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WCSC30参加者募集中
現在、第30回世界コンピュータ将棋選手権(World Computer Shogi Championship。以下WCSC)の参加者募集が行われています。
参加申し込み期限は2020年1月31日(金)です。
毎年ゴールデンウィークに行われているWCSC。今回の大きな特徴は、「ライブラリ制度の廃止」でしょう。
コンピュータ将棋におけるオープンソース文化の発展、それに伴う選手権ルールの複雑化等の状況の変化もあり、CSA理事会は、2019年9月14日をもってこれまでのライブラリ制度を廃止することとし、選手権における他者の作成したプログラム・データ等の利用については、その作者による明示的又は黙示的な許可があれば許容することとしました。
規定が緩くなったと言えるわけですが、その分開発者の方々が「性善説」に則り清く正しく戦うことが求められているとも言えるでしょう。
さらに洗練されたコンピュータ将棋ソフト同士による、新たな定跡や手筋誕生につながるような好局・熱戦が繰り広げられることを願っています。
振り飛車党ソフトの台頭なるか
当然、多くの「振り飛車党」ソフトの台頭にも期待しています。
WCSCの振り飛車党筆頭といえば、ハニーワッフル(正式名称:HoneyWaffle)。
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文春オンラインにハニーワッフル開発者のインタビュー記事
文春オンラインに、コンピュータ将棋ソフト・ハニーワッフルの開発者、渡辺光彦氏のインタビュー記事が掲載されました。ハニーワッフルは振り飛車を指す「振り飛車党」のコンピュータ将棋ソフト。私も昔から注目しており、コンピュータ将棋選手権(WCSC)28、29におけるハニーワッフルの戦いぶりを解説した記事も書いています。
今年の活躍にも期待したいところです。
そして、WCSC28にはHefeweizenの名前で出場し優勝、WCSC29にはKristallweizenの名前で出場し準優勝を果たしたBarrel houseチームが、今年は振り飛車党ソフトを投入してくるのか、注目しています。
現在もオンライン将棋道場将棋倶楽部24で振り飛車党として無双状態のHefeweizen。是非とも振り飛車党として出場してほしいところです。
ノーマル三間飛車VS鳥刺し戦法
そんなHefeweizenの将棋倶楽部24での対局を一局紹介します(第1図)。相手は六段の方です。
先手・Hefeweizenの猫だまし戦法(初手▲7八飛戦法)に対し、後手は△3二玉型で角道を開けずに左銀を4二〜5三と進める「鳥刺し戦法」を採用しました。1筋の端歩の一手を省略し、速攻を狙っています。
第1図以下、△6四銀からのナナメ棒銀の狙いに対し、角道オープン型を活かして▲5六歩と突いて▲5七銀〜▲6六銀と「銀対抗」で対応する手段もありますが、Hefeweizenは自然に対応します。
第1図以下の指し手
▲3九玉 △6四銀
▲6六歩 △3一角
▲6七銀 △7四歩
▲2八玉 (第2図)
歩越し銀には歩で対抗
自然に▲6六歩と突いて、「歩越し銀には歩で対抗」の形です。
Hefeweizenの角道オープン三間飛車VS鳥刺し戦法の棋譜を、他にも10局近く並べてみましたが、すべて▲6六歩と突いて▲6七銀型で対応していました。少なくとも対鳥刺しでは「角道オープン型を活かす」という発想はないようです。
第2図以下の指し手
△7五歩
▲6八角 △7二飛
▲7九金?!△7三銀上
▲5六歩 △7四銀
▲4六角 (第3図)
角の転換
途中▲7九金?!が意表の一手。8九の桂にひもを付ける効果があり、部分的には定跡となっている手筋ですが、本局は直前に△7二飛と寄って袖飛車にしており、8筋突破を狙ってくるような将棋ではありません。
▲5八金右と上がると将来△6九銀と割り打ちをくらう可能性があるので指さないのかもしれませんが、▲6八金とまっすぐ上がって上部を強化する価値が高そうな手もあるだけに、手待ちのような▲7九金が私には人智を超えた一手に見えました。
一方で▲5六歩から▲4六角は納得の構想です。角を転換して敵の攻撃陣をにらみながら▲9一角成を狙うのは、振り飛車の常套手段です。
第3図以下の指し手
△7六歩
▲同 銀 △7五歩
▲6五銀 △同銀直
▲9一角成 △6六銀
▲8一馬 (第4図)
△7五歩は後手にとって不本意だったでしょう。7五の地点は後手にとって飛角銀銀が効いている「戦力過剰」の地点です。本来は銀を進出して7筋から突破していきたいところですが、下手に動くと▲9一角成や▲7三歩が生じます。
ソフト解析によると、△7五歩はその局面における後手の最善手ですが、そもそも△7五歩を打たなければならなくなった序中盤の作りがおかしかったということになります。実際のところ、△7五歩の局面はすでに先手の+1000点に近い形勢です。
先手は7五の地点を相手にせず、するりと▲6五銀。△6五同銀直に▲同歩ではなく▲9一角成が当然ながら厳しい一手です。後手が銀取りを回避する間に8一の桂も取ることができます。
第4図以下の指し手
△6七銀成
▲9八飛 △7六歩
▲6八金! (第5図)
金のぶつけ
後手は銀を進出し待望の攻め、といきたいところですが、残念なことに7四の銀と7五の歩が飛車道と角道を邪魔をしています。
泣く泣く△7六歩と突いて顔を立てにいきますが、▲6八金!のぶつけが気持ちの良い駒さばきです。
第5図以下の指し手
△7七歩成
▲同 桂 △6八成銀
▲同 飛 △7六歩
▲6五桂 △7七歩成
▲5三桂打 (第6図)
天使の跳躍&重ね打ち
後手はと金で飛車をいじめにかかりますが、その間に左桂を「天使の跳躍」でさばくことに成功しました。
そして重いようでも▲5三桂打の重ね打ち。対左美濃戦などでも、3七に桂がいる状態で2五に桂を重ね打ちするのが意外と好手になりやすく、覚えておきたい手筋です。
少し進んで第7図。本局のクライマックスです。
第7図以下の指し手
▲5二金 △同 金
▲同香成 △同 玉
▲2二飛!!(投了図)
絶妙の決め手
結論から言うと、後手玉は詰んでいます。
▲5二金に△3二玉と逃げると▲4一銀△2二玉▲3二飛でかんたんに詰み。
5二の地点でばらしてから、角が利いている2二に飛車を放り込むのが絶妙手です。取っても合い駒しても▲5三銀△6一玉▲7三桂不成(参考図。習いある詰め手筋)△7一玉▲8一金で詰みます。
▲2二飛以下、単に△6一玉でも同じく▲7三桂不成以下詰み。△4一玉には▲5二金(銀)でもちろん詰みです。
▲2二飛でなく▲3二飛だと△4一玉が飛車取りになるため詰みません。以下▲7二飛成で大優勢ですが、詰んでいるときは詰ますべきでしょう。ましてや▲2二飛という美しい決め手は逃したくないところです。
芸術的な一局
投了図は、自陣右辺は手付かずの美しい片美濃囲い。自陣左辺の飛角金銀桂を綺麗にさばき、攻めては駒余りなく絶妙の決め手で詰み。
振り飛車党・Hefeweizenが会心のさばきをみせた、芸術的な一局といえるでしょう。
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