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柱合会議の将棋パロディ
先日、Twitterの将棋クラスタの間でこんなツイートが注目を集めました。
「鬼滅の刃」については言わずもがなでしょう。私もマンガ、アニメ、映画をコンプリートしています。
鬼滅の刃ファンなら一目見てわかる通り、このシーンは柱合会議のパロディです。
本記事の趣旨は、このパロディに出てくる戦法を、将棋に詳しくない鬼滅の刃ファンの方々ためにマジメに一通り解説することです。
これをきっかけに将棋に興味を持ってもらえるとうれしいです。
奇襲戦法が柱のオススメ
柱たちがオススメしている戦法は、基本的に奇襲戦法ばかりです。中にはコアな将棋ファンにしかわからないマイナーな戦法も交じっています。
「奇襲戦法」とは、「定跡」(昔から研究されてきて、序盤でこれを指しておけば不利にはならないとされる一連の手)とは異なる、見慣れない指し回しのことです。
相手が対応できない場合いっぺんに優勢となる一方、正しく対応されて受け止められると、持久戦になり徐々に苦しくなっていく傾向があります。
日輪刀で首を切断するか陽光を浴びさせない限り無限に回復する鬼たちを相手に、持久戦は意味をなさず(日の出を待つという戦術を除く)一撃必殺を心がける鬼殺隊、そしてその頂点に立つ柱たち。
将棋の戦法の選択においてもその傾向が如実に表れていると言えます。
煉獄杏寿郎:鬼殺し
将棋の奇襲戦法の中で最も有名と言っても過言ではない、奇襲戦法の中の奇襲戦法、「鬼殺し」(参考1図)。
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奇襲戦法の基礎知識 鬼殺しとは
「鬼殺し」とは、将棋の奇襲戦法のひとつです。意外性のある派手な手順と決まったときの破壊力は「奇襲」の名にふさわしく、戦法のネーミングの良さと相まって、最も有名な奇襲戦法なのではないでしょうか。
名称的にも、鬼滅の刃の世界観にあまりにもぴったりです。それを明朗快活な煉獄さんが真っ先に挙げたのは当然と言えるでしょう。
なお、奇襲度合いを少し下げて戦略性を高めた類似の戦法として「新鬼殺し」もあります(参考2図)。
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奇襲戦法の基礎知識 新鬼殺しとは
「新鬼殺し」とは、鬼殺しのような奇襲を仕掛ける突撃力を持ちながらも、仕掛けずに駒組みを進める展開に持ち込むこともできる、「進化した鬼殺し」とも言える戦法です。奇襲を仕掛けるというよりも、誘いの隙を見せて相手をハメる要素の方が大きい戦法でもあります。
宇髄天元:ポンポン桂
玉の囲いはそこそこに、単騎の桂馬を犠牲に飛車を敵陣に成りこみ、あとは飛車と角の大駒メインで激しく戦う「ポンポン桂」(参考3図)。
桂が相手の歩頭に不意に「ポン」と跳ねることから、ポンポン桂と呼ばれています。故・富沢幹雄八段が生前好んで指したことから、「富沢キック」とも呼ばれています。
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奇襲戦法の基礎知識 ポンポン桂(富沢キック)とは
「ポンポン桂」とは、四間飛車相手に▲4五桂と桂を単騎で跳ねて角交換に持ち込み、飛車先突破を目指す、奇襲戦法の一つです。故・富沢幹雄八段が生前好んで指したことから、「富沢キック」とも呼ばれています。
派手好きの天元さんに合った戦術です。
伊黒小芭内:筋違い角
角の初期位置は8八。実は角交換しない限り、どう動いても上下左右のマス(8七、7八、8九、9八)には動けません。同様に、盤面全体で角が移動できないラインがあり、それらを「筋違い」と呼びます。
角交換後、筋違いに角を打つ「筋違い角」は意外性があり、好手(代表的なのは、終盤1八や9八に打って相手玉をにらむ「遠見の角」)にも悪手にもなりえます。
「駒得は裏切らない」という伊黒さんの発言から、ここで言う筋違い角は、初手から▲7六歩△3四歩と進んだ時に直ちに▲2二角成△同銀▲4五角(参考4図)と筋違い角を放つ戦術を指していると考えられます。
これで3四と6三の歩取りが同時に受からず、歩得が確定します(△6五角の切り返しもありますが、ここでは割愛します)。
ただし持ち駒の角を手放しているというデメリットもあり、形勢的には互角です。
常に蛇を操りながら戦う、意外性を持つ伊黒さんらしい戦術と言えるかもしれません。
なお、後述のしのぶさんの「横歩取り△4五角」も広義には筋違い角のひとつです。
不死川実弥:パックマン
初手▲7六歩に対し、△4四歩とただのところ(歩をパクっと取られるところ)に歩を突き出す戦術です(参考5図)。
