WCSC31の戦型分析結果
「柿木将棋」や「Kifu for Windows」の開発でおなじみの柿木義一さんが運営するブログにて、第31回世界コンピュータ将棋選手権(以下「WCSC31」)の戦型分析記事が公開されました。
こちらの記事では、WCSC31の全棋譜(一次予選+二次予選+決勝)に対する戦型分析と、決勝のみの棋譜に対する戦型分析が行われています。
記事の前半で、WCSC31の棋譜入手方法、戦型の自動判別方法、棋譜データベースへの登録方法の説明も載っています。
こちらの記事では、WCSC31の二次予選と決勝を合わせた棋譜に対する戦型分析が行われています。
初手▲2六歩と相掛かりが人気
上述の記事では、WCSC29のデータとの比較も行われています。
データで明らかなのが、初手▲2六歩および相掛かり戦法(参考1図)の採用数の大幅増加です。
決勝リーグでいうと、WCSC29で約14%だったのがWCSC31で約44%になっています。
その裏で、WCSC29で大人気だった角換わり(参考2図)の採用数が激減しています(約64%→約21%)。
意外に高くない先手相掛かりの勝率
以下、「初手▲2六歩人気の背景には相掛かりの勝率の高さにあり」というプロットで本記事を書き進める構想でした。
大会前に、たややさんの以下のツイートなどを目にしていたので、そうなるものと予測していたためです。
dlshogiチームがfloodgateに流してくれているソフトは、Threadripper 3990Xを使ったソフトを含む、沢山の強豪ソフトに対して、先手番で未だ無敗です。https://t.co/fNv1smwGMB
将棋AIの結論は先手番良し、最も優秀な戦法は相掛かり、ということなのでしょうか。確かAlphaZeroも同じ傾向でしたね。。
— たややん@水匠(COM将棋) (@tayayan_ts) April 21, 2021
が、最もレベルが高く先手の利をキープしやすいソフトに厳選されている決勝リーグのデータでは、意外にも相掛かりの先手勝率が5割となっており、構想が破綻しました(苦笑)。
意外に?高い矢倉の勝率
一方で、決勝リーグでの矢倉(参考3図)と角換わり(いずれも初手▲7六歩から派生。ただし初手▲2六歩から派生する角換わりも)は、サンプル数は少ないものの先手勝率が5割を上回っています。
なお、二次予選での角換わりの先手勝率が非常に低いのが興味深いところです(矢倉は高勝率)。
初手と戦型の勝率の関係
最後に、初手と戦型の勝率の関係について自分なりに総括して終わりたいと思います。
決勝リーグでの初手別の先手勝率で見ると、初手▲2六歩は0.688、初手▲7六歩は0.400となっています。こういう背景があるので、先手番では初手▲2六歩を強制的に指している(開発者がそう仕込んでいる)ソフトもあることでしょう。
しかし、実際には初手▲7六歩を選んだことよりもその後先手矢倉を選ばないケースが多いことが、初手▲7六歩の勝率が高くない要因といえるかもしれません。
初手▲2六歩の場合は先手はほぼ必然的に居飛車になりますし、さらには相掛かりに進みやすいので、勝率を下げる要因が混在しにくいといえます。
- 初手▲2六歩に対し、後手が相掛かりを避けると先手が圧倒。後手が相掛かり(または角換わり)を受けて立てば互角とはいえないまでも後手も十分戦える。
- 初手▲7六歩以下、先手は矢倉を志向すれば互角以上(後手が振ってきた場合は居飛車のまま対抗系で挑めば先手十分)。初手▲2六歩並みの先手勝率になる可能性がある。
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