この記事は、2004年に書いた記事に加筆修正を加えたものです。
2018年現在では当たり前の後手番猫だまし戦法(2手目△3二飛戦法)ですが、2004年当時は「ありえない戦法」と考えられていました。今の認識で読むと、当時書いた文章はおかしな内容になっていますが、あえてそのままとしています。
また、2008年に2手目△3二飛戦法が現れたときに追記した興奮気味の文章も、その衝撃が伝わってくる当時のままとしています。
後手番猫だまし戦法は成立するのか
猫だまし戦法は、はたして後手番(すなわち2手目△3二飛)で使えるでしょうか。
答えは「否」です。成立せずにあっという間に不利になります。以下に理由を示します。 皆さんすぐお分かりでしょうが(笑)。
先手番の初手としては①▲2六歩②▲7六歩が挙げられ、この2手が初手の9割9分を占めるといえます。
なお、最近「先手番ゴキゲン中飛車戦法」として初手▲5六歩が出てきているようですが、これに対してはうれしいことに2手目△3二飛は十分成立します(すぐに△3四歩と突くことになりますが)。さながら「後手番ゴキゲン猫だまし」といったところでしょうか(?)。
それでは以下、①、②に対して後手番猫だましを用いたときの手順を解説します。
初手①▲2六歩の場合
まずは①▲2六歩に対してです。
初手からの指し手
▲2六歩 △3二飛?!(第1図)
▲2五歩 (第2図)
まで後手不利(笑)。すでに2筋の攻め(▲2四歩△同歩▲同飛からの飛車成り)に対する受けがありません。
飛車成りを防ぐには、第2図以下△3四歩▲2四歩△同歩▲同飛△3三飛しかありませんが、そこで当然ながら▲2三歩(第3図)が好手。
角が死んでいます。後手としては角交換して暴れたいところですが、先手が▲7六歩と突いていないので何もできません。
また、第2図以下△1四歩▲2四歩△同歩▲同飛△1三角は、普通に▲2一飛成で先手大優勢。第2図以下△8二飛(笑。飛車がどこに戻っても同じ)▲2四歩△同歩▲同飛△3二金でも▲2三歩です。
初手②▲7六歩の場合
続いては、初手②▲7六歩に対する猫だましが成立しないことを示します。
第4図は、初手から▲7六歩△3二飛?!と進んだ局面。
先手は▲7五歩と突いても十分戦えると思いますが、▲2六歩と突いていくのがより明快な手順です。
これは、初手から①▲2六歩△3二飛のところで▲7六歩と突くのと同じ形ですが、①の場合は3手目▲2五歩のほうが明快なので紹介しませんでした。
第4図以下の指し手(1)
▲2六歩 △6二玉
▲2五歩 △7二玉
▲2四歩 (第5図)
まで先手良し。
第5図以下△2四同歩▲同飛△3四歩としても、▲6六歩と角交換を拒否されて次の▲2三飛成が受かりません(▲6六歩の代わりに単に▲2三飛成でも先手良しでしょう)。
なぜ▲2六歩に対して△6二玉、続く▲2五歩に対して△7二玉としているかというと、△3四歩と角道を通すと▲2二角成△同銀▲6五角があるためです。後手側は、8三への角成の筋をあらかじめ受けておかないと、角道を通すことができません。
玉を7二まで移動して8三の地点を受けにいくと2手かかるため、代わりに金や銀で受けにいくと以下のようになります。
第4図以下の指し手(2)
▲2六歩 △8二銀(または△7二金)
▲2五歩 △3四歩
▲2四歩 (第6図)
これならば、第3章「2手目△3四歩・VS居飛車型」で説明したように升田式石田流風の対策でなんとか受けることはできますが、そちらに比べて玉形が違いすぎます。
本譜では、猫だまし側は居玉の上△8二銀がひどい壁形(△7二金の場合も同様)。局面が収まったとしても自信のない形勢といえるでしょう。
なお△8二銀のところ△7二銀は、角交換の後▲8二角があるので無理です。また、第6図にいたる一歩手前、▲2四歩のところ仕掛けずに囲い合いに出られた場合でも、△8二銀の壁形が顕著に響いてきそうです。これも後手自信なし。
というわけで、初手▲7六歩に対する2手目△3二飛は、初手▲2六歩のときほど悪くなるわけではないものの、進んで指せるものではありません。
①、②を合わせた結論として、残念ながら「2手目△3二飛は無理筋」です。
2008年3月追記 後手番猫だまし登場
最近の研究で、何と初手▲7六歩に対する後手番猫だまし(2手目△3二飛)が成立することがわかりました。詳しくは、「将棋世界」2008年4月号や、「週刊将棋」2008年3月5日号、12日号を参照下さい。なお週刊将棋では、この手を「いきなり三間」というネーミングで紹介しています。
とりいそぎ、ブログ「将棋の神様」でも簡単に紹介してみました。
2018年8月追記 猫だまし戦法の現在
進化する猫だまし戦法
今となっては当たり前となった後手番猫だまし戦法(2手目△3二飛戦法)。2008年夏に棋書も発売されています。
振り返ってみると、新手登場からわずか半年程度で棋書がリリースされています。前代未聞のため早く読みたいという要望が大きかったのでしょう、すごいスピードです。
2010年ごろに4手目△6二玉型に対する画期的な先手の対策が生まれましたが、代わりに4手目△4二銀型(第7図)から角交換振り飛車を主軸に戦う構想が現れました。
現在でもプロ棋戦で指されています(例えば2018年6月に行われた対局について書いた下記記事参照)。
また初手▲7八飛戦法も、相手の陣形に応じて石田流だけでなく低い陣形の角交換振り飛車、またはノーマル三間飛車を使い分ける高等戦術に進化(深化)し、2017年度のプロ公式戦採用局数は61局、勝率0.583という好成績を残しています。
間もなく初手▲7八飛戦法の棋書登場
本講座に2手目△3二飛〜4手目△4二銀以下の戦術や最新の初手▲7八飛戦法を追記したりすることもできますが、きりがありませんので、ここで一区切りとします。
代わりに、というかそちらを読めば十分すぎますが、間もなく初手▲7八飛戦法の棋書が発売になるそうです。
初手▲7八飛戦法の戦術書、いつか出ます。
著者はもちろん、あの先生で。ご期待ください!
こちらを心して待ちましょう。
以上で猫だまし戦法講座を終わります。
2019年2月追記 ついに発売
2019年3月、ついに初手▲7八飛戦法の棋書が発売になります。著者は、プロ棋界での▲7八飛戦法の先駆者、門倉啓太五段です。
全三間飛車党必読です。
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