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杉本和陽四段の初の著書
「さわやか流疾風三間飛車」(杉本和陽四段 著)のひとくちレビューをお送りします。
杉本四段は、ゴキゲン中飛車も四間飛車も指す若手振り飛車党の一人ですが、初の著書は角道を止めるノーマル三間飛車の戦術書となりました。爽快感のある良いタイトルだと思います。
本書の目次と概要
本書の目次は以下の通りです。
本書の目次
第1章 左銀速攻
第1節 △1一玉型
第2節 △5五歩型
第3節 △4四歩型
第4節 △4四銀型
第2章 トマホーク
第3章 エルモ囲い急戦
各章の最後に解説のまとめと簡潔な自戦解説が載っているのが良いところです(ただし第3章には自戦解説なし)。
この他にコラムが3つあります。
左銀速攻
第1章の「左銀速攻」とは、対△5四歩型居飛車穴熊に対する▲5六銀からの速攻のことを指しています(第1図)。
第1図から、①△1一玉、②△5五歩、③△4四歩、④△4四銀とされた場合について解説しています。
相手が△5四歩型の居飛車穴熊を目指してくるのであれば、相手の布陣はほぼ必然(△5二金右が先かどうかくらい)であり、第1図は狙いやすい局面だと思います。そしてそこからの上記4つの応手もほぼ必然でしょう。したがって、とても実用性が高いです。
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トマホーク
第2章は「トマホーク」。今や説明不要といえるほどの認知度ではないでしょうか。対5筋不突型居飛車穴熊に対する右銀と端桂による速攻です(第2図)。
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また、△1四歩型に対する二枚銀トマホークの戦術も解説しています。
この戦術は、本書の後に発売された将棋世界2019年9月号の三間飛車特集講座にて、山本博志四段が「マッスルトマホーク」と名付けています。
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トマホークは、パッと見は何も考えずにとにかく攻めて攻めて攻め倒すような猪突猛進の戦術に見えるかもしれませんが、実際には攻めが切れないよう針の穴を通すような繊細で緻密な組み立てが必要です。
最近はトマホークを恐れてか居飛車側が△5四歩を必ずと言っていいほど突いてくるので、なかなかトマホークの実戦経験を増やすことができません。トマホークならではの端攻めおよび玉頭攻め戦術を指しこなすには、本書を繰り返し読む必要があるでしょう。
エルモ囲い急戦
第3章は「エルモ囲い急戦」。これを読むために本書の発売を心待ちにしていた振り飛車党の方が多かったのではないでしょうか。
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エルモ囲いとは、コンピュータ将棋ソフトの「elmo」(瀧澤誠氏が開発。第27回世界コンピュータ将棋選手権で優勝)が好んで採用していた、舟囲いから派生した囲いです。▲7九金型(△3一金型)である点が一番の特徴です。
はじめにエルモ囲いの特徴を、続いて対エルモ囲いの心得を簡単に解説したあと、対エルモ囲い斜め棒銀(第4図)、対エルモ囲い△6五歩急戦(第5図)の戦い方を解説しています。
三間飛車側は▲6七銀型、▲5七銀型、そして▲6八銀型の3つで対抗することができると解説しています。
結論としてはどれも悪くなることはなく一局なので、自分の棋風に応じて選ぶとよいのではないでしょうか。またはすべてを覚えて状況に応じて指し分け、相手に的を絞らせないのも有効でしょう。
熱いコラム
3つのコラムは、杉本和陽四段の想いがこもった良作となっています。
①杉本四段の三間飛車の「師匠」・山本博志四段とのエピソード、②ハマ公望、蒲田将棋クラブでのエピソード、③奨励会員時代のエピソード、そしてこれから。
特にコラム3は3ページに渡る熱い内容です。コラム好きの私の知る限り、三間飛車関連の棋書に載っているコラムの中で史上最長でしょう。これからも杉本四段を応援していきたいと思わざるを得ません。
余談ですが、コラム2とコラム3がそれぞれ第2章と第3章の最後にあるのに、コラム1がなぜか第1章の最後ではなく第2章のまとめの前にあります。これは誤植ではなく狙いなのでしょうか。私は棋書を購入すると真っ先に前書きと後書きとコラムを読むタイプなので、しばらくコラム1が見つからず戸惑いました。
ノーマル三間飛車の「リアル」を表現し切った良著
ネット上で良い評判を多く聞く、完成度の高い本書。プロ棋戦で実際に本戦法を採用している杉本和陽四段が、三間飛車の「リアル」、そして「今」を余すことなく伝えた良著だと思います。
実用性が非常に高い居飛車穴熊対策を覚えたい三間飛車党、そして最近現れたエルモ囲い急戦への対抗策に悩む三間飛車党必見の一冊です。
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