この記事は、2004年に書いた記事に2007年と2019年に加筆修正を加えたものです。
目次
△5三銀型三間飛車からの派生形の1つ
(参照サイト:将棋倶楽部24)
居飛車穴熊に対する比較的珍しい戦法を紹介します。この形は、将棋倶楽部24でSuper megutan六段がよく用いるものです。
第1図は、居飛車側が▲9八香と上がって居飛車穴熊を見せたところ。後手陣は、早めに△5三銀型を決めています。
第1図以下の指し手
△6四銀
▲6六銀 △4五歩
▲9九玉 △4二飛(第2図)
△6四銀型+四間振り直し
△6四銀と上がって、△6五銀からの攻めを見せます。
これに対し▲6六歩なら、振り飛車側も穴熊に組む展開になります。この相穴熊戦は、▲6六歩を突いてしまっているため居飛車穴熊を堅くしづらく、居飛車側が若干不満といえます。
本譜のように▲6六銀と対抗してきた場合は、△4五歩から△4二飛。四間に振り直して4筋からの攻めを見せます。
△5三銀型を作ってから4筋に飛車を移す序盤構想は、三間でなく中飛車がスタートでもしばしば見られるもので、最近プロ棋界でも脚光を集めつつあるようです。
四間飛車がスタートだと飛車が邪魔をして△4二銀~△5三銀とできません。
なお、△4五歩のところ△3五歩(参考図)として石田流を目指したり、△9二香と上がって相穴熊を目指す展開も考えられ、これも一局となります。
本譜に戻って、居飛車側は△4六歩を受けなければいけませんが、応手は▲4八飛と▲2六飛が考えられます。
▲4八飛の変化
まず▲4八飛(第3図)の変化について説明します。
この手は、▲2六飛とは異なり、振り飛車からの乱戦含みの仕掛けを確実に避けた無難な一手といえます。
また、居飛車側も2筋からの仕掛けを放棄したわけで、振り飛車側としてはじっくり堅く囲える選択肢を確実に得たことになります。
第3図以下の指し手
△9二香
▲8八銀 △9一玉
▲5九金右 △8二銀
▲7九金 △5一金左(第4図)
本譜は後手が振り飛車穴熊を選び、相穴熊の展開に進行。もちろん美濃囲いに組むこともでき、それも一局です。
さて第4図について考えてみると、△3二飛→△4二飛と回った一手損は居飛車側の▲4八飛と見合いといえます。居飛車側からの仕掛けが全く恐くない分、この交換は実戦心理的には振り飛車側が若干得かもしれません。
▲2六飛の変化
続いては、第2図から▲2六飛(第5図)とした場合の展開について紹介します。
飛車を2筋に維持したまま△4六歩を受けた一手です。ここから振り飛車側は急攻を仕掛けます。
第5図以下の指し手
△6五銀?!
▲同 銀 △7七角成
▲同 桂 △4四角(第6図)
銀のただ捨て~角交換から△4四角。単純明快な仕掛けです。
形勢的にはまだまだ難しく、以下は力勝負となります。ただし、三間飛車側は狙ってこの形に誘導することができ、経験値を積むことができます。相手にとっては未知の領域、自分にとっては指しなれた展開に持ち込める、というわけです。時間の短い将棋での隠し技として覚えておくと、特に有効だと思います。
第6図からは▲6六角と打つ手や▲2八飛と引く手などが考えられます。
▲6六角の変化
まず、第6図から▲6六角(第7図)と合わせる展開となった▲某強豪六段VS△Super megutan六段の実戦譜を紹介します。
第7図以下の指し手
△2六角
▲1一角成 △4六歩
▲同 歩 △同 飛
▲4八歩 △4四角
▲同 馬 △同 飛(第8図)
4筋の歩を交換してから△4四角が綺麗なさばき。振り飛車側からみて銀香と角交換の駒損ですが、いずれ桂香は拾える形ですし、玉の固さも互角以上でしょうか。振り飛車側も十二分にやれる展開といえると思います。実戦も後手勝ち。
▲2八飛の変化
続いては、第6図から▲2八飛(第9図)と引く展開となった▲某六段VS△Super megutan六段戦を紹介します。
△4四角に対する最もオーソドックスな応手であり、かつ最も有力な手かもしれません。後手はいく一手でしょう。
第9図以下の指し手
△7七角成
▲8八角 △同 馬
▲同 銀 △4六歩
▲8六角 △4七歩成
▲4二角成 △同 金
▲3一飛 (第10図)
当然の△7七角成に対し、▲8八角の合わせ。▲8八銀では△6七馬~△6六馬が嫌味、ということでしょう。また手順中、▲8六角に対し相手をする(例えば△4三飛)と▲5四銀などがある、ということで手抜きでの攻め合い。
さて第10図となって、この局面をどう見るか。
居飛車側の2八の飛車は、もはや攻めには間に合わないので、横ラインへの受け駒としての活用に徹することになりそうです。とはいえこの自陣飛車の受けが、居飛穴をより強固とするような展開は多々見受けられます。みなさんも経験があるのでは。
そしてもう一枚の飛車の打ち込みはさすがに攻めの急所。居飛車やや良しといえるかもしれません。ただし実戦的にはまだまだでしょうか。
第10図以下の指し手
△4三角
▲5四銀 △2二角
▲4三銀不成△3一角
▲4二銀成 △同 角
▲4三角 △7二金
▲6一銀 △5七桂
▲7九金 △4九桂成
▲7二銀成 △同 玉
▲6一金 △5九飛(第11図)
手順が長くなりましたが、面白い攻防が続いています。
以下、細い攻めをうまくつなげて先手勝ちとなりましたが、アマチュア的には振り飛車側でも十分楽しめる展開だと思います。
2007年追記:矢倉流中飛車
このひとくちメモは2004年3月頃に執筆しましたが、その後2004年7月に、中飛車からこの△6四銀型を目指す戦い方が詳細に解説された、「中飛車道場〈第4巻〉6四銀・ツノ銀」(所司 和晴七段 著)が発売されました。非常に参考になります。
▲4六銀型中飛車は、プロでは矢倉規広先生が得意としており、「矢倉流中飛車」と呼ばれるようになりました。
先生の苗字が苗字なだけにわかりにくいですが、戦法の「矢倉」とは無関係。矢倉中飛車ではなく、矢倉「流」中飛車です。
2004・2005年頃にはこの戦型は比較的よく見られましたが、2007年現在はほとんど指されなくなったと思います。
2019年追記:三間飛車戦記にて実戦譜多数解説
2015年に、本家・矢倉規広七段が矢倉流中飛車を解説した棋書「対居飛穴最終兵器 矢倉流中飛車の極意」をリリースしました。
また、2019年に発売された「三間飛車戦記 2008~2019」(小倉久史七段と山本博志四段の師弟コンビによる共著)にも、「第6章 先手居飛車穴熊対後手三間飛車から四間に振り直し」の中でこの戦術のプロの実戦譜が解説付きで載っています。
小倉久史, 山本博志 (著) 発売日:2019/8/23
ちなみに、そのうちの一局は2010年に行われた第68期順位戦B級1組、▲杉本昌隆七段 対 △渡辺明竜王戦(段位・肩書は当時)で、振り飛車党の杉本七段が居飛車、居飛車党の渡辺竜王が三間飛車でこの四間振り直しを採用、という意外な一局です。
結果は渡辺竜王の勝利。強い人は何を指しても強いですね。
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