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居飛車党ソフト・人造棋士18号
「VS持久戦の基礎知識 天守閣美濃とは」という記事を以前書きました。
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VS持久戦の基礎知識 天守閣美濃とは
「天守閣美濃」とは、対振り飛車で用いられる、▲8七玉型の左美濃です。将棋の囲いは数あれど、三段目に玉を囲うのはこの天守閣美濃ただ一つではないでしょうか。玉が最も高い位置にいる美濃囲いであることから、天守閣美濃と呼ばれています。
「天守閣美濃」とは、居飛車VS振り飛車の対抗形における居飛車の囲いで、▲8七玉型の左美濃です(参考1図)。
この記事に対し、第28回世界コンピュータ将棋選手権(WCSC28)優勝のHefeweizen、およびWCSC29準優勝のKristallweizen(いずれも居飛車党)の開発者の一人であるたまさんから、以下のコメントをいただきました。
天守閣〜米長玉(端玉銀冠)の流れは、人造棋士18号が持久戦を目指す際にいつもやっていますね。
24のJKishi18gouの棋譜は参考になりますヨ!(^-^)
「JKishi18gou」、通称「JK」は、同じくたまさんが開発した、将棋倶楽部24に常駐している居飛車党のコンピュータ将棋ソフトです。2017年に行われた第5回将棋電王トーナメントに「人造棋士18号」の名で出場していますが、24にいるJKishi18gouは評価関数がより進化しています。
一方、将棋倶楽部24に常駐しているHefeweizenは振り飛車定跡が搭載されているため振り飛車党になっています。なので、24のHefeweizenよりも24のJKishi18gouのほうが、WCSCのHefeweizenに近いと言えます。ちょっとややこしいところです。
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Hefeweizen、振り飛車党に転向?して将棋倶楽部24に参戦中
2018年5月に行われた第28回コンピュータ世界コンピュータ将棋選手権(WCSC28)で優勝した、Hefeweizen。ドイツ南部の酵母入りビールで、濁った白ビールだそうです。このHefeweizenがWCSC28で優勝して以降、異なるスペックだそうですが将棋倶楽部24に参戦しています。
たまさんに上記コメントをいただいてからだいぶ時間が経ってしまいましたが、遅ればせながらJKishi18gouの棋譜を調べてみたところ、確かに天守閣美濃から米長玉(端玉銀冠)への流れを結構採用していました。
24のJKと白ビールの勝局集を作りました。https://t.co/32xJVGL7TV
R2000以上で50手以上指していて、ちゃんと投了しているという条件で抽出し、先手、後手で分けて整理しています。
— たま@Kristallweizen(24参戦中) (@JKishi18gou) July 27, 2019
人造棋士18号の将棋倶楽部24での対局棋譜を公開します。
クリミスやシステム障害でコケてるのとかも入っていますが、そのへんは適当に除いて使ってください。m(_ _)mhttps://t.co/YiEBaiyqyO#JKishi18gou
— たま@Kristallweizen(24参戦中) (@JKishi18gou) January 29, 2018
ただし対三間飛車ではなく対四間飛車での採用が多いようです。
JKishi18gouのレーティングは3300点を超えたあと特例で4300点になっており、当然勝ちまくっているわけですが、天守閣美濃や米長玉が優秀なのか、単に棋力が高いだけなのかはわかりません(苦笑)。
△6四歩型にしてから駒組み
JKishi18gou(以下JK)と高段者(24六段)の方との実戦譜を一局紹介します。
第1図は、先手の六段の方のノーマル三間飛車に対し後手のJKが△6五歩を狙っている(ように見える)局面。
しかしここから実際に△6五歩と仕掛けると、▲7五歩!(参考2図)の反撃があります。
