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水匠、優勝
2020年5月3、4日に行われた、世界コンピュータ将棋オンライン大会(World Computer Shogi Online Competition。以下「WCSOC2020」)。
新型コロナウィルス・COVID-19の影響により中止になった第30回世界コンピュータ将棋選手権(WCSC30)に代わって行われた、オンライン将棋大会です。
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このWCSOC2020にて、昨年の第29回世界コンピュータ将棋選手権(WCSC29)で第7位だった水匠が大きく順位を上げ、優勝しました。おめでとうございます。
水匠開発者のたややんさんは、この大会で用いた評価関数+探索部を「水匠2」として早速公開しています。
最強クラスのコンピュータ将棋ソフトを使用したい方は、是非ともダウンロードしてみると良いでしょう。
ちなみにたややんさんは昨年、振り飛車評価関数であるNNUEkaiXF、振電とその改良版の振電改を公開しています。今年も振り飛車関数をリリースしてくれることを期待しています。
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Hefeweizenは準優勝
2位は昨年のWCSC29に続きBarrel houseチームのHefeweizen-2020(白ビール)となりました。
ここ3年間で優勝→準優勝→準優勝と、安定した強さを発揮しています。
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HoneyWaffleは11位
やはり今年も居飛車党ソフトが大多数でした。2日目に残った28のソフトのうち、振り飛車党ソフトはHoneyWaffle(ハニーワッフル)と山田将棋の2つだけだったようです。
山田将棋は2日目は最下位と残念な結果に終わったため、11位となったHoneyWaffleがひとり(1台?)気を吐いた格好です。
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HoneyWaffleの戦績については、開発者の渡辺光彦さんが開発者目線で一局一局詳しく振り返っています。
8局中、三間飛車は最多の3局で2勝1敗。ただ、結果的にほぼランキング上位に負け下位に勝つという結果だったので、どこに振ったかはあまり関係ないかもしれません。
本記事では、三間飛車の3局(Hefeweizen-2020戦、Fluke戦、スーパーうさぴょん2X戦)を簡単に紹介させていただきます。ソフト開発者目線の解説は渡辺光彦さんのnoteが詳しいので、ここでは指し将目線の解説・感想がメインです。
3回戦 Hefeweizen-2020戦
棋譜はこちらから参照することができます。
後手番となったHoneyWaffleは序盤、三間飛車藤井システム(三間飛車+居玉+早めの端歩突き越し)を採用して先手に揺さぶりをかけています(第1図)。
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以下、駒組みが進んで第2図へ進行。
3三の角のラインが厳しく居飛車は銀冠穴熊に組み換えにくいうえ、攻めの形も作りづらく、振り飛車不満なしの序盤と言えそうです。
実際、この後居飛車は▲7七角と上り直して米長玉(▲9八玉型)に組み、振り飛車が玉頭から先行する展開となりました(第3図)。
桂取りを確定させて振り飛車好調のようですが、▲5九角が△3七歩成に▲同角を用意しながら▲8六歩を可能にした一石二鳥の一手で、バランスが取れています。
第3図以下△4五歩に▲8八金上で△9七桂成からの殺到に対する受けが間に合っていることもポイントです。
この後、80手目辺りでは振り飛車わずかに良しだったようですが、地力に勝る白ビールに時間攻めも食らって逆転負け。残念な結果となりました。
ちなみに228手まで続く中終盤の攻防は異次元の内容です。例えば200手目の局面(第4図)。
POINT
- 先手玉が「龍冠」になっている
- 後手玉がサイドチェンジし串カツ囲いになっている
- 美濃囲いがあった位置に三桂が固まっている
など、ツッコミどころ満載。将棋の神様に近い棋力を持つふたつのソフトが最善手を目指した結果、このような局面となるのだから、不思議なものです。
辛抱強い方は考えながらじっくり並べてみると良いでしょう(私にはできませんでした)。
5回戦 Fluke戦
棋譜はこちらから参照することができます。
乱戦模様の立ち上がりのすえ迎えた第5図。
後手の飛車は3筋から4筋に振り直しています。居飛車がきちんと税金を払っている(▲1六歩と自分だけ突いている)のを見ると、人間の格言もバカにならないものだな、となんだかホッとします。
第5図以下の指し手
▲2四歩 △同 歩
▲2九飛?!△6二銀引
▲4五歩 △同 歩
▲3三角成 △同 桂
▲6六角 △4六角
▲3三角成 △3七角成
▲2六飛 △5五歩
▲同 銀 △4六歩(第6図)
▲4五歩に対しあっさり△同歩と取り、角交換される筋をあまり苦にしないのがコンピュータ将棋ソフトの特徴と言えます。
角交換上等の角道オープン振り飛車はさておき、「(ノーマル)振り飛車には角交換」というのが古来からある人間の格言です。裏を返せば単純な角交換をされない(角交換をするときは左辺の飛車銀桂のさばきもセット)ような序盤の組み立てをするのが人間のノーマル振り飛車です。
一方でソフトの振り飛車は人間から見ると隙だらけの陣形に見えたりする(前述のWCSC29でのHoneyWaffleの戦術も参照ください)のですが、実はその感覚に人間の方が慣れなければならないのかもしれません。
さて第6図に進み、先手の二枚飛車は確定(実際そうなりました)。先手の玉も十分に堅そうですし、素人目には形勢が先手に傾いたように見えるのですが、ソフト的にはまさにこの第6図辺りで形勢が後手に傾いたと評価しているのだから、驚くほかありません。
第6図以下、後手のHoneyWaffleは自玉の危険を顧みず、相手の攻めの手に乗って中段玉に逃げ出したあとは、二枚の馬の挟撃から一気に先手玉を寄せて勝利しました。
7回戦 スーパーうさぴょん2X戦
棋譜はこちらから参照することができます。
HoneyWaffleの初手▲7八飛から、スーパーうさぴょん2Xがいわゆる金無双急戦で対抗する形となりました(第7図)。
第7図以下、うさぴょんが攻めあぐね、第8図へ。
ここからのHoneyWaffleの玉頭攻めは参考になります。
第8図以下の指し手
▲3五歩 △同 歩
▲2六銀 △7五歩
▲同 歩 △6五歩
▲3五銀 △7五銀
▲3三歩 △同 角
▲4五桂 (第9図)
金無双急戦は、角交換して△2二銀と上がらせなければ、玉頭が比較的薄い構えです(金が3三に上がるのは形が悪い)。そこを突くのは棋理に合っていると言えるでしょう。
第9図以下の指し手
△2二角
▲7八飛 △7六歩
▲8八角 △3四歩
▲同 銀 △3三歩
▲7六銀 △6六銀
▲7五銀 △同 銀
▲同 飛 △7四歩
▲3三桂成 △同 桂
▲7九飛 (第10図)
HoneyWaffleは一転して左辺をさばきにいきました。
左銀のさばきに成功したあと、▲3三桂成と成り捨ててからじっと▲7九飛。
3四の銀が玉頭攻めの拠点となっているのが大きなポイントで、第10図以下△8六歩には▲2四歩からの攻めが強烈です。
このあと、155手で先手・HoneyWaffleの勝ちとなりました。
振り飛車党ソフトを増やすには
オンラインでも大会運営が可能であることを示した今年のWCSOC2020。来年はまた通常通りの形式のWCSCに戻ることでしょう(30はこのまま欠番でWCSC31でしょうか)。来年の戦いも楽しみにしたいと思います。
そして2日目に残った28のコンピュータ将棋ソフトのうち、たった2つだった振り飛車党ソフト。
これを増やすための大会アイデアについては、また別の記事としてまとめるかもしれません。
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