トッププロにも難しい相振り飛車の形勢判断
「読みの技法」は、優越の判断が難しい25のテーマ局面を用いて、羽生善治・佐藤康光・森内俊之という大先生方が、そこからの読み筋・構想を披露するという形式で編集された棋書です。
第1図は、本棋書のテーマ2図にあたります。
前回の第5図とは先後も形も若干違いますが、構想的にはほぼ同じです。
第1図の形勢(作戦の勝ち負け)をどう見るか?
興味深いことに、佐藤先生・森内先生はやや後手持ち、羽生先生はやや先手持ちとのこと。それほど難しい局面なのです。
大局観の違い
羽生・佐藤・森内各先生の大局観は、以下の通り。
- 森内先生「玉のコビン(4筋と6筋)が攻撃陣の集中するところなので、そこを厚くできた側が優位に立てそう。その意味では、第1図はやや後手持ちか」
- 佐藤先生「今伸ばした△5五歩が、角交換の筋を消しながら飛車の横利きを消した味のいい手であり、後手の方がうまくやっている感じ」
- 羽生先生「後手陣の△6三金と△8二銀の形がかみ合わないように感じられる。先手陣は、矢倉への発展も考えられる。先手陣の進展性を買いたい」
なるほど、勉強になります。
具体的な読み筋
続いて、三氏の具体的な読み筋を少しだけ見ていきましょう。
△5四銀と立たれると6筋の歩交換ができなくなるので、第1図から▲6五歩が三氏に共通した一手。
以下、△6五同歩▲同銀△6四歩▲7六銀△3三角(第2図)と進むのが本筋となります。
最後の△3三角は、△5四銀だと▲5六歩と突く手が成立するための角上がりですが、利かされというより、浮き駒を消して大きな一手といえます。
なお、第2図までの手順中、△6四歩のところ△6四銀とぶつけて勝負する順も考えられますが、これには▲2六飛(参考図)と回られる筋があるのでやりにくい面があります。
戻って第2図以下、攻めを狙う▲8五銀には飛車の横利きを通す△6五歩が幸便。
端攻め(▲9五歩)も指しすぎな感じ。具体的には、▲9五歩△同歩▲9四歩としても、△同香と取ってくれれば面白いですが、放置されて▲9五香△9二歩となると、9五の香も浮いており、端を詰めた効果はあまりないと考えられます。
というわけで、手厚い陣形のうえ先手からの有効な攻めを許さない点を買って、森内先生と佐藤先生はやや後手持ち、と評価しているのです。
一方で羽生先生はこの先の、先手玉の囲いの進展に期待しています。相手の攻撃陣も進展してくるなか、玉を盛り上げていくわけですから、構想通りに進めるには力がいるでしょう。
結論:いい勝負
総じて、第1図はいい勝負といえます。より詳しくは、「読みの技法」を参照ください。
このような大局観や駒組み感覚を、猫だましから▲5七銀型三間飛車VS△向かい飛車の展開に進んだときに活かしてもらえればと思います。
以上で、「VS向かい飛車型」ならびに第4章「2手目△3四歩・相振り飛車型」の説明を終わります。
次回はいよいよラスト、「あとがき」です。
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