【二次予選編】(下記リンク参照)に続き、【決勝編】です。
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WCSC28 振り飛車党・HoneyWaffle、三間飛車を多用し8位に【二次予選編】
第28回世界コンピュータ将棋選手権にて、初出場のHefeweizenが並み居る強豪を押し退け優勝しました。Hefeweizenをはじめ、ほとんど全てのコンピュータ将棋ソフトが居飛車党でした。一方で、振り飛車にこだわり続けたソフトがあります。それがHoneyWaffleです。
目次
上位8チームによる決勝リーグ
本記事では、決勝リーグにおけるHoneyWaffleの対局を振り返ります。
二次予選では、対戦相手の角頭歩戦法や居飛車誘導作戦などの変化球がありましたが、決勝リーグでは結果的にすべて真っ向勝負といえる序盤戦でした。
1回戦 the end of genesis T.N.K.evolution turbo type D - HoneyWaffle
棋譜再生
後手・ HoneyWaffleのゴキゲン中飛車。
三間飛車ではないので対局内容の紹介は割愛します。
結果は先手・the end of genesis T.N.K.evolution turbo type Dの勝ち。
2回戦 HoneyWaffle - Hefeweizen
棋譜再生
石田流 対 居飛車穴熊
先手・HoneyWaffleの猫だまし戦法(初手▲7八飛戦法)から、石田流対居飛車穴熊の戦型へ進みました(第1図)。
二次予選の名人コブラ戦(棋譜再生)と同じく、一度5六に上がった銀を6七に後退させているため、先手が手損しています。
進んで迎えた第2図。
桂損ながらも美濃囲いは手付かずで堅く、角打ちで絡んでイヤミが付いたように素人目には見えましたが、ここから△3三銀引▲3二角成△同金▲4一馬△3一飛!▲同馬△同金▲6二飛△7五角!(第3図)と進んで景色は一変。
攻防の角を打たれ、急に優劣がわかりやすい局面になってしまったように思います。
ジリ貧受けモード
第3図以下、端攻めを行い端にアヤを付けたものの、その後攻め手を失ったHoneyWaffleは、コンピュータ将棋ソフト特有のジリ貧受けモードに入ってしまいました(第4図。玉は堅いものの角損)。
以下、234手!までねばったものの、後手・Hefeweizenの勝利となりました。
3回戦 Apery - HoneyWaffle
棋譜再生
△3三角戦法
三間飛車ではありませんが、立石式石田流(立石流四間飛車)に進む可能性があったので、序盤を紹介します。
初手から▲7六歩△3四歩▲2六歩△9四歩▲2五歩△3三角(第5図)と、後手・HoneyWaffleは△3三角戦法を採用。
普通は端歩を突かずに4手目△3三角ですが、△9四歩▲2五歩の交換を入れてから△3三角としました。
結果的にはこの交換による波乱は起きず、以下▲3三同角成△同桂▲6八玉△3二金▲8八銀△4二飛(第6図)と、△3三角戦法らしい駒組みに。
立石式石田流にはならず
ここからHoneyWaffleは立石流を目指さず、△4一飛と引く構想を選択。
端歩に手をかけてしまっているので、手数がかかる立石流を目指すのは得策ではなさそう。もしくは、HoneyWaffleが立石流の構えを評価していないのか。興味深いところです。
結果は先手・Aperyの勝ち。
窪田 義行 毎日コミュニケーションズ 2008-11-26
4回戦 HoneyWaffle - PAL
棋譜再生
石田流速攻 対 居飛車穴熊
先手・HoneyWaffleの初手▲7八飛から、石田流速攻 対 居飛車穴熊の戦型へ進みました(第7図)。
後手・PALの△5五歩が早かったためか、本譜ではHoneyWaffleは▲6七銀と引かず▲6五銀と上がり、▲7四歩と仕掛けました。
激渋の応酬
進んで第8図。
▲8五銀・▲9七桂の形から、後手が△9七角成▲同香△8五飛と二枚替えをした局面です。
第8図から▲7六飛△8四飛▲6七角△9三桂▲8六角△7四歩▲9五歩△4二金▲9四歩△8五桂▲4二角成△同金▲8六飛(第9図)と進行。
▲7六飛は習いあるさばきの手筋で、放っておいても△8七飛成でも▲8六飛があります。
そこでじっと△8四飛としましたが、▲6七角がすごい一手。
▲8六飛としたときに8五への利きが増えているわけですが、見えにくいうえに、見えたとしてもその一点狙いだけなので、弱い人間にも強い人間にも指しにくい一手だと思います。
対する△9三桂も▲7三飛成があるので見えにくく(実際には△8七飛成があるので大丈夫)、見えても8五の地点を受けているだけのそっぽの桂なので指しにくい。
そして▲8六角に対し今度こそ▲7三飛成があるのでじっと△7四歩。
非常に渋い応酬です。
第9図となっていい勝負のようですが、以下△6四角(攻防の一手)▲8五飛△同飛▲同角に、9七の香には目もくれず△5六歩!▲7四角△4六角が速い攻めで後手良しです。
以下、224手で後手・PALの勝利。
5回戦 大合神クジラちゃん2 - HoneyWaffle
棋譜再生
石田流ダイヤモンド美濃 対 居飛車穴熊
先手・大合神クジラちゃん2の居飛車穴熊 対 後手・HoneyWaffleのノーマル三間飛車からの石田流+ダイヤモンド美濃の戦型に(第10図)。
序盤早々HoneyWaffleが一歩損をあえて受け入れているのが興味深いところです。
飛車切りからの光速の寄せ
見所の多い中盤戦でどこを紹介するか迷いましたが、第11図の局面を選びました。
香得で居飛穴は鉄壁でと金作りも約束されており、先手優勢の局面。
どう決めようかという局面ですが、ここから▲6五飛!△同桂▲6一歩成!!
