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竜王戦4組決勝の大一番
2019年5月31日に行われた第32期竜王戦4組決勝、▲藤井聡太七段 対 △菅井竜也七段戦。
棋譜と詳しい解説は、将棋連盟ライブ中継アプリで観ることができます。AbemaTVでも生中継されました。
予選優勝がかかっているのはもちろん、勝った方だけが決勝トーナメントに進出できる大一番です。
意表の4手目△3二飛戦法
その大一番で、後手番となった菅井七段が採用した作戦は、まさかの4手目△3二飛戦法でした(第1図)。
このあとの構想があまりにも衝撃的だったため見逃されがちですが、これも非常に大胆な一手です。なぜなら以下▲2二角成△同飛▲6五角(参考1図)があるからで、▲4三角成と▲8三角成を見ています。
しかし以下一例として△7四角▲同角△同歩▲5五角△8二角(参考2図)などの対応で後手も十分戦える、というのが定跡となっています。
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とはいえ乱戦になるのは間違いなく、一手間違えれば力を出せずに負けてしまう恐れがあり、とてもリスキーな戦法です。それをこの大一番で採用してきた菅井七段には恐れ入ります。
衝撃の角交換しない△3三金型三間飛車
対する藤井七段は、菅井七段の誘いには乗らず▲6八玉と穏やかな一手を選択。
以下はノーマル三間飛車か石田流、または一般的な角交換三間飛車になるかと思いきや、菅井七段はこの大一番のためにさらなる秘策を用意していました。
第1図以下、▲6八玉△4二金▲2五歩△3五歩▲4八銀に、まさかの△3三金!!(第2図)
△4二金は先述の▲4三角成の筋を防いだ一手。△3五歩も升田式石田流への駒組みを狙いのひとつに持つ一手で、自然な構想です。前例も10局以上あります。
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しかし最後の△3三金が驚愕の新手。本来守りの駒である金が前線に出ていく上、角筋も飛車筋も止めてしまう超凝り形となってしまいました。
従来の△3三金型三間飛車とは
類似形として、2年前の2017年8月、第58期王位戦七番勝負第5局で菅井七段が羽生善治王位(当時。羽生九段は当時王位を含む三冠)戦で披露したのが、角交換をした上での△3三金型三間飛車でした(参考3図)。
この戦法は、菅井流三間飛車、または阪田流向かい飛車に似ていることから阪田流三間飛車とも呼ばれています。
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このときも飛車が凝り形になってしまうため騒然となりましたが、本局はそれと同等の、いやそれ以上の衝撃と言えるでしょう。
互いに我が道を行く駒組み
結果的に第3図のあと角交換が行われたため、通常の菅井流三間飛車とほぼ同じ形になりました(第4図)。
菅井流三間飛車の狙いのひとつである△3四金から△2五桂が実現し一歩得しましたが、角交換の折衝で左銀を2二に移動させられており、働きが悪いのがマイナスポイントです。以下この銀を玉の周辺まで移動させることに成功した一方、先手はその間にのびのびとした玉頭位取りに組み上げました(第5図)。
双方に主張点のある、互角の形勢と言えるでしょうか。
千日手に
本譜は第5図以下、菅井七段が△3六歩と仕掛けました。
ここから技を駆使した激戦が繰り広げられましたが、結果は91手で千日手が成立。熱い戦いが、もう一局繰り広げられます。
追記:藤井七段、指し直し局を制し決勝トーナメントへ
千日手指し直し局は、先手・菅井七段が十八番の先手番ゴキゲン中飛車を採用。対する後手・藤井七段は中央から盛り上がる戦術を採用しました。
藤井七段は桂得で優勢になると、そこから着実な攻めと大胆な受けで優位を拡大し、94手で勝利。4組優勝とともに決勝トーナメント進出を果たしました。
4組優勝者は、挑戦者になるために必要な連勝数が5組と6組の優勝者に比べ1勝少ない利点があります。しかし挑戦者になるために倒さなくてはならない相手として、すでに久保利明九段、豊島将之名人(三冠)、渡辺明二冠が確定済みです。
そして、最後にタイトル保持者として待ち構えるのは、広瀬章人竜王。
あまりにも険しい道のりですが、藤井七段が奇跡を起こして勝ち進めるか、この先の戦いにも大注目です。
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