ただしこれは誘いの隙で、以下乱戦に持ち込むのが狙いです。
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2020年3月23日に行われた第91期ヒューリック杯棋聖戦決勝トーナメント、▲山崎隆之八段 対 △久保利明九段戦。振り飛車党との対局ではとりわけ独創的な序盤戦術を見せる山崎八段。将棋連盟ライブ中継アプリでの対局中継で、山崎八段はここ最近4局連続で振り飛車党と対戦しており、いずれも衝撃的な序盤戦術を披露しています。
自らを差し出して傷だらけになる戦術を好む不死川さんらしい選択と言えるでしょう。
時透 無一郎:嬉野流
嬉野流とは、先手で初手▲6八銀とする戦術です(参考6図)。
パッと見8筋に隙があるので、後手は飛車先の歩を突いて「棒銀」に出たくなりますが、それには返し技が用意されています。
後手が振り飛車にした場合、すでに居飛車穴熊や左美濃などの堅い囲いは放棄してしまっているため持久戦にするのは向いておらず、角道を突いていないのを活かして急戦の「鳥刺し戦法」を狙ったりするのが基本戦術です。
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甘露寺蜜璃:アヒル
かわいい名称である「アヒル」は、戦法名というより「アヒル囲い」という囲いの名前と考えたほうが覚えやすいでしょう。
アヒル囲いとは、玉を真っ直ぐ5八に移動し、銀をその左右に配置したあと、金を一路離した位置にわざわざ移動した形です(参考7図)。
金銀の連結が良く、左右対称の美しい形で、左右どちらからの攻めにも強い囲いです。
一方で、攻めに金銀を使えないので攻撃力は高くなく、あえて誘いの隙を見せ相手に攻めさせてそれを迎え撃つ、というのが基本戦術のひとつです(ここまで一セットと考えれば「アヒル戦法」とも呼べます)。
蜜璃さんがアヒルをチョイスしているのはキャラに合っていると言えますが、実はそれ以外の意味があります。
「アヒルに夫人なりたい」という心の声は、羽生善治九段(永世七冠)の奥様であり、アヒルやウサギ好きの羽生理恵夫人のようになりたい、ということを意味しています。
胡蝶しのぶ:横歩取り△4五角
「横歩取り戦法」という定跡の進行(参考8図。2四にいた飛車で3四の歩を取った局面)から、後手が角交換して4五に打つ戦法です(参考9図。途中△2八に歩のたたきをいれています。3八にたたくこともあります)。
参考8図からは△3三角が大多数で、△8八角成~△4五角は少数派です。△4五角を打つと、戦いが一気に激しくなります。事前に研究した予備知識で勝ち切ってしまうことも起こり得ます。
角の振る舞いが、「蝶のように舞い、蜂のように刺す」ような趣があると言えるかもしれません。
悲鳴嶼行冥:坂田流向かい飛車
基本的に守備駒である金を3段目に上げ、さらに向かい飛車にして相手の飛車先から逆襲を仕掛けていく戦法です(参考10図)。
金の力強い進出が、悲鳴嶼さんに合っていると思います。
冨岡義勇:きmきm金
こちらも坂田流向かい飛車と同じく金を前に繰り出していく戦法です。が、だいぶ趣が異なります。主に石田流三間飛車対策として用いられます。
金の動きが気持ち悪いことから「きmきm金」(「きもきもきん」と呼びます)と名付けられました(参考11図。金は3二→3三→4四→5四と進出しています)。
インターネット(ニコニコ)発の戦法で、数年前に誕生したばかりなので、非常にマイナーです。
そんな珍妙な戦法をオススメするあたり、富岡さんらしいと言えるのではないでしょうか。
鬼滅の刃×将棋
来月(2021年2月)、「鬼滅の刃 こどもしょうぎ」という商品が発売されるそうです。
「鬼滅の刃」こともしょうぎとは
3×4マスのばんと8枚のコマであそぶミニ将棋です。
好きな「鬼滅の刃」のキャラクターのコマ(全13種)を選んで遊ぶことができます。
「あそびかた」を見るかぎり、「どうぶつしょうぎ」と同じルールのようです。
きたお まどか (著), ふじた まいこ (イラスト)
我が家にはこのどうぶつしょうぎと「しまじろうのこどもしょうぎ」(どうぶつしょうぎと同一ルール。こどもちゃれんじの付録で非売品です)があります。どうぶつしょうぎは他にもアンパンマンとコラボしたものなどもあります。駒の枚数がキャラモノと相性が良いのかもしれません。
日本の大正時代を舞台にした鬼滅の刃と将棋のコラボはうってつけといえるでしょう(原作にも将棋のシーンがあるとかないとか?)。
2020年のような異常な人気が2021年も続くことはないと思いますが、今後も鬼滅の刃とコラボした将棋関連商品や企画が登場し、将棋の普及につながることを期待しています。
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