初出場のHefeweizen、優勝
第28回世界コンピュータ将棋選手権にて、初出場のHefeweizenが並み居る強豪を押し退け優勝しました。
Hefeweizenをはじめ、ほとんど全てのコンピュータ将棋ソフトが居飛車党でした。
振り飛車党・HoneyWaffle、世界8位に
一方で、振り飛車にこだわり続けたソフトがあります。それがHoneyWaffleです。
コンセプト
・「公開されている技術を最大限に活用し、最強の振り飛車党ソフトを目指す」
(中略)
一般的に形勢判断の基準は①駒の損得②駒の働き③玉の堅さ④手番と言われていますが、現状の3駒関係では、①②④の評価がとても洗練された半面、前述のとおり攻めを重視した結果③の影が薄いように思います。意識して「堅く囲ってから鋭く攻める」ことができるよう、以前までの取り組みに加えて③を重視します。
全文はアピール文書を参照ください。
HoneyWaffleは、前回のWCSC27では7位で、今回8位とひとつ順位を下げましたが、それでも見事な成績です。
そのHoneyWaffleですが、三間飛車の採用数が非常に多かったことが目立ちました。
本記事では、2次予選におけるHoneyWaffleの対局を振り返ります。
1回戦 HoneyWaffle - 名人コブラ
先手番で猫だまし戦法を連採
最終的に4位に輝いた名人コブラとの二次予選での一局。HoneyWaffleにとってWCSC28初戦でもありました。
先手・HoneyWaffleの初手は▲7八飛(第1図)。猫だまし戦法です。
今大会を通して、先手番を握ったときのHoneyWaffleの初手は、2局を除き全て▲7八飛でした。
手っ取り早く振り飛車を明示できるのはもちろんですが、その優秀性がプロ棋界でも認められていて、鈴木大介九段をはじめ振り飛車党の間で流行している初手でもあります。
本譜はこのあと、石田流対居飛車穴熊の戦型に進行(第2図)。
一度5六に上がった銀を6七に後退させているため、先手が手損しています。
端香の打ち消し合い
人智を超えた攻防が最終盤まで続きますが、滑稽なのが第3図からの応酬です。
第3図以下、△1四香?!▲1九香?!△1八香成▲同香△1四香▲1九香△5五馬と進行。実は第3図以外の局面でも、この端の香の打ち消し合いが何度か入っています。
名人コブラ側から見て、水平線効果の一種か、あるいは良くする成算があって△1四香と打ったものの2手進んだ局面で考え方が変わったのか。いずれにせよ、これでは終局までの手数が伸びるとしたものです。
大激戦の末、結果は名人コブラの勝ちとなりました。
2回戦 妖怪惑星Qhapaq - HoneyWaffle
後手・ HoneyWaffleのゴキゲン中飛車。三間飛車ではないので対局内容の紹介は割愛します。
結果は先手・Qhapaqの勝ち。
3回戦 HoneyWaffle - W@ndre
角頭歩戦法 対 陽動居飛車
先手・HoneyWaffleの初手▲7八飛に対し、後手・W@ndreはまさかの2手目△2四歩?!角頭歩戦法です。または相振り向かい飛車の趣向でしょうか。
それを見たHoneyWaffleの3手目は▲2八飛?!こんなに早く陽動居飛車(振り飛車にしたあと飛車を2八に戻す)にした例は見たことがありません。
相振りは終わった?
