竜王戦5組昇級をかけた一局
2020年6月に入り、緊急事態宣言によって延期されていた対局が続々と行われているプロ棋界。
渡辺明棋聖(棋王・王将)に藤井聡太七段が挑む第91期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負、豊島将之名人(竜王)に渡辺明三冠が挑む第78期名人戦七番勝負など、注目の対決が目白押しです。
そんな中で行われた注目の対局のひとつが、西山朋佳女流三冠が5組昇級をかけて戦った第33期竜王戦6組準決勝、▲星野良生四段 対 △西山女流三冠戦です。
本局の棋譜と詳しい解説は、将棋連盟ライブ中継アプリで観ることができます。
ちなみに西山女流三冠は、つい先日まで行われていたマイナビ女子オープン五番勝負で、加藤桃子女流三段の挑戦を退け防衛を果たしました。
居飛車穴熊VSノーマル三間飛車
竜王戦5組昇級をかけ6月11日に行われた本局にて、後手・西山女流三冠のノーマル三間飛車に対し、先手・星野四段は居飛車穴熊へ。
それを見た西山女流三冠は、左銀をスルスルと相手の玉頭に進出した後、3筋と4筋の歩を突き越した伸び伸びとした布陣に構えました。
結果的に星野四段が作戦勝ちだったようで、終盤の入り口では、星野四段が駒得のうえガチガチの四枚穴熊になっており、穴熊への攻めの手がかりも無さそうに見え、西山女流三冠の劣勢は明らかだったと思います。
棍棒流と玉さばき
ところがそこから西山女流三冠は、棍棒でドッカンドッカンと殴打するような攻めで穴熊に襲いかかってはがしていき、終いには王手がかかる形どころか星野玉を丸裸にしてしまいました。
しかしそれは星野四段も織り込み済みだったようです。見事な「玉さばき」とも言える指し回しで、持ち駒を蓄えたところで一気のカウンターを見せ、逆に西山玉を追い詰めました。
驚異的な粘りと冷静な寄せ
西山玉に部分的に必死がかかり、見る方が諦めていましたが、西山女流三段は気持ちを切らしておらず、王手から相手の攻め駒を抜く(しかも一度ならず二度も)驚異的な粘りで指し続けました。
それでも星野四段の指し手は冷静で、終始乱れることなく、最後は万策尽きて187手で西山女流三段の投了となりました。
評価値的にはほぼ常に安定して星野四段が優勢でしたが、一手間違えれば一気に逆転して寄ってしまう、観戦者をハラハラさせる大熱戦だったと思います。
再開が待ち遠しい奨励会三段リーグ
惜しくも竜王戦5組昇級がかなわなかった西山朋佳女流三冠。
しかし、6組でベスト4進出は見事な成績ですし、前期(第66期)奨励会三段リーグでは昇段を逃したものの次点を獲得しており、実力は折り紙付きです。
調子の良いこのタイミングで、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で今期(第67期)三段リーグ開幕が延期になっているのはツキが無いとも言えますが、開幕後は持てる力を存分に発揮されることを願っています。
6月18日追記:延期は幸運だった?
将棋世界2020年7月号に載っていた西山女流三冠のインタビューによると、前期奨励会三段リーグで昇級を逃したあと、燃え尽き症候群のような感じで将棋に集中できない状態が続いていたそうです。
結果的にそのつらい時期を抜けた後の今期三段リーグ開幕となったので、ある意味幸運だったのかもしれません。
参考:評価値グラフ
※棋譜解析エンジン / 評価関数:
YaneuraOu NNUE 4.88 / 振電改
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