コンピュータ将棋に飛車を振らせるには
コンピュータ将棋ソフトは居飛車を高く評価しており、実際に居飛車党のソフトが世界コンピュータ将棋選手権(WCSC)などのコンピュータ将棋大会の上位を席巻しています。
そんなコンピュータ将棋に振り飛車を指させるには、何らかの工夫が必要です。
従来は、半ば強制的に序盤で飛車を振って玉を右辺に移動するように定跡を仕込んだり、序盤で飛車が左辺、玉が右辺にいる配置を高く評価するように局面の評価方法(評価関数)を細工したりする手法が一般的でした。
が、最近たややんさんによる新しい手法が現れました。その手法を採用して登場した振り飛車党が、NNUEkaiXFです。
今までとは異なる学習方法を採用した、振り飛車評価関数NNUEkaiXFを公開します。https://t.co/09rtGcuF7r
今までよりもより自然な四間飛車、三間飛車及び向かい飛車を指し、ときには居玉のまま穴熊に向かっていくような評価関数です。お試しください!— たややん@NNUEkai (@tayayan_ts) 2019年2月13日
「振り飛車最強」を信じるコンピュータ将棋
その手法とは、「居飛車VS振り飛車の対抗形で居飛車側勝利の局面を間引いたものを教師局面として学習し、評価関数を作り上げる」という手法です。
今まで振り飛車評価関数を作るとき、特定の駒の配置の局面の評価値を操作して学習させるという手法を採ってきましたが、対抗系で教師局面を作成し、居飛車側勝利の局面を間引くことによって、勝率を操作した方がよいのではないか、と思いつきました。
試してみたいが、完全に脇道に逸れる…— たややん@NNUEkai (@tayayan_ts) 2019年2月9日
飛車を振る直接手や振り飛車の部分的な形を教え込まなくても、振り飛車良しの局面や棋譜を見せ続けることで飛車を振ってくれる。これは従来は想像はできても試されておらず結果が出ていなかった、画期的な手法だそうです。
教師局面自体に工夫を加える手法は、評価関数を振り飛車党にするという目的のみに使用できるのではなく、教師局面の質を高めて評価関数を強化することにも寄与するので(今までの実験上)、そのあたりをアピールポイントにした上で、5月までに納得できるレベルの評価関数を作成したいと思います。
— たややん@NNUEkai (@tayayan_ts) 2019年2月14日
なおたややんさんは、居飛車の強力な評価関数であるNNUEkaiXも開発・公開しています。
藤井猛九段との共通点
このような手法で誕生したNNUEは、ノーマル三間飛車も採用していますが、最も多用しているのがノーマル四間飛車。中でも、竜王3期獲得の実績を誇る超人気棋士・藤井猛九段が編み出した藤井システムを自力で身に付けこれを好んで指しています。
とうとう定跡なしで藤井システムを指す将棋ソフトが現れた#NNUEkaiXF pic.twitter.com/GkThb9hXsy
— ロタ (@Rota_JP) 2019年2月14日
勝ち将棋から学ぶ
藤井システムを愛用しているだけでなく、実はNNUEkaiXFには藤井九段との共通点が他にもあります。それは、将棋の学び方。藤井九段も、勝ち将棋から学びながら四間飛車を信じて指し続けてきた経緯があるのです。
棋士のインタビューを見ていると、「強い人と指したい」といった回答が多いと感じます。私ですか? むしろ逆です。強い人と指したいと思ったことが一度もありません。
上達するためには自分より棋力がほんの少し下の人と指すのがベストだと考えます。負け将棋から多くを学ぶとよく言われますが、私は賛同しません。勝局の中にも反省する材料はいくらでもあります。勝つと満足感を得られて精神的に楽ですからね。
鰻屋の振り飛車党
さらには、基本的には居飛車党なのに手や形、定跡に基づいてたまに振り飛車を指している「ファミレスの振り飛車党」ではなく、「振り飛車最強」を信じて振り飛車を指し、自ら定跡を築き上げていく「鰻屋の振り飛車党」である点も共通です。
最近は居飛車党でも四間飛車を指す人がふえましたが、戦法の好き嫌いがないっていうのが、また僕には不思議です。しかも、にわか四間飛車党が結構いい味出すんですよ(笑)。でも、こっちは鰻しか出さない鰻屋だからね。ファミレスの鰻に負けるわけにはいかない。
NNUEkaiXFは藤井九段の化身か
ここまで類似性があると、もはやNNUEkaiXFが、藤井九段がデジタル化した存在に思えてきました。
もしくは終盤に全く隙がない藤井九段かもしれません(ここは将棋ファンならば良い意味で笑うところです)。
NNUEkaiXFの三間飛車の棋譜
最後に、コンピュータ将棋連続対局場所「floodgate」上に多く公開されているNNUEkaiXFの棋譜のうち、三間飛車の棋譜をいくつか紹介して終わりにします。記事が長くなったので、解説は割愛します。
Touch_off vs. NNUEkaiXF_dolphin1_i9_7960X (2019-02-13 13:00)
NNUEkaiXF_dolphin1_i9_7960X vs. punitama_0110 (2019-02-13 18:30)
NNUEkaiXF_dolphin1_i9_7960X vs. KAKUGAWARU (2019-02-13 22:30)
おまけ WCSC29について
現在、第29回世界コンピュータ将棋選手権(WCSC29)の大会ルールとライブラリ規定について開発者の方々の間で混乱が生じているようですが、コンピュータ将棋界全体の技術の向上という目的を今後も追求するとともに、人間の技術の向上や将棋ファンの拡大に繋がる棋譜を今後も遺していってくれることを願います。
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