もうひとつの「耀龍」
「大橋貴洸の新研究 耀龍ひねり飛車」のひとくちレビューをお送りします。
著者は、タイトルの通り大橋貴洸六段です。
大橋六段の著書といえば、升田幸三賞を受賞した「耀龍四間飛車」を解説した棋書「耀龍四間飛車 美濃囲いから王様を一路ずらしてみたらビックリするほど勝てる陣形ができた」(2020年4月22日発売)があまりにも有名ですが、本書はそれよりも1年早い2019年4月23日に発売された棋書で、「耀龍(ようりゅう)」の名が付く戦法としてはこの「耀龍ひねり飛車」が元祖です。
ひねり飛車は石田流三間飛車の兄弟みたいなものなので、本ブログでレビューします。
本書の目次
本書の目次は以下の通りです。
耀龍 エピソード
序 章 耀龍ひねり飛車とは
第1章 押さえ込みを狙う△3三金型
第2章 筋良く受ける△8四飛型
第3章 手得を生かし堅く囲う△4一玉型
第4章 バランス重視の△5二玉型
第5章 角道を開けず▲3六飛をけん制 △7二銀型
この他にコラムが4つあります。
通常のひねり飛車とは
耀龍ひねり飛車の前に、通常のひねり飛車についてかんたんに説明しておきます。
ひねり飛車は、先手番で相掛かり戦法のオープニング(参考1図)に進んだときに採用することができます。
2筋の歩交換のあと飛車を2六に引き、▲3六飛の揺さぶりを入れたあと▲7六飛と回り(先に▲8六飛と回ったりすることも)、石田流の形に組む戦術です(参考2図)。
相掛かりがスタートであることから角頭を守る▲7八金が入っているのが基本で、また、囲いは美濃囲いに組むのが自然です。
石田流の感覚で指すことができ、手持ちにした一歩を有効に活用できれば通常の石田流よりもさらに積極的に戦うことができます。その一方で、2七の歩がない美濃囲いなので玉頭の注意は欠かせません。
この▲7八金型の通常形は、本書では取り上げられていません。
耀龍ひねり飛車は▲7八銀型
それに対し、本書で解説されている「耀龍ひねり飛車」は、同じく相掛かりのオープニングながら▲7八銀型に組むのが特徴です(参考3図)。
通常の石田流三間飛車も▲7八銀型が基本なので、耀龍ひねり飛車は通常のひねり飛車に比べより石田流に近い感覚で指すことができると言えるでしょう。
ただし、手堅い▲7八金型に比べ▲7八銀型は角にひもが付いていないため隙が生じやすいのがネックです。
本書の前半では、そんな危険な序盤を無事に乗り切るための手順が解説されています。
石田流にこだわらない構想も
耀龍ひねり飛車は相手の駒組みに隙があれば積極的に仕掛けていく戦術であるため、いつも石田流+美濃囲いの陣形になるわけではありません。
▲7五歩の形ではなく角道を開けない▲7七歩の形で戦う戦術もあれば、居玉または▲5八玉の中住まいで、金銀の連結が良く飛車の打ち込みに強いユニークな配置に構えて戦う戦術も解説されています。この場合は石田流とは似ても似つかない布陣となります。
デザインへのこだわりが随所に
本書には、アイコン、マーカー、丸文字系のフォントなど、大橋六段のこだわりが随所にちりばめられています。とりわけ各章のはじめに載っている「POINT」のページと、各章の最後に載っている「CHECKLIST」のページで顕著です。
私は「耀龍四間飛車 美濃囲いから王様を一路ずらしてみたら~」も所有していますが、読み比べると、本書のほうがこだわりがより強く出ていると感じます。
相掛かりを受けて立ってくれた場合の必殺技として
▲7八銀型のひねり飛車は、大橋六段のオリジナルというわけではなく、昔からある戦術です。しかし、先後共に手が広いこの戦術を「耀龍ひねり飛車」として現代風の洗練された戦術に昇華させ、一冊の棋書にまとめ上げたのは価値が高いと思います。
上述の通り手が広く、すべての手順を丸暗記するのは大変なので、大まかな構想(大局観)や手筋を覚えるのが良いでしょう。大橋六段も本書の中で「すべて覚える必要はなく感覚をつかんでほしい」と述べています。
実はアマチュア棋界では振り飛車党が多く、相居飛車でも相掛かりを避ける人が多い(私は学生時代先手番では初手▲2六歩を好んでいた時期があり、そのときの印象です)ので、そもそも相掛かりの出だしにならないのがネックではあります。
後手が相掛かりを受けて立ってくれた場合は、満を持して本戦法を「必殺技」として採用すると良いでしょう。後手は初見ではなかなか対応しづらいのではないでしょうか。
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