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WCSC29で第7位に輝いた水匠
やねうら王の劇的な優勝で幕を閉じた、今年(2019年5月)の第29回世界コンピュータ将棋選手権(以下「WCSC29」)。
このWCSC29にて、新たなNNUE評価関数の活用手法で第7位に輝いたのが、たややんさんが開発した「水匠」でした。
アピール文書から引用させていただきます。
自己対局によって作成された教師データの情報を、事後的に変更することによって、教師データの質を高め、その結果、より質の高い評価関数を作成するという手法です。
水匠の兄弟、振り飛車党・振電
そしてこの水匠と平行してたややんさんが開発したのが「振電(しんでん)」です。振り飛車の勝率を上げた教師データを使用して評価関数を作成しているため、振り飛車党に育て上げられています。
前述のアピール文書からふたたび引用させていただきます。
教師データ自体を変更するという手法は、評価関数強化以外にも利用ができ、例えば、対抗形による自己対局を実施させた教師データのうち、振り飛車側が敗北した対局を一定程度減らすことによって、教師データにおける、振り飛車の勝率を高めることができます。
(中略)
意図的に振り飛車の勝率を上げた教師データを使用することにより、振り飛車を指す評価関数を作成することが可能となるのです(当該手法により作成された評価関数が拙作NNUEkaiXFです。)。
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コンピュータ将棋ソフトは居飛車を高く評価しており、実際に居飛車党のソフトが世界コンピュータ将棋選手権(WCSC)などのコンピュータ将棋大会の上位を席巻しています。そんなコンピュータ将棋に振り飛車を指させるには、何らかの工夫が必要です。
現在この兄弟の改良版である「水匠改」と「振電改」がWeb上に公開されていますので、興味のある方はダウンロードして使ってみると良いでしょう。
使い方については、例えば以下のページを参照ください。
震電改のノーマル三間飛車
水匠改(Suishokai_i9-7960X)と振電改(Sindenkai_i9-7960X)の棋譜は、現在(2019年6月)コンピュータ将棋対局場「floodgate」で閲覧することもできます。
それらのうち、振電改がノーマル三間飛車を採用している一局を紹介します。
銀冠VS銀冠
振電改(Shindenkai_i9_7960X)対YSS戦より。
第1図は人間同士の対局でも普通に起こり得る局面でしょう。▲4六歩を保留して▲3六歩・▲2六歩を優先しているのがやや特徴的です。
第1図以下の指し手
▲4八金左 △1二玉
▲2七銀 △4二金右
▲5六銀 △5四歩
▲4六歩 △5五歩
▲4七銀 △7四歩
▲3八金上 △7三銀
▲4五歩 △6四銀(第2図)
▲4七金型でなく▲4八金型に構えたのがやや趣向の一手で、後の▲5六銀〜▲4七銀をにらんだものでしょう。
後手は△1二玉から△4二金右と、銀冠から米長玉に進展させました。
ここから、振電改が早速仕掛けます。
第2図以下の指し手
▲2五歩 △同 歩
▲1五歩 △同 歩
▲2五桂 △2二角(第3図)
居飛車バイアスと振り飛車バイアス
▲2五歩〜▲1五歩からの▲2五桂。軽い攻めで、桂があっけなく討ち死にしそうな局面ですが、なんと振電改はすでに先手+800点と評価しており、さらに次の一手で+1000点に達します。
コンピュータ将棋ソフトが居飛車対振り飛車の対抗形にて初手から数手で居飛車+200点程度に評価することについて、居飛車をひいきする「居飛車バイアス」がかかっているのでは、とささやかれています(真偽は現状不明です)が、この局面を振り飛車+800点以上と評価することは、逆に「振り飛車バイアス」がかかっているのでは、と勘繰りたくなります。
しかしこの後の進行を見ると、あながち間違ってはいないのかなと感じるほど、振り飛車の隙のない好調な攻めが続きます。
第3図以下の指し手
▲2六銀! △2四歩
▲1五銀 △1三歩
▲同桂成! △同 桂
▲1四歩 △2五桂
▲2六歩 (第4図)
意外につながる玉頭攻め
焦って▲1三歩と打って清算したくなりますが、じっと▲2六銀が攻めを手厚くする一手。△2四歩と打たれてもかまわず▲1五銀と出れば、△2五歩には▲2四歩があります。
△1三歩と打って受けてきましたが、構わず▲同桂成。
△1三同玉には、▲2六銀!△1四桂(後手は歩切れ)▲3七銀!(▲1五歩と打つと△2六桂と銀を取られてしまうのでじっと銀引き)△2五歩(▲1五歩△2六桂のときに桂にひもが付く)▲2七歩!(参考1図)とじっくり指して▲1五歩を楽しみにすれば先手良しでしょう。
また△1三同角には、▲1四銀や▲2六銀もありますが▲2五歩(参考2図)が最もセンスが良さそうです。
以下△3三金右には▲6五歩〜▲5五角(▲1四歩を決めておいてもよし)などで先手の攻めは切れません。
本譜の△1三同桂には、振電は▲1四歩から▲2六歩と自然に桂を取りに行きました。
第4図以下の指し手
△1七桂成
▲同 香 △2一玉
▲2五歩 △同 歩
▲2四歩 △1二銀
▲4六桂 (第5図)
控えの桂打ち2種
人間にとっては屈辱的な△2一玉から△1二銀を、それが悪いなりにも最善との評価値が出れば甘んじて受け入れられるのがコンピュータ将棋ソフトの強みとも言えますが、本譜はさすがに後手にとって辛すぎます。
最後の▲4六桂が急所の一手。以下△3三金右には、後手の角道が止まったことに目を付けて▲6五歩から▲5五角で歩が手に入る形なので、▲3五歩が激痛です(△同歩には歩を入手後▲3四歩)。
なお、戻って第4図以下△1七桂成のところで△3三金右には、▲2五歩△同歩に▲3七桂(参考3図)と今度はこちらに桂を控えて打つのが急所で、やはり先手の攻めは切れません。
振り飛車党コンピュータ将棋ソフトのホープ
驚異的な棋力を誇る振り飛車党コンピュータ将棋ソフト・振電。
列強の居飛車党勢の中に堂々と割って入っていける存在になれるよう、さらなる進化に期待したいと思います。
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