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平成最後に現れた、コンピュータ発の舟囲いの派生形
エルモ囲いとは、コンピュータ将棋ソフトの「elmo」(瀧澤誠氏が開発。第27回世界コンピュータ将棋選手権で優勝)が好んで採用していた、舟囲いから派生した囲いです(代表図)。
▲7九金型(△3一金型)である点が一番の特徴です。6九の金を7九に寄っています。
ちなみに▲7九金型(△3一金型)は、昭和の時代には5筋の位を取らないクラシックな中飛車に対する△6四金戦法(参考1図)との組み合わせでよく指されていました。
しかし、この場合右金を攻めに使う一方、平成最後に現れたエルモ囲いでは右金を5九(5一)または4八(6二)に置いて受けに使います。これがエルモ囲いのもう1つの大きな特徴です。
先駆者の大橋四段。渡辺明棋王も
プロ棋界では、2018年の第8期加古川清流戦にて、大橋貴洸四段が準々決勝で井出隼平四段の四間飛車、準決勝で杉本和陽四段の三間飛車相手に連続採用(第1図、第2図。先手の飛車の位置が違うだけ)して連勝したことで、一躍注目を集めました。
この頃は一時的に「大橋囲い」と呼ばれることもありましたが、2019年8月現在、「エルモ囲い」の名称が完全に定着しています。
2019年1月には、タイトル戦の大舞台でも登場しました。第68期王将戦七番勝負第2局、▲久保利明王将 対 △渡辺明棋王(肩書は当時)戦です(結果は渡辺棋王の勝ち)。
エルモ囲いの長所
エルモ囲いの長所は、例えば以下の通りです。
金銀の連結が良い
エルモ囲いは金銀の連結がとても良い囲いです。例えば前述の第2図。3一、5一の金に4二の銀のひもが付いています。4二の銀にいたっては金2枚に加え5三の銀のひもも付いています。
一段飛車に強い
対三間飛車の有名な急戦定跡として、「▲5七銀左型急戦」(参考2図)と「▲4五歩早仕掛け(参考3図)」があります。
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これらの舟囲いでは、6九の金に対し玉でしかひもが付いていないので、一段目に飛車を設置したあと8七などの左辺から攻めて▲同玉と取らせて玉を移動させれば、△6九飛成と金を取りながら一気に先手玉を追い込むことができます。または、6九の金に対し飛車と角などの2枚のにらみをきかせて攻め立てる筋もあります。
一方エルモ囲いでは、7九の金に玉と銀でひもが付いているので、多少の揺さぶりには動じません。駒の連結の良さが活きています。
エルモ囲いの攻略法
これまで書いてきたような長所を持つエルモ囲いを攻略するには、以下の方法が効果的です。
エルモ囲いは1段目からの攻めに強いので、上から攻めることを心がけます。
通常の舟囲いは、△4二金直などで上部を厚くすることができますが、エルモ囲いでは3二に玉、4二に銀がいるため3一の金が上がるには△2二金と壁金になるほうから上がらなくてはなりません。
効果的な玉頭攻めを決めた対局の一例が第3図。
コンピュータ将棋ソフトのHefeweizenが、7九の金を相手にせず上部からの猛攻を決めました。
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Hefeweizenの三間飛車(4)光速のelmo囲い崩し
5月に行われる第29回世界コンピュータ将棋選手権(WCSC29)に、HefeweizenはKristallweizenと改名して出場することになったようです。しかし将棋倶楽部24にはHefeweizenの名で今でも元気に(?)参戦中。本局は2018年11月に行われた▲某七段との一戦です。
プロの実戦例の1つが2019年2月に行われた第77期順位戦C級2組、▲西川和宏六段 対 △石田直裕五段戦(第4図)。
2二の桂は誤植ではありません。どうしてこうなったと言いたくなるような、大駒3枚とと金による猛烈な玉頭攻めです(結果は先手・西川六段が見事勝利)。
なかなか狙って玉頭攻めできるものではありませんが、序盤の駒組みや中盤の攻防で、玉頭を手厚くすることを意識すると良いのではないでしょうか。なお西田拓也四段は将棋世界2019年9月号の付録「定跡次の一手 令和の三間飛車対急戦」にて、エルモ囲い急戦に対して銀冠から玉頭攻めを繰り出す戦術を解説しており、参考になると思います。
将棋の新たな可能性を感じる囲い
居飛車VS振り飛車の対抗系において、居飛車急戦の新たな可能性を引き出したエルモ囲い。
最近(2019年夏)のプロ棋戦では、居飛車穴熊や左美濃などの持久戦に回帰していてエルモ囲いを見る機会が減ったような気がしますが、今後も一定数指されることでしょう。
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