やねうら王、優勝
第29回世界コンピュータ将棋選手権(以下「WCSC29」)は、既報の通りやねうら王の優勝で幕を閉じました。おめでとうございます。
なお、前回のWCSC28でHefeweizenの名前で優勝し、今回改名したKristallweizenは、ソルコフの差で惜しくも優勝を逃しました。
決勝に残った8チームは、いずれも居飛車党。
角換わりの将棋が多く見られたのは、形勢のバランスを保てる究極の戦型が角換わりだからなのか。そしてその結論は先手必勝なのか、後手必勝なのか、はたまた千日手なのか。人間にはたどり着けない境地に、コンピュータはいずれ到達することでしょう。
HoneyWaffle、二次予選敗退
そんな中、WCSC29にも振り飛車党として参戦したのがHoneyWaffleでした。一昨年のWCSC27では7位、昨年のWCSC28では8位に輝いたコンピュータ将棋ソフトです。
今回は二次予選にて、5勝4敗と勝ち越したものの惜しくも敗退で12位という成績でした。
全9局のうち、採用した戦法の内訳は以下の通り。
- ノーマル三間飛車・・・2局
- ノーマル四間飛車・・・5局
- ゴキゲン中飛車・・・2局
後手番となった4局ではすべてノーマル四間飛車を採用(2勝2敗)。ノーマル三間飛車の選択肢もあったものの、たまたま四間飛車に固まったそうです。
6局中、4局が後手…そして全て四間飛車。三間飛車も用意してるはずだけど妙に固まった #csalive #wcsc29
— みつひこ Honey🍯Waffle (@shiroi_gohanP) May 4, 2019
なお、同じく二次予選で敗退したW@ndreというコンピュータ将棋ソフトも、角交換系の力戦振り飛車ばかりですがほぼ全ての対局で振り飛車を採用していました。ノーマル三間飛車や石田流の採用はないものの、角交換振り飛車党にとって参考になるかもしれません。
本記事では以下、HoneyWaffleがノーマル三間飛車を採用した2局(5回戦のたこっと戦と7回戦のNovice戦)のうち、勝利したVSたこっと戦を紹介します。
古風な急戦対抗形
▲HoneyWaffle対△たこっとの一局は、序盤の駆け引きの末、古風な先手ノーマル三間飛車VS後手△4二銀+△5三銀型船囲い急戦となりました(第1図)。
第1図から、▲6五同歩と取ると△7七角成▲同桂△7九角から馬を作られてしまいますが。
第1図以下の指し手
▲6五同歩 △7七角成
▲同 桂 △7九角
▲8九飛 △4六角成
▲6六角 △4四歩
▲8六歩 △7三馬
▲8五歩 △8三歩(第2図)
あっさり馬を作らせる
筋、とばかりに6筋に飛車を振るなど技を見せるかと思いきや、あっさり▲6五同歩から後手に馬を作らせました。コンピュータ将棋の振り飛車は、△7九角(▲3一角)から馬を作られる展開をあまり悪いと評価していないらしく、Novice戦でも同様に馬を作らせる展開となっています。
その後、先手は6六の好所に角を打ってから8筋を押し込むことに成功しました。一歩得+好所の角VS馬で、いい勝負でしょうか。ここからの振り飛車の構想も、力の見せ所です。
第2図以下の指し手
▲5七角 △2二玉
▲6六銀 △4五歩
▲4六歩! △4四銀
▲7五歩 △同 歩
▲7四歩 △5一馬
▲6四歩 (第3図)
先を見越した角の移動
相手玉への角のにらみを軸に戦うと思いきや、じっと▲5七角。左銀の活用を考えると自然ですが、角の効きが大幅に弱体化するため、指しにくい手と言えます。しかし、HoneyWaffleは後続手段を用意していました。
敵の歩のいない筋の歩を突く△4五歩は手筋の一着と言えますが、▲4六歩打が意表の一手。7三に馬がいるため△4六同歩に▲同角と取り返せるわけもなく、一歩与えるうえ後手の4筋の歩をさらに進めることになります。
では▲4六歩の狙いは何かというと、△4六同歩と取らせることにより、長期的に見たとき馬を撤退させて▲4六角と歩を取り返しながら上がる手を可能にする、ということなのでしょう。左銀がさばければふたたび角を6六に上がることもでき、状況に応じ4六か6六のどちらかに角を移動できることになります。
先の先まで読むことで、▲5七角と引いていったん角の力が弱まっても問題ない、と判断することができるのです。
進んで第4図。
あと一歩押し込めば飛車先を突破できる、という局面ですが、ここからのHoneyWaffleの攻め方はいかに。
第4図以下の指し手
▲6三歩成 △同 金
▲7三銀成 △同 桂
▲8二歩成 △5六銀
▲7三歩成!△5七銀不成
▲同 金 △9三飛
▲8三と引 (第5図)
▲6三歩成で金をそっぽに移動させてから▲7三銀成がスッキリした攻めのようです。
それにしても△5六銀に対し飛車も取らず角も逃げず(▲6六角は王手でもありピッタリなのにも関わらず)じっと▲7三歩成、というのはあまりにも強すぎて理解できません。
究極の「終盤は駒の損得より速度」
そして本当に驚異的なのが投了図。
第5図から約50手進んでいますが、なんと9三の飛車と8三のと金は動くことなくそのまま残っています。先手は飛車を取れるのに、後手は飛車取りを回避できるのに、お互い見向きもせず。「終盤(中盤以降?)は駒の損得より速度」、ここに極まれりという応酬です。詳しくは棋譜をご覧ください(棋譜再生プレーヤーが立ち上がります)。
コンピュータの振り飛車党は生き残るか
決勝終了後の挨拶で、鈴木大介九段が以下のようにコメントしています。
プロ棋士から挨拶。鈴木先生「次回は振り飛車の強いソフトが出ることを期待しています(笑)」 pic.twitter.com/foRhBzFZsk
— 将棋情報局編集部 (@mynavi_shogi) May 5, 2019
これは振り飛車党だけでなく多くの将棋ファンの思うところでしょう。
エンターテインメント性の向上のため(?)にも、次回はより強くて多様性のあるコンピュータの振り飛車党勢が増えてくれることを願います。
今回初出場で決勝に進出し7位と健闘した「水匠」の開発者であるたややんさん(NNUEkaiX、NNUEkaiXFの開発者でもある)が公開する振り飛車評価関数「振電」が、その鍵を握っているかもしれません。
現在、確認を終え、振り飛車評価関数を作成しております。事前に作成した評価関数は、教師局面の選択が良くないため、もう少し洗練された振り飛車評価関数を「振電」として水匠と同時公開する予定です!
— たややん@水匠+NNUEkai (@tayayan_ts) May 6, 2019
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