第28回世界コンピュータ将棋選手権優勝ソフト・Hefeweizen
2018年5月に行われた第28回世界コンピュータ将棋選手権(WCSC28)で優勝した、Hefeweizen。ドイツ南部の酵母入りビールで、濁った白ビールだそうです。
このHefeweizenが、WCSC28で優勝して以降、異なるスペックだそうですが将棋倶楽部24に参戦しています。
棋譜は無料で閲覧したりすることが可能です。
WCSC28では居飛車党でしたが、24には振り飛車党として参戦しており、先手では初手▲7八飛(猫だまし戦法)を多用しています。本当に圧倒的な強さで、相手が高段者であっても終盤にならないような将棋ばかりで驚かされます。
一例として、六段の方との一局を紹介させていただきます。
2018年12月追記:HoneyWaffleの振り飛車定跡を搭載
本記事に付いている、Hefeweizen開発者のひとり・たまさんのコメントにある通り、24に参戦している振り飛車Hefeweizenは、HoneyWaffleの振り飛車定跡を搭載し、無理やり飛車を振らせるようにしたものだそうです。
エンジン、評価関数、定跡ファイルなどを開発者の方々が公開しているからこそ成り立っており、素晴らしい文化だと思います。
(追記ここまで)
「そっぽの金」を気にしない
第1図は、後手が△4二角と引いて7五の歩を狙ったところ。
▲7四歩と突いて一歩手持ちにしたいところですが、後述する理由によりここでは突きづらく、短い持ち時間では無難に▲7六銀と上がりたくなるところです。
しかしHefeweizenは堂々と7筋の歩を交換しにいきます。
第1図以下の指し手
▲7四歩 △同 歩
▲同 飛 △7三歩
▲7八飛 △7五銀
▲8八飛 (第2図)
なぜ▲7四歩と突きにくいかというと、本譜のように△7五銀からの攻めが受からないように見えるからです。▲8八飛と回ったところで、8六の地点の受けは足りていません。
第2図以下の指し手
△4三金
▲5六歩 △3二金
▲6五歩 △8六歩
▲7八金 △8七歩成
▲同 金 (第3図)
ここで△4三金〜△3二金は一流の間合いで、見違えるほど玉が固くなりました。この2手より価値の高い先手の手は無いと見ています。▲7六歩と打ってくれればそのタイミングで△8六歩から攻められますし、▲7八金と上がってくれれば先手陣が左右に分断します。
しかし、Hefeweizenは▲7八金とは上がらず平然と▲5六歩〜▲6五歩。
△6四銀と引けなくなったため、機は熟したと考えたか、後手は△8六歩といきました。▲8六同歩と取れば△同銀で棒銀が炸裂するので、▲7八金△8七歩成▲同金で第3図。左金がそっぽに行かされてしまいました。
この展開が見えるので、さかのぼって第1図では▲7四歩とは突きにくいのです。
感覚を破壊される受け
ところが第3図を冷静に見ると、金の縦横への機動力が高く(△8六歩と打っても7七に寄れる)、単純には後手の攻めが続きません。後手にとっては7三に歩があるせいで7筋に歩が立たず、かつ右桂が攻撃参加できないのも辛いところ。そして▲7六歩と打たれたら、後手の右銀も8四に引くしかなく「そっぽの銀」になってしまいます。
ちなみに後手は8筋で歩を進める手に4手も費やしている一方、先手は1手も動かしていないので、実質先手の大きな手得です。
第3図以下の指し手
△4五歩
▲8五歩! △3三角
▲7七金 △8六歩
▲7六歩 △8五飛
▲7五歩 △8七歩成
▲同 金 (第4図)
縦の攻めだけでは戦果を得られないと考えたであろう後手は、△4五歩と突いて△3三角のコビン攻めを見せます。
ここで▲8六歩と打ってくれれば後手としては8筋の歩交換の顔が立ちますが、Hefeweizenの次の一手は、一段上の▲8五歩!8筋の歩交換を逆用し、銀バサミを狙う一手です。△8五同飛には▲7六歩△8四銀▲7七桂などがあります。
短い持ち時間の中、見慣れない▲8七金型と▲8五歩の組合せには高段者の方でもパニックになったのではないでしょうか。銀捨ての猛攻で、第4図から△8八角成で決まっているようですが、▲同金△同飛成に▲6六角!の王手飛車があるため先手大優勢です。
以下短手数で先手の勝ちとなりました。
争点を8六から8七に変える
振り返ってみると、▲7八金と上がらず▲8八飛だけで耐えているという読み筋・構想が、見た記憶がなく異質に感じます。
- 8六ではなく一段下の8七で受ける。
- 金は縦横への機動力が高いのでいずれ形はほぐれる。
これを念頭に序盤構想を描くと、新たな振り飛車が指せるかもしれません。そしてこのほかにも、Hefeweizen対人間の対局で超絶の構想が披露されているかもしれません。
(なおコンピュータ同士の戦いだと、お互い罠にかからず手の殺し合いになり大技が現れにくいといえます。)
コメント
コメント一覧 (2件)
観戦いただきありがとうございます。
24に参戦している振り飛車Hefeweizenは、HoneyWaffleの振り飛車定跡を搭載し、無理やり飛車を振らせるようにしたものです。
ですので序盤の指し方はHoneyWaffleそのものだったりします。
ただ相手の指し手によって「これは振ったら負ける!」と察知した場合は、通常の居飛車モードに戻ります。^^;
たまさん
はじめまして。コメントいただき光栄です。
HoneyWaffleの振り飛車定跡だったのですね。確かに、相手が変な序盤の時に居飛車を選ぶのも同じですね(笑)。
振り飛車の秀逸な構想を見られて振り飛車党は大いに喜んでいると思います。
コンピュータ将棋大会は1年おきになってしまいましたが、またのご活躍を楽しみにしております。