藤井聡太七段、王将戦挑戦者決定リーグ入り決定
2019年9月1日に行われた第69期大阪王将杯王将戦二次予選決勝、▲藤井聡太七段 対 △谷川浩司九段にて、先手・藤井七段が相雁木の戦いを制し、王将戦挑戦者決定リーグ入りを決めました。
つい先日行われた第5期叡王戦予選で村山慈明七段(新人王戦とNHK杯で優勝経験あり)に敗れ、8月25日に放送された第69回NHK杯テレビ将棋トーナメントで久保利明九段に敗れるなど、相手がトップ棋士ばかりとはいえ負けが目立つようになってきた藤井七段でしたが、王将戦で大きな結果を残しました。
現時点で挑戦者決定リーグ入りが決定しているのは、藤井七段のほか久保九段、糸谷哲郎八段、広瀬章人竜王、豊島将之名人。さらに羽生善治九段or郷田真隆九段、三浦弘行九段or佐藤天彦九段が加わります。
ものすごいメンバーですが、藤井七段がこの「リアル炎の六番勝負」を勝ち抜いて渡辺明王将への挑戦権をつかみ取ることができるか、注目です。
ノーマル四間飛車
さて本記事で取り上げるのは、はじめにも紹介した、8月25日放送の第69回NHK杯テレビ将棋トーナメント、▲久保利明九段 対 △藤井聡太七段戦です。
棋譜はNHK杯のWebサイトで観ることができます。
もともと藤井七段の先手番でしたが、居飛車対ノーマル四間飛車の序盤から角交換後銀冠に組み合う将棋となり、双方仕掛けることができず千日手に。
そして千日手指し直し局でも久保九段はノーマル四間飛車を採用しました。(第1図)。
久保九段は今回は先後どちらでもノーマル四間で行こうと決めていたのでしょう。
立石式石田流(立石流四間飛車)に
その後久保九段は▲7五歩〜▲6五歩と突き(第2図)、角交換後、立石式石田流(立石流四間飛車)の布陣に構えました(第3図)。
第2図から第3図への手順中、久保九段は一手損を承知で自ら角交換したあと、▲7七桂ではなく▲8八銀(途中図)と上がっています。
▲8八銀とせず▲7七桂を先に決めてしまうと、有力な立石流対策の1つである△3三角打で▲6六飛を封じられた後、桂頭をいじめられるのを気にしたのでしょう。かといって▲6六飛だとやはり△3三角と打たれ、飛車を逃げたあと△9九角成とされ大失敗です。▲8八銀なら△3三角と打たれても桂頭のキズが無いので問題ありません。
そして途中図以下、▲6六飛〜▲7七桂〜▲7九銀(8八に上がった銀を戻っているので2手損)〜▲7六飛〜▲6八銀〜▲6七銀〜▲5八銀と進めて前述の第3図となりました。
角打ちの隙をケアした細心の手順であり、勉強になります。最後の▲6七銀〜▲5八銀は立石流で必修の左銀の組み換えです。
藤井七段の立石流対策
さて、この間に藤井七段は△3五歩を突いた銀冠に組んでいます。
居飛車側が漫然と銀冠や玉頭位取りに組むのは立石流の思うツボですが、藤井七段が囲いに現代風のアレンジを加えているのが昔と事情が異なるところです。すなわち、4筋の歩を突かず金2枚を横に並べた銀冠にしています。これにより、自陣の角の打ち込みの隙を減らしています。これで十分戦える、というのがコンピュータ将棋ソフトから学んでいる藤井七段の大局観なのでしょう。
将棋世界2019年9月号の「強者の視点ー棋士たちの藤井将棋論」にて、鈴木大介九段は以下のように語っています。
藤井さんの対振り飛車には、昭和の時代に、作戦負けといわれていた指し方が多く見られます。しかし、それを現代風にアレンジし、終盤力をバックボーンに切り合いに持ち込み、勝っている。
鈴木九段らしい鋭い洞察力だと感じます。本局もまさにこれに当てはまるのではないでしょうか。
久保九段、逆転勝利
本譜はその後、角を打ち合って戦いが始まってからは一気に激しい戦いになりました。
藤井七段の巧みな攻めで一時は大優勢になりましたが、そこからが「粘りのアーティスト」久保九段の本領発揮。決めにいった藤井七段の攻めをぎりぎりしのぎ、いなした反動で一気に藤井玉を追い詰めてしまいました。
最終盤、久保玉を詰ますしかなくなった藤井七段の王手ラッシュをしっかりとかわし切り、137手で久保九段の勝利。久保九段の終盤力がいかんなく発揮された一局でした。
久保九段も出場する王将戦挑戦者決定リーグ
久保九段と藤井七段の公式戦での対戦成績は、これで久保九段の3勝1敗に。
はじめに述べた通り、前王将である久保九段も王将戦挑戦者決定リーグに出場します。リーグ唯一の振り飛車党である久保九段に、藤井七段は次にどう立ち向かうのか。リーグの行方を左右する、重要な一局になるかもしれません。
参考:評価値グラフ
※棋譜解析エンジン / 評価関数:
YaneuraOu NNUE 4.88 / 振電改
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