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ノーマル三間飛車からの超攻撃的布陣
「トマホーク」とは、5筋の歩を突いてない居飛車穴熊を相手に、ノーマル三間飛車▲6七銀型から左銀と端桂の進出を軸に強襲を仕掛ける、超攻撃的戦法です(第1図)。
アマチュア棋界でタップダイスさんがトマホークを解説した電子書籍(「トマホーク解体新書」など)をリリースしたことが主なきっかけとなり、その名が広まりました。
最近では、「三間飛車新時代」(小倉久史七段と山本博志奨励会三段の共著)や、「将棋世界」2018年4月号内の定跡講座「最新型はサトシにお任せ ノーマル三間飛車の逆襲ー衝撃のトマホーク戦法」で、「トマホーク」の名称とともにこの戦術が解説されており、知名度がさらに上がりました。
先手番、後手番どちらでも使用可能
トマホークは、先手番、後手番(第2図)どちらでも用いることができます。
その差は、駒組みの関係上主に右銀か左金の一手に現れます。先手番の場合は第1図のように▲3八銀または▲5八金左が入っており、後手番の場合は第2図のように△7一銀、△4一金型となります。
トマホークの特徴とポイント
以下、先手番を例に説明します。
トマホークの特徴と、戦う上でのポイントを整理すると、下記の通りです。
POINT
- 対5筋不突き居飛車穴熊用の作戦
- ▲4八玉型
- 玉頭銀+端桂
- 飛車の価値を互角以上に
対5筋不突き居飛車穴熊用の作戦
トマホークは5筋の歩を突いていない△5三歩型居飛車穴熊を相手に、▲5六銀(第3図)と上がって攻撃を開始します。
第3図以下、後手の▲4五銀〜▲3四銀対策としては△8四飛(第4図)に限定されます。
なぜなら、▲5六銀に対し△5四歩では▲4五銀の受けになっていませんし、△4四歩は居飛車が妥協した一手であり、三間飛車側は好きなように駒組みを進められるからです。△4四歩には▲5五銀として△5四歩を突けなくしてしまい、▲6五歩〜▲6八飛と進めるのも面白い指し方です。
こうして△8四飛とさせてからがいよいよトマホーク本格始動となります。
左銀よりも先に右桂を繰り出していくのも、広義にはトマホークに含まれます。
▲4八玉型
再掲載第1図の通り、トマホークは基本的に▲4八玉型(後手の場合△6二玉型)で戦います。
▲3九玉型で戦いが始まりやすいコーヤン流と比べて、さらにもう一手囲いを省略し、攻撃の一手に手を回します。居飛車から仕掛けられる前に、自分から端をからめて先行するのが確実であり、▲4八玉型の方が端から遠く安定しているためです。
とはいっても当然左辺からの攻撃には弱いので、そこを突かれないような展開に持ち込むことを心がけて中盤戦を戦う必要があります。
なお後手番のとき、展開によっては玉を5一に戻し、さらには飛車も8二に戻して玉頭攻めを仕掛ける応用作戦もあります(第5図)。
この波状攻撃は、「トマホーク解体新書」では「信玄流△5一玉型」と呼んでおり、2014年3月に行われた「Ponanza(ポナンザ)に勝てたら100万円!挑戦者求む!」最終日にPonanzaが採用したことでも注目を集めました。
信玄流について、詳しくはタップダイスさんの下記記事を参照ください。
玉頭銀+端桂
トマホークは、今流行りの▲6七銀型三間飛車から派生する戦法です。左銀を6七→5六→4五と進出し、△8四飛と受けさせてから▲1七桂〜▲2五桂と跳ねるのが基本手順。その後、▲6五歩と突いて角のにらみをきかせ、タイミングを見計らって▲1三桂成!からの強襲を決行します。
素晴らしい参考棋譜として、第59回奨励会三段リーグ、▲山本博志三段 対 △藤井聡太三段戦があり、将棋情報局の下記記事で紹介されています(2018年7月時点)。
第6図から、山本三段は▲1三桂成!△同角▲1四歩△2四角▲1三歩成!△同香▲1四歩△同香▲同香△1三歩▲7五歩(第7図)と仕掛けました。
無謀なようですが、第7図の時点ではまだ歩損のみであり、穴熊の香車をはがすことに成功しています。
飛車の価値を互角以上に
これはトマホークの特徴というよりも、三間飛車、いや振り飛車全般における鉄則ですが、トマホークではとりわけ心がけなくてはならないポイントです。
トマホークでは右辺での戦いがメインとなり、飛車がさばけず遊んでしまいがち。飛車交換して飛車をさばく、または居飛車側の飛車と互角以上の飛車の価値を目指す。これがとても重要です。
上述の山本三段 対 藤井三段戦では、第7図以下△8四飛▲7四歩!(飛車取り)△同飛▲同飛△同歩(第8図)と進み、飛車交換に成功しています(以下先手勝ち)。
飛車をさばけない場合は、仕事をせず働かない、いわゆる「ニート飛車」にならないように、またはニート飛車になるにしてもその時は相手の飛車もニート飛車になるように心がける必要があります。
例えば第9図。▲6六角に対し△8二飛と引いた局面です(山本三段 対 藤井三段戦では藤井三段は△9四飛と寄りました)。
喜んですぐに▲3四銀と歩を取ると、△8六歩▲同歩△同飛▲8八歩となり、相手の飛車だけのびのびとしてしまいます。
そこで第9図では▲8八飛といったん8筋を受けておくのが急所です。居飛車から攻めはなく、このあと▲3四銀と取ることができます。飛車の価値も互角といえるでしょう。
△5四歩を居飛車の税金にしたトマホーク
上述の「最新型はサトシにお任せ ノーマル三間飛車の逆襲ー衝撃のトマホーク戦法」によると、トマホークのインパクトは絶大で、プロ棋界では居飛車側が一直線に穴熊を目指さず、△5四歩と突いて様子を見るようになったそうです。
元をたどると、四間飛車に対しては▲6五歩〜▲6四歩を防ぐために△5四歩と突いて△5三銀を用意する必要があった一方、三間飛車に対してはその必要がないため△5四歩を後回しにできた、という背景がありました。古来から「端歩は居飛車の税金」(詳しくは将棋用語「居飛車の税金」の説明|将棋講座ドットコムなどを参照)と言われてきましたが、トマホークは△5四歩を居飛車の税金にした、といっても過言ではないでしょう。
それでも△5四歩を突かない居飛穴に対しては、トマホークを炸裂させて三間飛車の恐ろしさを思い知らせてあげましょう。
超攻撃的な三間飛車を指したい方にうってつけの戦法です。
関連棋書
タップダイス,信玄m@ster TOKIDA 2017-03-24
小倉 久史 (著), 山本 博志 (著) 発売日:2017/10/17
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