参考2図以下△6六歩には▲7四歩△6五桂▲9五角!(参考3図)が気持ちの良いさばきです。
また、参考2図以下△7五同歩には▲6五歩△7七角成▲同銀(参考4図)。
以下7三の桂が跳ねると▲6四角、△8四飛には▲6六角から▲7五角の王手飛車があり、後手が意外にも動きづらく先手優勢です。△6三金の辛抱にも、▲6八飛や過激に▲6六銀で玉の堅い先手の攻め合い勝ちが見込めます。
話がだいぶ脱線しました。第1図を再掲載します。
本譜はここから上記理由のためJKが仕掛けを見送り、△3二玉と寄ってさらなる駒組み合戦へと進みました。
このように、三間飛車に対し△6四歩型(居飛車が先手の場合▲4六歩型)にしていつでも仕掛けられるようにしてから玉を囲う構想は、プロ棋界や女流棋界で最近よく現れるようになった気がします。
例えば、2019年の11月から12月にかけて行われた第9期リコー杯女流王座戦五番勝負、里見香奈女流王座(清麗・女流名人・女流王位・倉敷藤花) 対 西山朋佳女王・女流王将戦では、2局その構想が登場しました(いずれも里見女流王座が居飛車)。
これもコンピュータ将棋ソフトの影響かもしれません。
天守閣美濃へ
第1図から少し進み、先手は▲8八飛として8筋をケアしてから▲5七銀型美濃囲いに、後手は天守閣美濃に組み上げました(第2図)。
駒組みはさらに続きます。
第2図以下の指し手
▲2六歩 △1二玉
▲3七桂 △2三銀
▲4七金 △3二金
▲4五歩 △4二金右(第3図)
米長玉(端玉銀冠)へ
JKは天守閣美濃からさらに米長玉(端玉銀冠)へと組み上げました。堅い囲いですが、終盤端攻めに対し適切に対処することが必要です。
先手はその間に4筋位取りの高美濃へと進展しました。
その後4筋、7筋、8筋で折衝があり、迎えた第4図。
先手の飛車は8筋から6筋に移動したあと、ふたたび7筋に戻ってきており、7筋からのさばきに活路を見出そうとしているところと言えます。
第4図以下の指し手
△7四歩
▲7六飛 △6五歩
▲7七桂 △7五歩!
▲同 飛 △6四銀
▲7六飛 △7五歩(第5図)
打った直後に突き捨て
いかに強い将棋ソフトでも第4図では7筋を守る必要があり、△7四歩は打たざるを得ません。
その後の▲7六飛から▲7七桂が、自然なようで形勢を悪化させたようです。大駒の動きが窮屈になってしまいました。
打ったばかりの7筋の歩を突き捨てる△7五歩が、盲点になりやすい好手。▲同角は△8七飛成があるので▲同飛ですが、△6四銀から△7五歩打で大駒が詰んでしまいました。
この後のJKの落ち着いた指し回しもさすがの一言です。
第5図以下の指し手
▲7五同角 △同 銀
▲同 飛 △6四角
▲7六飛 △6六歩!
▲6五歩 △8七飛成
▲7四飛 △6七歩成(第6図)
駒は取られる寸前が一番働く
第5図では、▲7五同角に代わって▲9五角?!が悪いながらも最善手だったようです。
本譜は▲7五同角△同銀▲同飛にしっかりと△6四角打。そして▲7六飛に△8七飛成を急がずじっと△6六歩が美しい一手。▲6五歩と打たせてから△8七飛成を決行しました。
以下▲7四飛の局面を見てみると、飛車と歩の2枚で6四の角を「取りに行かされた」格好になっており、先手にとって効率が良くありません。しかも6四の角を取り切らないと▲7三飛成とは行けず、先手は素早く攻めることができません。
第6図以下の指し手
▲6四歩 △5七と
▲同 金 △4八歩
▲同 金 △7七龍
▲同 飛 △同角成
▲7二飛 △6五桂(第7図)
振り飛車のお株を奪う天使の跳躍
先手はようやく▲6四歩として角を取りましたが、JKは作っておいたと金で5七の銀を奪取。△4八歩も先手の美濃囲いを弱体化させるソツのない利かしです。
そして若干損なようでも龍と飛車を刺し違えながら手順に馬を作り、▲7二飛に対し桂得を維持する△6五桂跳ね。馬に紐を付けてもいます。
振り飛車のお株を奪うような桂馬の「天使の跳躍」で、形勢は後手の約+2000点。以下幾ばくもなくJKの勝ちとなりました。
美しい手順と強さは両立しうると感じさせてくれる一局です。
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