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西田拓也五段の石田流組み換え 対 伊藤匠五段の居飛車持久戦

「永瀬流 負けない将棋」ひとくちレビュー

本
目次

三間飛車党だった永瀬拓矢二冠

「永瀬流 負けない将棋」のひとくちレビューをお送りします。

永瀬 拓矢 (著) 発売日:2012/11/23

2019年に叡王と王座を獲得した永瀬二冠。2020年1月31日時点で今年度(2019年度)の連勝ランキング1位(15連勝)、勝率ランキング3位(0.756)と大活躍しています。

今でこそ居飛車党ですが、デビュー当時は三間飛車党でした。その後ゴキゲン中飛車などへモデルチェンジし、さらにその後居飛車党にモデルチェンジした、という経緯があります。

2012年に発売されたこの「永瀬流 負けない将棋」では、振り飛車党時代の永瀬二冠の棋譜が題材となっています。

2017年にすべての戦型が網羅された全戦型対応版も発売されましたが、そちらのレビューは本記事には含めていません。

まえがきから一部を引用させていただきます。

奨励会時代はノーマル三間飛車で通した。が、ノーマル三間に特別な思い入れがあったわけではない。そこにノーマル三間があり、それで勝っていたので続けていただけである。

(中略)

受けに偏重し過ぎており、それが奨励会では通用してもプロの世界では通用しなかったようだ。

三間飛車党からすると苦笑いするしかありませんが、たしかに永瀬二冠と三間飛車の組み合わせは、あまり相性が良くなかったのかもしれません。

その点、定跡に乗っかり序盤を比較的前のめりに進められる居飛車を採用し、中終盤に入ってから独特の受け将棋にスイッチするスタイルが、「永瀬流」としてツボにハマった感があります。

三間飛車が多数

目次は以下の通りです(節以降は割愛しています)。

目次

第1章 三間飛車
第2章 中飛車
第3章 相振り
第4章 その他

各章6局〜9局、全部で31局もの自戦解説が載っています。

このほかに、研究会や千日手の話題を取り上げた5つのコラムも載っています。

第1章の三間飛車はもちろん、第3章の相振り飛車、第4章のその他にも三間飛車が登場する自戦記があるので、三間飛車党にとって読みごたえのある内容になっています。石田流(角交換型の升田式石田流含む)が多めです。

独特な永瀬流三間飛車

ただし永瀬二冠の三間飛車はかなり独特です。永瀬流三間飛車の根底にある思想は以下の通り。

POINT
  • 手厚い布陣
  • ていねい
  • 辛抱

角道を止めるノーマル三間飛車でも、石田流でも、手厚い将棋が基本です(参考1図、参考2図)。

【参考1図は△5二金右まで】
後手の持駒:なし
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・v金 ・v桂v香|一
| ・v飛 ・v銀v金 ・v銀v王 ・|二
|v歩 ・v歩 ・v歩v歩v角v歩v歩|三
| ・ ・ ・v歩 ・ ・v歩 ・ ・|四
| ・v歩 歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 銀 歩 ・ ・ ・ ・ ・|六
| 歩 歩 角 ・ 歩 歩 歩 歩 歩|七
| ・ ・ 飛 ・ ・ ・ 銀 ・ ・|八
| 香 桂 ・ 金 ・ 金 王 桂 香|九
+---------------------------+
先手の持駒:なし
手数=0 △5二金右まで
【参考2図は△3一金まで】
後手の持駒:なし
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金 ・ ・v金v桂v王|一
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・v銀v香|二
|v歩 ・v歩 ・v銀v歩v角v歩v歩|三
| ・v飛 ・v歩v歩 ・v歩 ・ ・|四
| ・v歩 歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 飛 歩 歩 ・ ・ ・ ・|六
| 歩 歩 桂 銀 ・ 歩 歩 歩 歩|七
| ・ ・ 金 ・ ・ 角 銀 ・ ・|八
| 香 ・ ・ ・ ・ 金 王 桂 香|九
+---------------------------+
先手の持駒:なし
手数=0 △3一金まで

参考2図はすでに▲7八金型ですが、参考1図のほうもこの後左金は5八ではなく7八に進むことになります。

そして左辺で手厚く戦ってポイントを上げたあと、一気に攻め込まずに竜や馬(とりわけ竜!のほう)を自陣に引きつけて受けるなど、ていねいに指すイメージです。

「ていねい」と「辛抱」は、実はほぼ同義です。優勢なときは「ていねい」に「受ける」、劣勢のときは「辛抱」して「受ける」というわけで、基本が「受け」であることには変わりません(日本語的・将棋用語的に、優勢なときに「辛抱」、劣勢のときに「ていねい」とはあまり言わないので使い分けているだけ)。

アマチュアの場合、受けたつもりでも受けになっておらず相手の攻めが加速しただけ、のようなこともよくあるので、攻めたほうが勝ちやすいきらいがあると思いますが、そのような考え方を打ち壊してくれるのが本書かもしれません。

序盤、中盤、終盤の永瀬流の思想が隙なく解説されています。

永瀬流の極意を学び、「忍耐力」を鍛えたい方に

永瀬拓矢二冠の「正確性」を真似するのは難しいですが、「思想」や「棋風」を真似することはできるはずです。

本書を読んで、辛抱強くていねいに指すことを心掛け、受けに失敗して負けてもブレずに次戦以降も同じ思想で指し続けることができれば、永瀬流の極意を身に付け、何より「忍耐力」を鍛えられるのではないでしょうか。

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