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後手番猫だまし戦法
「2手目△3二飛戦法」とは、初手▲7六歩に対し2手目△3二飛(第1図)として、後手番で手損せず石田流に組んだり、角道オープンのまま進めて先手の駒組みをけん制したりする狙いを持った三間飛車戦法です。
初手▲7八飛戦法が猫だまし戦法と呼ばれるのと同様、2手目△3二飛戦法は「(後手番)猫だまし戦法」とも呼ばれます。
発案者は今泉健司奨励会三段(当時)。本戦法で、奨励会員としてはじめて升田幸三賞を受賞しました。
プロ公式戦の第1号、2号局は長岡裕也四段(当時)で、戦術書「2手目の革新 3二飛戦法」もリリースしています。
長岡 裕也 毎日コミュニケーションズ 2008-08-26
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「2手目の革新 3二飛戦法」のひとくちレビューをお送りします。著者は、プロ公式戦で初めて2手目△3二飛を採用した長岡裕也四段(棋書発売当時)です。
2007年末に2手目△3二飛戦法が登場して以降約3年間は、3手目▲2六歩には4手目△6二玉とするのが定跡でしたが、2011年に佐藤康光九段が4手目△4二銀の新手を披露したことで、2手目△3二飛戦法の可能性がさらに広がりました。
初期の2手目△3二飛戦法
成立しないと考えられていた2手目△3二飛
2手目△3二飛の新手が実戦で現れた2007年以前は、この手は「ありえない」手として認識されていました。
なぜなら、3手目▲2六歩からの2筋の攻めが受からない、と考えられていたからです。
△3四歩と角道を開けようものなら、角交換から▲6五角と打たれる、いわゆる「▲6五角問題」が生じます(参考1図)。
2003年から、当時まだ全く認知されていなかった猫だまし戦法(初手▲7八飛戦法)講座をWeb上で展開していた私も、番外編として取り上げた2手目△3二飛について「成立せずにあっという間に不利になる」とバッサリ切り捨てています。
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※この記事は、2004年に書いた記事に加筆修正を加えたものです。2018年現在では当たり前の後手番猫だまし戦法(2手目△3二飛戦法)ですが、2004年当時は「ありえない戦法」と考えられていました。今の認識で読むと、当時書いた文章はおかしな内容になっていますが、あえてそのままとしています。
ところが、今泉三段は可能性を信じて2手目△3二飛以下の手順を研究し、金脈を掘り当てたのでした。
それが、3手目▲2六歩に対し4手目△6二玉(第2図)とし、続く▲2五歩のところで△3四歩と角道を開ける手順です。
△3四歩以下、▲2四歩には△同歩▲同飛△2二角成▲同銀△3三角の振り飛車お決まりの反撃で問題なし、▲2二角成△同銀▲6五角には△7四角▲4三角成△4七角成(第3図)で互角の乱戦、というのが後手の主張です。
第3図では6二にいる玉のおかげで5三の歩にひもが付いており、歩損しないのが強みです。
手損せず石田流へ
先手が仕掛けてこなければ、△7二玉と寄って▲6五角問題を完全に解消した後に満を持して△3四歩から△3五歩と突き、石田流(升田式石田流)を目指します。
従来、後手番で石田流を目指すには3・4・3戦法や4→3戦法で一手損を甘受するしかないと考えられていたため、手損なくこれを実現する2手目△3二飛戦法はとても画期的で、価値がありました。
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久保利明八段や羽生善治二冠(いずれも段位は当時)も、すぐに追随して採用していたほどです。
これが、わずか2手目でありながら2手目△3二飛が升田幸三賞を受賞した理由です。
単に2手目△3二飛が成立することを示しただけでは、実戦での採用数は増えなかったでしょうし、受賞するにはいたらなかったでしょう。
やっぱり成立しない?
ところが、その後4手目△6二玉型の研究が進み、2010年ごろになって実は第3図は先手良しなのではないか、という風潮になってきました。
水面下のプロの研究が全て公にされている訳ではないため真相は定かではありませんが、4手目△6二玉が近年プロの大舞台で現れていないのは確かです。
第2の手段・4手目△4二銀
佐藤康光新手
そんな中で2011年に現れたのが、先述の佐藤康光九段の新手・4手目△4二銀です(第4図)。
銀を上がることで角交換からの▲6五角問題は直ちに解消されます。
ただしその反面、石田流に組むことはほぼ不可能になります(△3四飛と上がると2二の角のひもが無くなってしまうため)。
角道オープン型の流行とのつながり
石田流に組めなくても問題ないという発想になれたのは、同時期に流行し出した角道オープン振り飛車ならびに角交換振り飛車のおかげでした。
4手目△4二銀以下の狙いは、石田流に組むことではなく、角道オープンのまま低い陣形で駒組みを進めることで、先手の駒組みをけん制することにあります。
角交換三間飛車になることも辞さない構えです。
2手目△3二飛の後の4手目△4二銀は、現在最も採用数が多く、最も無難な一手と言えるでしょう。
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第3の手段・4手目△3四歩
実は成立する4手目△3四歩
第3の手段もあります。
それが4手目△3四歩です(第5図)。
これは本記事の序盤に参考1図で不利、と書いた手ですが、実はこちらも現在の研究では後手も十分に戦える、とされています。
第5図から▲2二角成には△同飛と取るのが本筋です。
詳しくは「アマの知らないマル秘定跡」(村田顕弘六段 著)を参照ください。
この棋書には、4手目△6二玉と4手目△4二銀の解説も詳しく載っています。
△3四歩〜△3二飛の手順でも合流
よくよく考えると、第5図は初手から▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二飛という手順でも合流できます。
この手順も含めた第5図は現在でもプロの実戦でたまに現れており、菅井竜也王位(当時)が今年の春(2018年5月17日)に採用したり、今泉健司四段がつい先日(2018年11月8日)に採用したりしています(いずれも後手の勝利!)。
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自分の土俵で戦える2手目△3二飛戦法
2手目△3二飛のあと、石田流を狙う4手目△6二玉か、角交換三間飛車を狙う4手目△4二銀か、乱戦を狙う4手目△3四歩か。
どの4手目を選んでも、研究が活きる戦型になります。
「猫だまし戦法」命名の由来は、いきなり大駒同士がくっつくところを、立会いで両手をパチンと合わせて相手の意表を突く相撲技「猫だまし」に見立てたことでした。
文字通り「自分の土俵」で戦える戦法と言えるでしょう。
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