段戦とのことなのですが、短い持ち時間で紙一重の攻防を演じた熱戦だったと思います(参考5図。便宜上先後逆。以下△7九金に対し▲8八玉が正着でしたが、本譜は▲同玉と取ってしまったため、なんと先手玉は○○○しています)。
地下鉄飛車+αの戦法。三間側は真部流が有力
主に四間飛車穴熊対策として昔からある地下鉄飛車構想に、現代の思想をミックスして三間飛車+美濃囲い対策に仕立て上げた「へなちょこ持久戦」。
三間飛車側の対応によっては地下鉄飛車にすることはできず、へなちょこ急戦のように単純明快に戦うことはできませんが、バランス型の軽快で魅力ある戦法と言えるでしょう。
三間飛車側は、△6四銀型、特に真部流の四枚高美濃囲いに組むのが有力で、十分に戦えると思います。
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