振り飛車党・井出隼平四段による最新プロ棋界情報
将棋世界2017年12月号の久保利明王将と菅井竜也王位の対談にて、久保王将をして「対居飛車穴熊の急所をつかむ感覚が先をいっている」と言わしめた井出隼平四段。
その井出隼平四段によると、プロ棋界でノーマル三間飛車(早々に角道をとめる三間飛車)が振り飛車の主力戦法になるつつあるそうです。
このコメントは、三間飛車党大会にゲスト出演した井出四段のリップサービス、とかではなく(そんな集会はありません)、2018年3月13日に「四間飛車 序盤の指し方完全ガイド」をリリースしたばかりの井出四段が、この書籍の打ち上げの席で発言したものです。
将棋連盟ライブ中継アプリを観ていても、振り飛車といえば今でもゴキゲン中飛車や角交換振り飛車が多いように感じられる中、にわかには信じられませんが、この先ノーマル三間飛車が目立って増えてくるかもしれません。
ノーマル三間流行の兆候
兆候として現れている一例が、2018年3月13日に行われた順位戦C級1組最終11回戦、▲永瀬拓矢七段 対 △宮本広志五段戦。永瀬七段の昇級がかかった一局でした。
先手番では▲7五歩からの石田流を得意戦法とし、対左美濃の宮本流を編み出した宮本五段ですが、その他ではゴキゲン中飛車や角交換振り飛車の採用が目立っていました。
その宮本五段が、この一局で後手番でノーマル三間飛車を採用しました(第1図)。
後手番ながら、成算があってのノーマル三間採用だったのでしょう。
結果は、永瀬七段が勝ってB級2組への昇級を決めました(なお、第43期棋王戦でタイトル挑戦していた永瀬七段でしたが、2勝3敗で渡辺明棋王に敗れ、残念ながら初タイトル獲得ならず)。
その他、ノーマル三間からの三間飛車藤井システム(久保システム)を駆使して第66回NHK杯将棋トーナメントで準優勝を果たした佐藤和俊六段や、先手番でも後手番でも当たり前のようにノーマル三間を指す杉本和陽四段(つい先日の2018年3月29日にも、竜王戦6組の大橋貴洸四段戦で、千日手局と千日手指し直し局両方でノーマル三間を採用)をはじめ、ベテラン、若手問わずノーマル三間の採用がちらほら目立ってきています。
猫だまし(初手▲7八飛)戦法は目に見えて増加
余談ながら、ノーマル三間に合流することはまれですが、猫だまし戦法(初手▲7八飛戦法)が目に見えて増加している印象を受けます。
例えば2018年3月2日に行われた「将棋界の一番長い日」順位戦A級最終11回戦、▲久保利明王将 対 △深浦康市九段戦は、猫だましから角道オープン石田流に発展(第2図。結果は後手勝ち)。
他に目立ったところでは、鈴木大介八段が2018年以降、猫だましからの角交換三間飛車で深浦康市九段、郷田真隆九段、糸谷哲郎八段を連破と、凄まじい成績を残しています。第3図は2018年3月27日に行われた第89期棋聖戦決勝トーナメント(主催:産経新聞社、日本将棋連盟)、▲鈴木八段 対 △糸谷八段戦です。
「勝又教授の勝手に戦法ランキング」のような連載の再開を希望
私が調査したのは、将棋連盟ライブ中継アプリの棋譜だけで、プロ棋界全体の傾向はわかりません。
実際にはどの程度ノーマル三間飛車が流行しているのでしょうか。
今から約8年前、将棋世界誌上で勝又清和六段による「勝又教授の勝手に戦法ランキング」という連載があり、居飛車系・振り飛車系合わせて10個程度の戦型についての流行度合い(1ヶ月間の各戦型の出現数)や注目局面が紹介されていました。
ぜひこのような連載を、将棋世界で再開してほしいものです。
速報性のある記事はインターネットがめっぽう強い一方で、データを定期的に集約・整理して読者に届けることについては月刊誌や定期刊行誌のほうが長けており、その強みを活かしてほしいと思います。
2018年8月追記 流行継続中
2018年5月に、実際に流行中であることをまとめた記事を書きました。
また2018年7月も、特に後手番では振り飛車の中でノーマル三間飛車が最も指されるほど人気を集めたようです(あらきっぺさん調べ。調査対象や詳細については下記記事を参照ください)。
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