衝撃を与えた2手目△3二飛の戦術書
「2手目の革新 3二飛戦法」のひとくちレビューをお送りします。
著者は、プロ公式戦で初めて2手目△3二飛を採用した長岡裕也四段(棋書発売当時)です。他にも「ひと目の石田流」など数多くの棋書を執筆しています。
長岡四段は、2007年12月に2手目△3二飛(第1図)を初採用した後、2008年8月に本書をリリースしています。
一年も経たないうちにリリースされていることから、当時将棋ファンからの注目や解説書発売要望が非常に大きかったことがうかがえます。
本書の目次
本書の目次は以下の通りです。
序章 後手番で石田流を目指すと
第1章 △3二飛戦法の基本戦略
第2章 ▲9六歩対策
第3章 相振り飛車対策
第4章 △3二飛戦法実戦編
第5章 次の一手
後述の通り、第1章から第3章までで石田流に組んだ時の戦術とそもそも2手目△3二飛が成立していることが丹念に解説されていますが、第3章までの分量は全体の半分弱と少な目です。
第4章「△3二飛戦法実戦編」では、対佐藤天彦四段戦、対阿久津主税六段戦、対泉正樹七段戦、対平藤眞吾六段戦(段位はいずれも当時)の4局が自戦解説されています。
また第5章「次の一手」では、31問の問題が出題されています。
この他に、コラム「△3二飛戦法が与えた影響?!」もあります。
後手番で石田流に組む
本書では、後手番で石田流に組むことを主眼としています。
後手番で従来の手法で石田流を目指すとうまくいかないことを序章「後手番で石田流を目指すと」で述べ、2手目△3二飛ならばそれが可能になることを第1章「△3二飛戦法の基本戦略」で解説しています。
4手目△6二玉型を解説
石田流に組むことを主眼としていることからもわかる通り、本書では3手目▲2六歩に対し4手目△6二玉型(第2図)を解説しています。
4手目△4二銀としてしまうと浮き飛車にするのが難しくなってしまいます(▲2二角成と素抜かれる筋が生じる)。
というか、そもそも2008年当時は4手目△4二銀という手は発見されていませんでした。
しかし、2008年当時は後手番で石田流に組めることこそが2手目△3二飛のメリットであり、角交換振り飛車がまだ有力視されていなかったため、4手目△4二銀は指されていませんでした。4手目△4二銀が成立するのかという課題もありました。
4手目△4二銀がはじめて指されたのは2011年で、指したのは佐藤康光九段です。
2手目△3二飛が成立することを丹念に解説
もともと成立しない(居飛車の速攻でつぶれる)と考えられていた2手目△3二飛が実は成立している、ということを証明するため、本書では最もシンプルかつ強力である▲2二角成~▲6五角(第3図。いわゆる▲6五角問題。2手目△3二飛以外でもダイレクト向かい飛車など角交換振り飛車ではよくテーマになります)への対抗策を丹念に解説しています。
2021年現在の目線で言うと、本書が発売された2008年以降に▲6五角問題の変化にて居飛車に優秀な新手が見つかっており、実は振り飛車がつぶれているのではないか、ともみられていますが、よほどの高段者や定跡通でないとその通りに指すのは難しいでしょう。今後形勢評価が変わる可能性もあります。
▲6五角問題の他に、3手目に▲9六歩と突いて端歩の攻防を絡められた場合の対策や、相振り飛車にされた時の対策も解説しています。
新手誕生の背景をまとめた記念碑的な一冊
2007年12月に登場した新手・2手目△3二飛から始まる新構想や居飛車からの仕掛けの対策をまとめた「2手目の革新 3二飛戦法」。
実戦で指す上で勉強になるのはもちろん、当時の革新的な攻防の記録を残す本としても価値があります。
余談ですが、今後、最新の形勢判断をもとに4手目△4二銀や4手目△3四歩の戦術もまとめて一冊に仕上げた、新たな2手目△3二飛戦法の棋書が出てほしいなとも思います。
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