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基本中の基本の囲い、美濃囲い
「美濃囲い」。将棋ファンでこの囲いを知らない人は皆無でしょう。
三間飛車をはじめとする振り飛車戦法と組み合わせて用いられる囲いで、玉を右辺に移動して▲3八銀~▲5八金左とすれば、最も基本的な「本美濃囲い」の完成です(第1図。後述する高美濃囲いとの比較で「平美濃囲い」とも呼ばれます)。
少ない手数でかんたんに組み上げることができるうえ、金銀の連結が抜群で堅く、とても効率の良い囲いです。
進展性があるので、対急戦、対持久戦どちらにも対応できます。
名前の由来
「美濃囲い」という名前の由来には諸説あるようです。
美しい美濃国の城にちなんでこの名前が付けられた(または岐阜城にちなんで織田信長が命名した)とされるが、東公平の研究によれば、江戸時代の美濃国出身の棋士が創始したからであるという説が江戸時代には一般的であったという。
片美濃囲い
なお、5八に金がおらず▲3八銀と▲4九金だけの美濃囲いは「片美濃囲い」と呼ばれています(第2図)。
升田式石田流などで、左金が7八に移動した際にこの囲いになります。
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美濃囲いの発展形
美濃囲いの長所のひとつは、進展性があるところです。
居飛車が採用する「左美濃」については、本記事の対象外としています。いずれ別記事として紹介するかもしれません。
高美濃囲い
美濃囲いから歩を突いて左金を4七に上がれば、厚みのある高美濃囲い(第3図)に組むことができます。
「囲い」を取って単に「高美濃」と呼ばれるほうが多いと言えます。この後紹介する美濃囲いでも同様です。以下「囲い」は割愛します。
4筋位取り▲4六銀型四枚美濃
高美濃から、三間飛車であれば左銀をスムーズに6八~5七~4六と進出することができるので、さらに厚みがあり広い4筋位取り▲4六銀型四枚美濃に組むことができます(第4図)。
この四枚美濃と組み合わせた三間飛車は、「真部流」とも呼ばれています。
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高美濃から▲4六銀型四枚美濃へ組み替えられるか、および組み替えたほうが良いかは、左銀の位置や居飛車の陣形などに依存します。端的に言うと、組めるチャンスは少ないです。詳しくは上記記事を参照ください。
銀冠
高美濃からの発展形として一般的なのが銀冠です(第5図)。
高美濃よりもさらに玉頭が手厚く、玉頭からの攻め筋もあるうえ、最終盤で1七の地点に逃げるのが切り札になることもある、広くて頼もしい囲いです。
ただし完成までに手数がかかりすぎるのが難点のひとつ。▲2七銀と上がったタイミングで仕掛けられた場合の想定は必須です。
銀冠穴熊
双方仕掛けが難しく局面が硬直した場合になりやすいのが、銀冠穴熊です(第6図)。
銀冠に組んでから香を上がって穴熊に潜るケースのほかに、穴熊に組んでから縦に発展して組み上げるケースもあります。
居飛車穴熊VS三間飛車穴熊の戦いでは、後者の手順で相銀冠穴熊になることがよくあります。
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ダイヤモンド美濃
▲6七銀型三間飛車から発展することがあるのが、ダイヤモンド美濃です(第7図)。
4七に金を上がるのではなく、▲5六銀~▲4七銀引とすれば完成。菱形に金銀が並んだ、美しい囲いです。
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変わり種の美濃囲い
このほか、変わり種の美濃囲いもあります。ただし三間飛車と組み合わせて採用されることはめったにありません。
金美濃
3八に銀ではなく金が上がった囲いです(第8図)。
ゴキゲン中飛車で採用されることがあります(いわゆる「遠山流」)が、三間飛車では自然に片美濃または本美濃に組むのが一般的です。
木村美濃
片美濃または金美濃から縦に発展した形です(第9図)。
しかし、4七には高美濃のように左金を上がった方が堅いです。
右銀を3段目に上がるにしても、4七ではなく2七に上がって銀冠を目指したほうが堅いので、できれば銀冠を狙って序盤構想を練った方が良いでしょう。
ちょんまげ美濃
玉頭の歩だけを突いた美濃囲いです(第10図)。
玉頭の2七に持ち駒を打ちこまれたり、△2五歩▲同歩△2六歩のような筋が生じるため、隙が多い囲いです。
ただし、端歩(▲1六歩)も突いてあれば半人前、さらに▲3六歩も突いてあれば一人前の形といえます(玉頭の「隙」が「広さ」に転化します)。
坊主美濃
玉頭の歩がない美濃囲いです(第11図)。
相掛かり戦法からのひねり飛車で生じやすい囲い(ただし玉は3九にいるのが普通)で、三間飛車と組み合わせて用いられることはまずないでしょう(ひねり飛車はある意味三間飛車とも言えますが)。
美濃囲いの棋書
美濃囲いを極める77の手筋
振り飛車目線で美濃囲い、高美濃、銀冠の受けを徹底解説しているのが、「美濃囲いを極める77の手筋」(藤倉勇樹五段 著)です。
美濃囲いの受けにこだわって一冊分のボリュームに仕上げてしまった、力のこもった棋書です。
本書を読んで、手をかせぐ技術を身に付ければ、中・終盤力アップにつながるのは間違いありません。
美濃崩し200
一方で、居飛車党目線で美濃囲い崩し(高美濃崩し、銀冠崩しも)を徹底解説しているのが、「美濃崩し200」(金子タカシ元アマ竜王 著)です。
長い期間コンスタントに売上ランキング上位をキープしている良著です。
対振り飛車に苦しむ居飛車党にとってはもちろんですが、振り飛車党にとっても、自玉の寄り筋を把握して「先受け」する技術を身に付けることにつながる、価値ある一冊です。
左美濃攻略にも役立つでしょう。
振り飛車党の頼もしい味方
振り飛車党の頼もしい味方、美濃囲い。わかりやすさやバリエーションの豊富さが魅力です。
最近「振り飛車ミレニアム」など新たな振り飛車の囲いが出てきていますが、今後も美濃囲い人気の牙城が揺らぐことはないでしょう。
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