突如上昇した右四間飛車の評価
「VS右四間かんたん講座 第1章・第1節 右四間飛車戦法とは?」にて、以下のように書きました。
2018年現在のノーマル三間飛車 対 右四間飛車の情勢は2003年当時と変化しておらず、ノーマル三間飛車が十分に戦えるという見解や、そもそも実戦例が乏しいという状況は変わっていません。

ところが、この2018年ごろから実際には状況が変化していました。三間飛車に対する右四間飛車の評価が上昇してきたのです。その立役者が、今やおなじみの「エルモ囲い」です。
エルモ囲い+右四間飛車
「エルモ囲い」とは、▲7八玉型で▲6八銀と上がったあと▲7九金と寄って構える、舟囲いの派生形です(代表図。先に▲6八銀・▲7九金型にしたあと▲6九玉〜▲7八玉と入城する組み方もあります)。
後手の持駒:なし 9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ |v香v桂 ・v金 ・ ・ ・v桂v香|一 | ・v王v銀 ・v金v銀v飛 ・ ・|二 | ・v歩v歩v歩v歩 ・v角v歩v歩|三 |v歩 ・ ・ ・ ・v歩v歩 ・ ・|四 | ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 歩 ・|五 | 歩 ・ 歩 ・ 歩 ・ 歩 ・ ・|六 | ・ 歩 ・ 歩 銀 歩 ・ ・ 歩|七 | ・ 角 王 銀 ・ ・ ・ 飛 ・|八 | 香 桂 金 ・ ・ 金 ・ 桂 香|九 +---------------------------+ 先手の持駒:なし 手数=0 ▲7九金まで

この囲いは従来の居飛車急戦と組み合わせても相性が良いうえ、右四間飛車と組み合わせても相性抜群と言われています(参考1図)。
後手の持駒:なし 9 8 7 6 5 4 3 2 1 +---------------------------+ |v香v桂 ・v金 ・ ・ ・v桂v香|一 | ・v王v銀 ・v金 ・v飛v角 ・|二 | ・v歩v歩v歩v歩v銀 ・v歩v歩|三 |v歩 ・ ・ ・ ・v歩v歩 ・ ・|四 | ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五 | 歩 ・ 歩 ・ 銀 歩 ・ ・ 歩|六 | ・ 歩 ・ 歩 歩 ・ 歩 歩 ・|七 | ・ 角 王 銀 ・ 飛 ・ ・ ・|八 | 香 桂 金 ・ ・ 金 ・ 桂 香|九 +---------------------------+ 先手の持駒:なし 手数=23 ▲7九金まで
プロ棋界でも登場
エルモ囲い右四間飛車は、2018年からはプロ棋界でも登場し始めました(というかエルモ囲い自体も2018年からプロ棋界に登場しました)。
例えば2018年7月に行われた第3回YAMADAチャレンジ杯、▲大橋貴洸四段 対 △渡辺正和五段戦や、2019年2月に行われた第32期竜王戦第6組、▲西田拓也四段 対 △本田奎四段戦などです(段位はいずれも当時)。

これらはノーマル三間飛車に対するエルモ囲い右四間ですが、3手目▲7五歩からの石田流三間飛車に対しても、エルモ囲い右四間が優秀と見られています。
2019年夏に公開された、黒沢怜生五段と都成竜馬五段による20代若手強豪対談の中で、黒沢五段は石田流に対するエルモ囲い右四間の優秀性について解説したあと、以下のように語っています。
石田流だと、ここ1、2年は右四間飛車の急戦が強敵です。
先手は石田流じゃなくて、初手▲7八飛(三間飛車)や先手中飛車が増えています。初手▲7八飛は△8四歩を突かせるのが大きい。これなら石田流と違って、飛車先を省略されたまま右四間飛車にされないですから。初手から大変な時代になりました。
初手▲7六歩〜3手目▲7五歩や初手▲7六歩〜3手目▲6六歩に代わって初手▲7八飛が増えたのは、「飛車先の歩突きを省略されたままエルモ囲い右四間飛車にされるのを避ける」という理由もあるのです。
対エルモ囲い右四間でも活きる手筋の数々
以上のように、ノーマル三間飛車に対しても石田流三間飛車に対しても優秀と考えられているエルモ囲い右四間飛車。
こうなると、ここまで解説してきた内容がすべて水の泡か、というとそういうわけではないでしょう。エルモ囲いも△3二玉型なので▲9八角の遠見の角は有効ですし、玉頭や8筋からの逆襲など、この講座で説明してきた内容はエルモ囲い右四間に対しても活きるはずです。
今後ノーマル三間飛車(または石田流)VSエルモ囲い右四間飛車の講座を開始するかというと、気が遠くなるのでやめておきます。
本講座で説明した舟囲い右四間対策の手筋を活かして、「指し将」の方々がエルモ囲い右四間に対しても十分に戦っていけることを願っています。
2020年5月追記:初の専門書発売
2020年6月に、エルモ囲い右四間飛車を専門に解説する棋書「振り飛車を一刀両断!右四間飛車エルモ囲い」が発売されます。

2020年7月追記:破壊力を思い知らされる一冊
本書のレビューを書きました。
エルモ囲い右四間の破壊力を思い知らされる一冊です。

(追記ここまで)
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