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振り飛車党トップ棋士ふたりの対決
2019年6月22日に行われた第40回日本シリーズJTプロ公式戦、▲菅井竜也七段 対 △久保利明九段戦。
棋譜と詳しい解説は、「将棋日本シリーズ | JTウェブサイト」で無料で観ることができます。
振り飛車党トップ棋士のふたりが1回戦で潰し合うのはもったいない面もありますが、このふたりが対戦しないと起こりえない高度な相振り飛車戦を観られたことは、価値があって良かったと言えるでしょう。
先手中飛車VS後手三間飛車
先手番となった菅井七段の初手は▲5六歩。対する久保九段は三間飛車に振り、先手中飛車VS後手三間飛車の相振り飛車戦となりました(第1図)。
このあと菅井七段は中飛車左穴熊や中飛車左玉を目指さず、玉を右に囲うオーソドックスな中飛車を目指・・・すこともなく、左辺の駒組みを進めます。
第1図以下の指し手
▲6八銀 △6二玉
▲5七銀 △7二銀
▲8六歩 △5二金左
▲8五歩 △2四歩
▲7九角 (第2図)
嬉野流向かい飛車に
角道を開けず、左銀を6八〜5七と上がって▲7九角。
10年以上前なら驚愕の手順かもしれませんが、2008年に発売された「2手目の革新 3二飛戦法」(長岡裕也五段 著)にも似た筋が載っていたり(参考1図)、最近では嬉野流で初手から▲6八銀〜▲7九角という手順が指されたりしている(参考2図)ので、今の人はあまり驚かないかもしれません。
本譜に戻って、菅井七段は第2図以下向かい飛車に振り直しました(第3図)。
なお、嬉野流の創始者である嬉野さんも本譜のような「嬉野流向かい飛車」を指していると、「将棋情報局」のご本人インタビューで語っています。
「戦法の内容で言うと、書籍で天野さんは相手が振り飛車にしてきたときは鳥刺しのように戦うと書いていますが、私は他の指し方も使っています。それが『嬉野流相振り飛車』です」
―どんな指し方ですか?
「▲6八銀~▲7九角の出だしは同じです。それで相手が飛車先を突かないで振り飛車にしてきた場合、▲5六歩~▲5七銀の形にして、向かい飛車にします(参考3図)」
▲5八飛の途中下車(手損)をせずダイレクトに▲8八飛と回っているので、本譜よりも好条件です。
この▲5七銀+▲7九角の布陣は、右銀をさらに4六に進出して相手の攻め駒を責める「B面攻撃」を仕掛ける狙いも秘めています。
猫だまし戦法(初手▲7八飛戦法&2手目△3二飛戦法)からの構想の一つとして覚えておくと、いつか役に立つ日が来るかもしれません。
素早すぎる仕掛け
進んで第4図。
先手は低い陣形を維持していて歩をほとんど突いていないので、左辺の駒組みが進んでおり、飛車先の歩を手持ちにしたり、角を5七の好所に構えたりすることができています。
とはいえ後手の角のにらみがあるのでこのままだと左桂を活用できず、十分な攻めの体勢を築くことはできません。
したがって高美濃に組み換えるなど玉形の整備に行くと思いきや、ここで▲9五歩。さすがに一気に攻め潰そうとする仕掛けではなく、歩や香交換をせまるのが狙いです。
久保九段、ベスト8進出
この後、端の動きを逆用する格好で玉頭から盛り上がっていった久保九段が優勢になりましたが、菅井七段が食い付いて攻めをつなげ、敵陣に迫りました。
激しい攻めとしのぎが続く中で、久保九段の玉が一瞬詰んでいる局面がありましたが、短い持ち時間の中、菅井七段がその詰みを逃して入玉模様となり、万事休す。
菅井七段は受ける方針に切り替えまぎれを求めにいくも、久保九段の寄せは正確で、152手で久保九段の勝ちとなりました。
勝った久保九段はベスト8進出。次の相手は広瀬章人竜王で、こちらの対局も楽しみです。
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