この記事は、2003年に書いた記事に加筆修正を加えたものです。
対先手三間の秘策・三歩突き捨て型
(参照サイト:将棋倶楽部24)
▲o.kantaro七段VS△某六段戦より。
先手三間飛車VS後手三歩突き捨て型急戦(第1図)。
後手の持駒:なし 9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ |v香v桂 ・ ・ ・v金 ・v桂v香|一 | ・v飛 ・v銀v金 ・v王v角 ・|二 | ・ ・ ・ ・v銀v歩 ・v歩 ・|三 | ・ ・v歩v歩v歩 ・v歩 ・v歩|四 |v歩v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五 | ・ ・ 歩 歩 歩 歩 歩 ・ 歩|六 | 歩 歩 角 ・ ・ 金 ・ 歩 ・|七 | ・ ・ 飛 銀 ・ ・ 銀 王 ・|八 | 香 桂 ・ ・ ・ 金 ・ 桂 香|九 +---------------------------+ 先手の持駒:なし 手数=30 △9五歩まで

「三歩突き捨て型」と聞いてもピンとくる方はほとんどいないと思いますが、1988年発売の名著「三間飛車ガイド」(武者野勝巳七段監修)や「先手三間飛車破り」(青野照市九段著)などに載っている、昭和の代表的な急戦定跡のうちの1つです。
本譜を見ていただければこの急戦の狙いがわかると思います。明快な仕掛けです。
第1図以下の指し手
▲3七桂 △4二金上
▲4五歩 △7五歩
▲同 歩 △9六歩
▲同 歩 △8六歩
▲同 歩 △9六香
▲同 香 △7六歩(第2図)
後手の持駒:なし 9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ | ・v桂 ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一 | ・v飛 ・v銀v金v金v王v角 ・|二 | ・ ・ ・ ・v銀v歩 ・v歩 ・|三 | ・ ・ ・v歩v歩 ・v歩 ・v歩|四 | ・ ・ 歩 ・ ・ 歩 ・ ・ ・|五 | 香 歩v歩 歩 歩 ・ 歩 ・ 歩|六 | ・ ・ 角 ・ ・ 金 桂 歩 ・|七 | ・ ・ 飛 銀 ・ ・ 銀 王 ・|八 | ・ 桂 ・ ・ ・ 金 ・ ・ 香|九 +---------------------------+ 先手の持駒:香 歩三 手数=42 △7六歩まで
△4二金▲4五歩の交換は後手にとって余計だったかもしれません。続く▲4五歩が相当味がよいからです(理由はのちほど)。
さて、7筋から9筋までの歩をポンポン突き捨てていくのがこの急戦の仕掛けです。そして9筋で強引に歩を手に入れて△7六歩打。これであっさり後手優勢。
仕掛けを封じるには
この仕掛けを封じるためには、先手としては第1図で▲3七桂の代わりに▲8八飛もしくは▲5七銀とするべきでした。こうすれば先手十分の序盤戦です。
例えば▲8八飛のとき後手が仕掛けてくるならば、以下
△7五歩
▲同 歩 △9六歩
▲同 歩 △8六歩
▲同 歩 △9六香
▲8七飛! (参考1図)
として先手良し。
後手の持駒:歩 9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ | ・v桂 ・ ・ ・v金 ・v桂v香|一 | ・v飛 ・v銀v金 ・v王v角 ・|二 | ・ ・ ・ ・v銀v歩 ・v歩 ・|三 | ・ ・ ・v歩v歩 ・v歩 ・v歩|四 | ・ ・ 歩 ・ ・ 歩 ・ ・ ・|五 |v香 歩 ・ 歩 歩 ・ 歩 ・ 歩|六 | ・ 飛 角 ・ ・ 金 ・ 歩 ・|七 | ・ ・ ・ 銀 ・ ・ 銀 王 ・|八 | 香 桂 ・ ・ ・ 金 ・ 桂 香|九 +---------------------------+ 先手の持駒:歩三 手数=39 ▲8七飛まで
また▲5七銀ならば、本譜のような進行のときに▲5九角と引けるので、端からの仕掛け自体が成立しません。
したがってこの場合、居飛車側としては△6五歩▲6八飛△7三桂という6筋からの仕掛けになりますが、端の2手が無駄になり、振り飛車側の手が進み高美濃が完成しているので、普通の△6五歩急戦に比べて振り飛車十分な戦いとなります。
奇手は通じず
さて本譜の第2図に話を戻すと、後手の攻めはもう決まっています。
第2図以下の指し手
▲9八飛?!△7七歩成
▲同 銀 △6七角
▲9二香成 △8九角成
▲9五飛 △8三飛(第3図)
