三間飛車特集号
先日発売された将棋世界2019年9月号にて、三間飛車の戦術特集が行われました。
本号のひとくちレビューをお送りします。
下町発!粋でいなせな三間飛車
戦術特集のタイトルは、「下町発!粋でいなせな三間飛車ーいま、振り飛車のトレンドは三間だー」。師弟対談、トマホーク基本講座、次の一手の3つのチャプターで構成されています。
師弟対談
チャプター1は、小倉久史七段と山本博志四段の師弟コンビによる三間飛車談義です。10ページに渡って掲載されています。
各々の三間飛車との出会いのエピソードに始まり、三間飛車の歴史と魅力、そして真部流、コーヤン流、大山流、石田流、三間飛車藤井システムなど三間飛車からの派生戦法の特徴と現状を語っています。
初手▲7八飛の理由(なぜ▲7六歩〜▲6六歩〜▲7八飛ではなく初手▲7八飛を選ぶのか)についての山本四段の解説に対し、小倉七段が「知らなかった」とコメントしているのが滑稽でした。最近の棋書や大盤解説などでよく語られているであろう、広く知られた理由だと思うのですが、昭和の棋士である小倉七段にとっては気にならないので記憶に残っていないのかもしれません。
なお、野澤亘伸氏による連載「師弟」の掲載はありませんでした。今回の小倉久史七段と山本博志四段の師弟コンビの登場が、戦術特集の形だったからでしょう。
マッスルトマホーク&フッ軽トマホーク
チャプター2は、山本四段によるトマホーク基本講座。こちらも10ページとかなりのボリュームです。
「基本」と銘打っていますが、高度な内容だと思います。「三間飛車新時代」(小倉七段と山本奨励会三段(当時)の共著)の内容を踏襲していると思いきや、「マッスルトマホーク」(第1図)、「フッ軽トマホーク」(第2図)という新たな戦術も解説している力の入った最新講座です。
「マッスルトマホーク」は、二枚銀で戦う戦術。機を見て端桂を狙います。「さわやか流疾風三間飛車」(杉本和陽四段 著)でも解説されていますが、「さわやか流」ではマッスルトマホークとは呼んでおらず、山本四段の命名です。
「フッ軽トマホーク(フットワーク軽いトマホーク)」は、左銀の進出はケースバイケースとして端桂と左辺の攻防で良くしにいく戦術です。
似た形で、2018年9月に行われた第44期棋王戦挑戦者決定トーナメント、▲久保利明王将 対 △行方尚史八段戦(肩書は当時)にて、▲5六銀型で▲1七桂〜▲2五桂と仕掛けていった将棋がありました(参考1図。結果は久保王将の勝ち)が、▲6七銀型で端桂からの仕掛けとは驚きです。
フッ軽トマホーク3局の実戦例を交えた解説も載っています。
通常のトマホーク(ノーマルトマホークと便宜上呼んでおきます)、マッスルトマホーク、フッ軽トマホークは、居飛車側の陣形に合わせて選択するよう山本四段は解説しています。詳しくは本誌を参照ください。
トマホークの定義は▲4五銀+端桂だと考えていましたが、今やかなり広義なものになったと捉えてよいでしょう。思えば「緩急自在の新戦法!三間飛車藤井システム 」(佐藤和俊六段 著)でも、トマホークの節(第1章・第5節)にて様々な派生形が解説されていました。
次の一手
チャプター3は、小倉七段による次の一手問題。11問出題されています。
対居飛車穴熊がメインですが、対左美濃、対急戦もあり、また三間飛車側も美濃囲いだけでなく三間飛車穴熊に構えている問題もあります。
令和の三間飛車対急戦
上述の三間飛車特集の他に、本号の付録でも三間飛車が取り上げられています。初手▲7八飛戦法で高勝率を上げている振り飛車党・西田拓也四段による「定跡次の一手 令和の三間飛車対急戦」です。Kindle版が単品でも販売されています。
昔ながらの居飛車急戦に加え、エルモ囲い急戦、そして左美濃急戦に対する戦い方を次の一手問題形式で解説しています。
エルモ囲い急戦対策では、主に▲6七金型で居飛車の速攻を封じたあと銀冠に組んで戦う構想を解説しており、勉強になります。この構想は「さわやか流疾風三間飛車」などでは解説されていません。
定跡最前線パトロールのテーマはエルモ囲い
さらに、石田直裕五段による連載講座「定跡最前線パトロール」では、エルモ囲いがテーマになっています。
まず取り上げられているのが対三間飛車。こちらも三間飛車党必見です。
費用対効果の高い2019年9月号
以上のように、三間飛車関連記事の多い将棋世界2019年9月号。
三間飛車党にとって、読み応えがあり費用対効果の高い一冊と言えると思います。
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