先日、井出隼平四段の下記ツイートがありましたが、それを彷彿とさせます。
最近先手6八飛オープニングにハマっているのですが、真似されたときの指し方をソフトに聞いてみました。
最善手2八飛相振りは終わった。
(井出) pic.twitter.com/3MZMCeMCUZ— 東竜門〜関東若手棋士〜 (@wakate_shogi) 2018年5月2日
本譜は3手目▲2八飛以下、△3四歩▲2六歩△3三桂と進行(第4図)。
飛車先は受かっていて、かつ先手は2手損していますが、それでも居飛車に戻した方が良いというHoneyWaffleの読みなのでしょう。
結果は先手・HoneyWaffleの勝ち。
4回戦 HoneyWaffle - NineDayFever
先手・HoneyWaffleの角道オープン四間飛車、からのノーマル四間飛車対居飛車穴熊。三間飛車ではないので対局内容の紹介は割愛します。
結果はHoneyWaffleの勝ち。
二次予選 5回戦 大将軍 - HoneyWaffle
後手・HoneyWaffleの角交換四間飛車。三間飛車ではないので対局内容の紹介は割愛します。
結果は先手・大将軍の勝ち。
6回戦 ArgoCorse_IcSyo - HoneyWaffle
先手・ArgoCorse_IcSyoの初手▲3八銀、3手目▲6八玉という挑発的な(?)序盤戦術に怒ったのか、後手・HoneyWaffleは居飛車を採用し、以下相矢倉の急戦調力戦系へ。三間飛車ではないので対局内容の紹介は割愛します。
結果はHoneyWaffleの勝ち。
7回戦 たこっと - HoneyWaffle
4手目△3二飛戦法
前局で振り飛車を指せなかったことでうっぷんがたまっていたのか、後手・HoneyWaffleはなんと4手目△3二飛戦法を採用(第5図)。
この手は菅井竜也王位の第1号局をはじめとしてプロ棋戦でも何度か現れている一手で、「アマの知らない マル秘定跡」(村田顕弘六段 著)でも解説されています。
が、本譜のように▲2二角成△同飛▲6五角と進み、ものすごく激しい展開になりやすいのは明らか。
アピール文書の「堅く囲ってから鋭く攻める」はどこへ行ったのか、という感じですが、HoneyWaffleはよほど頭に血が上っていたのでしょう。
定跡外の△5二金左
さらに、▲6五角以下△7四角▲4三角成に△4二金が定跡ですが、△4二金ではなく△5二金左を選択。
△3三金と上がれる△4二金に比べ、馬を追う力の弱い△5二金左ですが、局面を収められれば玉を固く囲える長所があります。また、△4二飛と回れるメリットもあります。
結果はHoneyWaffleの勝ち。
8回戦 HoneyWaffle - elmo
先手・HoneyWaffleの角道オープン四間飛車、からのノーマル四間飛車対居飛車穴熊。三間飛車ではないので対局内容の紹介は割愛します。
後手・elmoが必勝形になったものの、致命的なバグ(200手目を指さない)により結果はHoneyWaffleの勝ち。
9回戦 HoneyWaffle - the end of genesis T.N.K.evolution turbo type D
ノーマル三間銀冠 対 米長玉
二次予選最後の一局は、昨年秋に行われた第5回将棋電王トーナメントで優勝した「平成将棋合戦ぽんぽこ」を前身とする「the end of genesis T.N.K.evolution turbo type D」戦。
先手・HoneyWaffleの初手▲7八飛から、ノーマル三間飛車銀冠 対 米長玉の戦いとなりました(第6図)。
仕掛けから終盤戦にかけて、人間の目にも自然な応酬が続いたように思います。
千日手
進んで迎えた第7図。
ここでHoneyWaffleの指し手は▲2九金打。
これは、コンピュータ将棋が得意な「先受け」というよりも、自玉が固いようで薄くここで手を入れないと寄ってしまうことを見越した、コンピュータにとっては必然の一手だったと思います。
実際、▲2九金以下△4七桂▲同桂△4八馬▲同歩△4七歩成が鋭い攻めで、以下▲4七同歩△4八銀▲3九金打!△同銀不成▲同金△4八金▲2九金打!△3九金▲同金△4八金▲2九金打△3九金▲同金・・・(第8図。千日手成立)、と先手としては何とか千日手で逃れるのが精一杯となりました。
逆に後手としても、自陣に手を入れてもあまり固くならずかつ戦力不足になってしまうので、千日手を誘う筋で攻めるしかなかったのかもしれません。
HoneyWaffle、決勝進出
以上の結果により、HoneyWaffleは5勝3敗1分の成績で決勝リーグ進出となりました。決勝リーグでは、7局中4局で三間飛車を採用しています。
【決勝編】に続きます。
コメント
コメント一覧 (2件)
[…] 入賞した唯一のソフト振り飛車党HoneyWaffleは三間飛車や初手78飛戦法を多用 https://www.thirdfilerook.jp/entry/2018/05/09/221908 (HoneyWaffleの序盤エンジンを搭載したHefeweizenが将棋倶楽部24で対局してい […]
[…] 入賞した唯一のソフト振り飛車党HoneyWaffleは三間飛車や初手78飛戦法を多用 https://www.thirdfilerook.jp/entry/2018/05/09/221908 (HoneyWaffleの序盤エンジンを搭載したHefeweizenが将棋倶楽部24で対局してい […]