後手の持駒:桂 9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ | ・v桂 ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一 | 杏 ・ ・v銀v金v金v王v角 ・|二 | ・v飛 ・ ・v銀v歩 ・v歩 ・|三 | ・ ・ ・v歩v歩 ・v歩 ・v歩|四 | 飛 ・ 歩 ・ ・ 歩 ・ ・ ・|五 | ・ 歩 ・ 歩 歩 ・ 歩 ・ 歩|六 | ・ ・ 銀 ・ ・ 金 桂 歩 ・|七 | ・ ・ ・ ・ ・ ・ 銀 王 ・|八 | ・v馬 ・ ・ ・ 金 ・ ・ 香|九 +---------------------------+ 先手の持駒:香 歩四 手数=50 △8三飛まで
角を見捨てる▲9八飛の奇手(のような一手)ですが、これも定跡の範囲内です。
△6七角が好手で、最後の△8三飛も落ち着いた一手。後手良しです。
▲9二香成のところ▲9九飛でも、△7八角成▲9二香成△7七馬▲同桂△8六飛で後手良し。
▲9九角でもダメ
戻って第2図から▲9九角も見えますが、以下、
△8六飛
▲8八飛 △同飛成
▲同 角 △8七飛
▲7九銀 △7七歩成!(参考2図)
で後手良し。
後手の持駒:歩 9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ | ・v桂 ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一 | ・ ・ ・v銀v金v金v王v角 ・|二 | ・ ・ ・ ・v銀v歩 ・v歩 ・|三 | ・ ・ ・v歩v歩 ・v歩 ・v歩|四 | ・ ・ 歩 ・ ・ 歩 ・ ・ ・|五 | 香 ・ ・ 歩 歩 ・ 歩 ・ 歩|六 | ・v飛vと ・ ・ 金 桂 歩 ・|七 | ・ 角 ・ ・ ・ ・ 銀 王 ・|八 | ・ 桂 銀 ・ ・ 金 ・ ・ 香|九 +---------------------------+ 先手の持駒:飛 香 歩三 手数=50 △7七歩成まで
参考2図以下、▲同角にはもちろん△8九飛成、▲同桂には△7六歩でも△7八歩でも後手良しでしょう。
大逆転
さて本譜、第3図では角損となっており先手必敗形ですが、強い人はここからが違い、逆転してしまいます(相手も六段で十分強いはずなんですけど)。
第3図以下の指し手
▲8一成香 △7八馬?
▲9二飛成 △6三飛
▲7六銀 △6六角
▲4六桂! △7七馬
▲6七歩!!△3三角
▲8五銀 △6七馬
▲7四銀 (第4図)
後手の持駒:桂 歩二 9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ | ・ 杏 ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一 | 龍 ・ ・v銀v金v金v王 ・ ・|二 | ・ ・ ・v飛v銀v歩v角v歩 ・|三 | ・ ・ 銀v歩v歩 ・v歩 ・v歩|四 | ・ ・ 歩 ・ ・ 歩 ・ ・ ・|五 | ・ 歩 ・ ・ 歩 桂 歩 ・ 歩|六 | ・ ・ ・v馬 ・ 金 桂 歩 ・|七 | ・ ・ ・ ・ ・ ・ 銀 王 ・|八 | ・ ・ ・ ・ ・ 金 ・ ・ 香|九 +---------------------------+ 先手の持駒:香 歩三 手数=63 ▲7四銀まで
△7八馬が大悪手。単に△8一同飛▲9二飛成△5一飛とでもしておけばよかったでしょう。
本譜は成香を取り損ねた挙句、飛車を6三に移動させられ、逃げられた先手の左銀に目標にされてしまいました。
さて、はじめの方で述べた▲4五歩の効果が、▲4六桂打に顕著に表れており、のちの▲3四桂跳ねがすこぶるきびしい一手となります。
そして続く▲6七歩が、それほど難しい手ではないですが本局最重要の一手。銀取りにあわてていては見えません。銀が7六にいる今しかできないぴったりの好手です。
6六の攻防の角を追い返しつつ相手玉を窮屈にさせたこの一手は、攻防の駆け引き上、 4手分くらいの絶大な効果があります。
第4図となっては駒損の解消(飛車を取りたいタイミングで間違いなく取れる)が見込める上、玉の堅さ・攻めのスピード(▲4六桂の脅威が絶大)ともに先手十分。大逆転です。
恐るべし、o.kantaro七段。
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