飛車を先に捨ててから、桂を取り返さずじっとと金作り。
これが最速の攻めということなのでしょうが、この組み合わせは人間にはなかなか指せないのではないでしょうか。
なお、▲6一歩成以下の△3五飛?!(桂にヒモを付ける)▲6二と△5六成桂?!(馬筋を通す狙い?)というHoneyWaffleの辛抱も、人類の忍耐力を超越しているとしかいいようがありません。
以下、177手で大合神クジラちゃん2の勝利。
6回戦 HoneyWaffle - 名人コブラ
棋譜再生
ノーマル三間 対 ponanza流金無双急戦
先手・HoneyWaffleの初手▲7八飛、からのノーマル三間飛車 対 ponanza流金無双急戦(第12図)。
船囲いから派生した第12図の囲いは、「ponanza流金無双」などと呼ばれているそうです。
この囲いは、昭和の急戦定跡にはありそうでなかった形です。
例えば第13図、第14図はいずれも1988年刊の「三間飛車ガイド」に載っている形ですが、第13図の通り6八に上がるのは普通は銀で、▲6八金直と上がるにしてもそれは第14図のように▲5七銀左と上がったあとでした。
なお▲7九銀型のままで組む船囲いからの派生形として、▲6八金寄とする囲いは存在しており、「箱入り娘」という名前も付いています。
▲7九銀型のまま▲6八金直と上がる、このponanza流金無双がなぜ昭和の定跡とならなかったのか。
山田道美九段ら、当時の急戦の雄にインタビューしてみたいところです。
週刊将棋 毎日コミュニケーションズ 1988-09
史上最強のイモ攻め
さて、第12図から進んで迎えた第15図。
角と桂香の二枚替えの駒割りですが、左下の桂香はすぐに後手に拾われる形であり、先手が苦しそうな局面です。
ここからのHoneyWaffleの攻めが圧巻でした。
第15図以下、▲2五桂!△4四銀▲3三香!△同桂▲同桂左成△同銀▲同桂成△同角▲4五桂!△9九角成▲4一銀!△同金▲3三銀!(第16図)と進行。
頑固オヤジ同士の縁台将棋のようですが、れっきとした世界最強コンピュータを目指す戦いの舞台です。
第16図以下、△3三同馬▲同桂成△同玉▲4一竜△4二銀打▲5二竜△8五角▲5九金打△5二角▲6九金(第17図)と進みました。
カナ駒一枚と桂香の交換でわずかに駒損なものの、玉の堅さが段違いで先手良しのようですが、驚くべきことに評価値的にはわずかに後手有利(ー200点位)。
その評価は最後まで覆ることなく、162手で後手・名人コブラの勝ちとなりました。
7回戦 妖怪惑星Qhapaq - HoneyWaffle
棋譜再生
後手・HoneyWaffleの角交換四間飛車。
三間飛車ではないので対局内容の紹介は割愛します。
結果はHoneyWaffleの勝ち。
最後の最後で一矢報いました。
不滅の振り飛車党ソフト
以上の通り、決勝リーグでのHoneyWaffleの成績は1勝6敗で、8位でした。
居飛車を目指しやすいコンピュータをなだめ、飛車を振ってしっかり玉を囲わせる、なおかつ居飛車の攻めをいなして勝つ、を実現するためのHoneyWaffle開発者様の苦労は並大抵ではなかったことでしょう。
これからも振り飛車で頂点を目指してくれることを願います。
また、現在プロ棋界の7大タイトル(もうすぐ叡王を含めた8大タイトル)保持者のうち、振り飛車党は久保利明王将と菅井竜也王位の2人もいます。
振り飛車愛好家が多いアマチュア将棋界。
コンピュータ将棋ソフトにも、もう1つ強力な振り飛車党が出てくると盛り上がるのではないでしょうか。
期待したいところです。
2019年2月追記:WCSC29にも出場予定
今年の5月に行われる第29回世界コンピュータ将棋選手権(WCSC29)に、HoneyWaffleがエントリーしています。
どんな活躍を見せてくれるか、注目です。
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