新たな菅井流三間飛車
2017年8月、第58期王位戦七番勝負第5局、羽生善治三冠 対 菅井竜也七段戦。
棋譜や解説は、王位戦中継サイトで観ることができます(2018年7月時点)。
菅井七段がまたまたやってくれました。阪田流向かい飛車ならぬ、「阪田流三間飛車」です(第1図)。
といってもこの名称はジョークです。
△3三金型で三間飛車にしているため、一見「阪田流三間飛車」という名称はしっくりきますが、阪田三吉はこんな構想を見せたことはありません。第一感、△3四歩と△3三金があるため飛車先が非常に重く、全く指す気が起きません。形がほぐれるのにも手数がかかります。
プロ棋界の歴史上、初の構想であることは間違いないでしょう。
2018年7月追記 故・森安秀光棋聖が指していた
「将棋世界2017年11月号」に掲載された菅井竜也新王位のインタビュー記事のなかで、菅井新王位は、この阪田流三間飛車を過去に故・森安秀光棋聖が1局だけ指していたことを明らかにしました。
菅井王位は岡山県出身で、岡山県出身棋士のタイトルは森安棋聖以来34年ぶり。「不思議な縁を感じた」と菅井王位は語っています。
(追記ここまで)
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「阪田流向かい飛車」とは
阪田流向かい飛車を知らない方のために、かんたんに解説をしておきます。
「阪田流向かい飛車」とは、1919年、阪田三吉が披露した、△3三金型で向かい飛車にする構想のことを言います(第2図)。
大勝負でこの構想が披露され、またこの将棋の内容が鮮烈だったため、「阪田流向かい飛車」と呼ばれるようになりました。
が、実は阪田三吉がこの構想を披露したのは1局のみ、とされています。
急戦策と持久戦策があり、いずれもさばきよりも抑え込むことが中心で居飛車党でも使いこなしやすい戦法である。
筋違い角を組み合わせるなど、先手の飛車先を逆襲する狙いは単純明快ながら破壊力があり、相手にする方も甘く見ていると一気に潰される展開になる。
この阪田流向かい飛車でさえ、銀ではなく金で攻めるためハマれば破壊力はあるものの、居飛車側に適切に対処されると無理筋とされる「奇襲戦法」扱いです。
参考文献
2019年追記:復活した阪田流向かい飛車
奇襲戦法扱いだった阪田流向かい飛車ですが、本局をきっかけに戦術が見直され、まさかの大復活を果たしています。
トップ棋士では糸谷哲郎八段が愛用しており、好成績を上げています。また、将棋世界2018年5月号では阪田流向かい飛車の特集が組まれました。
(追記ここまで)
まとめきった菅井七段
ましてや本局の「阪田流三間飛車」では、飛車先が重いため奇襲を仕掛けることはできず、自らバランスをとるのが難しい序盤戦にしてしまっています。
・・・しかし、そこはさすが菅井七段。周到な事前研究もあったのでしょう。見事に綱渡りの序盤戦を乗り切り、互角の駒組みで初日を終えました(第3図)。
先手には▲2六歩から桂得を図る狙いがありますが、後手は角が手持ちであることと、先手の飛車角を窮屈にしていることが主張点で、バランスがとれているといえます。
本局に勝利し、初戴冠なるか。次回に続きます。
2017年8月30日 追記
このあと菅井七段が勝利し、見事王位のタイトルを獲得しました。おめでとうございます。
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