右四間+エルモ囲いの攻撃的戦術を徹底解説
「振り飛車を一刀両断!右四間飛車エルモ囲い」のひとくちレビューをお送りします。
右四間飛車(参考1図)は、通常の居飛車(▲2八飛型または△8二飛型。以下居飛車を後手番として説明します)よりも狙いがわかりやすく仕掛けやすい布陣と言えます。
通常の居飛車が、飛車のいる8筋だけでなく右銀や右桂の進出のため7筋や6筋も絡めて仕掛けなくてはならない一方、右四間飛車は△5四銀型(腰掛銀)にして△6五歩と突いてしまえば仕掛けになるからです。そのため、アマ棋界を中心に流行した時期もありました。
半面、攻めが単調で力が出しにくいとも言われ、プロ棋界では敬遠されるきらいがあります。
その風潮に一石を投じたのが「右四間飛車エルモ囲い」です(参考2図)。
従来、急戦右四間飛車といえば右四間飛車と船囲いの組み合わせからの仕掛けでしたが、2018年にプロ棋界に現れ始めたエルモ囲いと組み合わせることで、例えば右金の使い方や角交換・角打ちを巡る駆け引きなどで戦略性が増したと言えます。
なにより、船囲いよりも堅い囲いで戦えるのがメリットです。
本書は、この攻撃的な戦術である右四間飛車エルモ囲いの戦い方を徹底解説しています。
「リボーンの棋士」の主人公を活用
著者は鈴木肇さん。元奨励会三段で、第32期全国アマ王将、第72期全日本アマチュア将棋名人などの実績を持つアマチュア強豪です。
本書の特徴のひとつが、鈴木アマが監修を務めている漫画「リボーンの棋士」の主人公・安住浩一を、形勢判断を表すときに活用している点です。
古くは所司和晴七段の棋書で局面図に「±」や「=」などの形勢判断記号が併記されたり、最近の棋書ではコンピュータ将棋ソフトの評価値が併記されたりしていますが、本書では安住君の表情(笑い顔や頭を抱える姿など)が併記されています。
解説でも、ソフトの評価値を載せるのではなく鈴木アマの感覚(人間的な勝ちやすさなど)も融合させて評価されており、人間味に溢れていて個人的に好感が持てます(反対に、評価値ゴリ押しの棋書にはちょっと味気なさを感じています)。
イケイケなところも
右四間飛車エルモ囲いは攻撃的な戦法です。鈴木アマも書いているうちにハイになっていたのか、途中「イケイケどんどん」な解説になっているようなところがあり、面白いです。
私は形勢判断がネガティブな振り飛車党なので、右四間飛車エルモ囲いの攻めを受け止められる気がしなくなりました(苦笑)。
石田流とノーマル三間相手に威力を発揮する右四間飛車エルモ囲い
本書の目次は以下の通りです。
序章 本書の概要
第1章 対石田流
第2章 対三間飛車
第3章 対四間飛車
第4章 序盤徹底考察編
第5章 実践編
第6章 右四間飛車の宿命
コラムは6つ載っています。
第1章「対石田流」と第2章「対三間飛車」については、本書発売前に書いた以下の記事を参照ください。
この記事の中で、
「船囲い右四間飛車VS三間飛車は三間飛車十分という前提があり、それに対し囲いを船囲いからエルモ囲いに組み替えることで、この結論が覆り右四間飛車が十分戦えるようになる」
というストーリーの説明が本書の冒頭にあるのではないか
という予想を書きましたが、ドンピシャで当たりました。序章「本書の概要」にこの話の流れが載っています。
プロ公式戦の実戦解説も
第1章から第3章までの解説が手厚いのはもちろんですが、第4章「序盤徹底考察編」ではプロの実戦譜6局が初手から中盤の出口の形勢判断が付くところまで解説されており、充実しています。
一方第5章「実践編」はアマチュア同士の対局なので、若干見劣りするところはあります。しかし初手から投了までしっかり解説されているのはグッドポイントです。
角道オープン型振り飛車対策も解説
最後の第6章「右四間飛車の宿命」では、4→3戦法対策と角道を止めない石田流対策が解説されています。
ここで、「角道を止めない石田流」というのは、3手目▲7五歩→4手目△4二玉に対する5手目▲7八飛(参考3図)のことです。
この戦術は、例えば「菅井ノート 先手編」(菅井竜也八段 著)や「早分かり石田流定跡ガイド」(所司和晴七段)など、最近の石田流本ではたいてい石田流側があまり面白くないとされているのですが、本書にはそれらでは解説されていない、はじめて見る手順が掲載されており、一見の価値があります。
さらには形勢判断が意外な結論となっており、これもまた見どころのひとつです。
攻撃的布陣で積極的に戦いたい方に
船囲い右四間飛車よりも玉が堅く、エルモ囲い居飛車急戦より攻撃的でわかりやすい、エルモ囲い右四間飛車。
攻撃的布陣で積極的に戦いたい居飛車党の方は、本書を読んで実戦経験を積んでみると良いでしょう。
一方、石田流党、三間飛車党から見るとエルモ囲い右四間飛車は厄介な存在です。
本書を読んで、エルモ囲い右四間の穴を探すか、または角道オープン型振り飛車を採用して対右四間を回避するのも一つの手かもしれません。
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